株主は本当に会社の所有者と言えるだろうか。そうとも言えない。会社に金を貸した人,つまり債権者こそがまず最初に会社に対して請求権を持っている。その債権者が自分の取り分を得た後に残った価値が株主の取り分となる。株主が会社の所有者と言えるのは,株主以外の誰にも会社がビタ一文借金を負っていない場合だけである。
株主が会社の所有者とは言えなくても,会社の資産に対してコール・オプションを所有していることにはなる。会社の負債を買い取ることで,このオプションは行使される。このオプションの行使価格とはで,借入金額で,失効日は負債の償還期日である。
負債の償還期日が到来した時,株主は会社の資産に対するコール・オプションを行使しないで,オプションを失効させ,社債権者に会社資産を譲り渡してしまうこともできる。ウォール街では,これを俗に「ババをつかませる」と言う。企業の株主が負債の返済に応じず会社を倒産させるのは,こういう場合を言う。ただし,たいていは新たな資金を借り入れて次のオプションに更新できるので,株主はそれまでのオプションを行使し,いったん負債を返済する。
ピーター・L・バーンスタイン 青山護・山口勝業 (2006).証券投資の思想革命(普及版) pp.333-334
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