ところで,N線が妄想であるとの決定は,いつ下されたのだろうか?いや,一度も下されてはいないのである。科学の世界には権力主義的な階層などは存在しないからである。科学には,教義を啓示する神の代理人などいないし,党の綱領を公告する中央委員会なども存在しない。数々の新発見がたどった現実は,宗教界や政界の権力がそれに介入した場合は別として,どれもみな一つのパターンに従ってきたのである。それは,電磁波の数学理論を創設したジェームズ・クラーク・マックスウェルのものとされる次の金言に,最もよく表現されている。光に関する講義の序論で,マックスウェルは次のように述べたといわれる。
光の本質については二つの学説がある。粒子説と波動説である。我々は,これまで粒子説を信奉してきた。しかし現在我々は,波動説を信じている。なぜならば粒子説を信奉していた人たちがみな死んでしまったからである。
アービング・M・クロッツ 四釜慶治(訳) (1989). 幻の大発見 科学者たちはなぜ間違ったか 朝日新聞社 pp.120-121.
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