フロイトは1990年代半ば以降,かなりの批判を受けてきた。研究の手法は酷評され,結論は論理的でないと嘲笑され,理論には欠陥があるとはねつけられてきた。彼は明らかに科学者ではなかったのだ。だが,心理学者ではなく哲学者だったと考えれば,行動科学において少なくともひとつの偉大な功績を残してくれたことをありがたく思えるだろう。フロイトは,人生を筋の通った物語として理解できれば,心の健康にひじょうに役に立つということに,おそらく最初に気づき,理解した人である。フロイトのいわゆる分析の手法は,実際には統合のプロセス,つまり組み立てのプロセスだった。精神的な苦しみを抱えている患者の前に座り,彼らの心理状態の複雑さと履歴を解きほどこうと,計り知れないほどの忍耐力で話を聞いた。そして,何ヶ月か何年かのセラピーの間に,それまでばらばらになっていた患者の人生の断片ー夢や恐怖や感情や子ども時代の記憶ーを拾い上げ,患者にとって(というより,批評家が言うように,より重要なのは彼にとって)意味のある話を作り上げたのだ。患者が経験している精神的な苦しみについて,もっとも説明できるような話を。
スーザン・A・クランシー 林雅代(訳) (2006). なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか 早川書房 p.203-204.
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