逃れられない,避けられない,取り消せない状況は,心理的免疫システムを起動させる引き金となるが,苦痛が強い場合と同じで,人はそうなると気づかないこともある。例を挙げよう。ある研究で,大学生がモノクロ写真撮影の講座に申し込んだ。各学生は,自分にとって特別な人や場所の写真を12枚撮ったあと,個別レッスンを受ける。教師は1,2時間ほどかけて写真の焼き付けを教え,できのいい写真2枚を仕上げさせる。写真が乾いたところで,学生に,1枚は自分で持ち帰っていいが,1枚は写真サンプルとして提出するよう求める。一部の学生には,いったん写真を持ち帰ったらもう変更はきかないと伝え(変更不可群),他の学生には,いったん写真を持ち帰って気が変わっても,数日中に申し出れば,持ち帰った写真と提出した写真を取り換えられると伝えた(変更可能群)。各学生は写真を1枚選び,それを持ち帰った。数日後,学生に質問調査をし,他の質問といっしょに,持ち帰った写真をどれだけ気に入ったか尋ねた。その結果,変更可能群の学生は変更不可群の学生ほど写真を気に入っていないことが分かった。興味深いことに,べつの学生のグループに,考え直す機会がある場合とない場合では,どちらが自分の写真を気に入ると思うか予測させると,変更できるかどうかは写真の満足度に何の影響も与えないと予測する。どうやら,変更不可の状況は心理的防衛システムを作動させ,われわれはそのおかげで明るい見方を手に入れられるのに,そのことを予期できないらしい。
ダニエル・ギルバート 熊谷淳子(訳) (2007). 幸せはいつもちょっと先にある-期待と妄想の心理学- 早川書房 p.247-248.
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