かつてカール・セーガンは,科学を正しく理解していない人ほど,疑似科学を受け入れやすいといった。わたしは彼の意見に賛成して,この研究プロジェクトをはじめたーだがいまは,失礼ながら同意できない。アブダクティーはわたしに,人間は色々な信念体系を試しながら生きているということを教えてくれた。これらの信念体系のいくつかは,科学とはほとんど関係ないような強烈な感情の欲求ー社会の中で孤立したくない欲求や,特別な権力や能力を持ちたいという欲求や,宇宙に自分より大きな存在がいて自分を見守っていてほしいという望みなどーに訴えかける。アブダクションの信じ込みは,ただの悪しき科学(バッド・サイエンス)ではない。不幸を説明したり,個人的な問題の責任を回避したりするだけのものでもない。アブダクションを信じることによって,多くの人が精神的な渇望を満たしているのだ。宇宙の中に自分の居場所があることや,自分は大切な存在であることを教え,安らぎをあたえてくれるものなのである。
スーザン・A・クランシー 林雅代(訳) (2006). なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか 早川書房 p.216.
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