ある研究では,志願者に3文字の文字列(SXY,GTR,BCG,EVXなど,アルファベット3文字を組み合わせた文字列)のセットを見せて推論ゲームをさせた。研究者は,1セットに含まれる複数の文字列1つを指して,志願者にこの文字列だけ特別だと告げる。志願者に課せられるのは,なぜその文字列が特別なのかを突き止めることだ。つまり,特別な文字列のどの特徴が,他の文字列とちがっているのかを見極めなくてはならない。志願者に文字列のセットを次々見せながら,研究者が特別な文字列を1つずつ指していった。志願者は何ゼット見たところで,特別な文字列の特徴を推論できただろう。半数の志願者が見たセットでは,Tのある文字列が特別な文字列で,各セットに1つだけ含まれていた。この志願者たちは,およそ34セット見たところで,特別な文字列の特徴はTがあることだと突き止めた。あとの半数の志願者が見たセットでは,特別な文字列を特徴づける点は,セットの中でその文字列にだけTが含まれていないことだった。驚くべき結果が出た。文字列のセットをいくら見せられても,だれひとりこの特徴を見極めることができなかったのだ。文字があることに気づくのは簡単でも,犬の遠吠えの例と同じく,文字がないことに気づくのは不可能だったわけだ。
ダニエル・ギルバート 熊谷淳子(訳) (2007). 幸せはいつもちょっと先にある-期待と妄想の心理学- 早川書房 p.136-137.
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