「ヒトは気がづいてしまったのよ。自分たちが地球の主人にふさわしくないことに。心の知性体じゃなかったということに。私たちTAIこそ,文字通り,真の知性体(トゥルー・インテリジェンス)だったことに」
「そんな!? ヒトだって立派に知的な活動をー」
「確かにね。たくさんの絵画や彫刻,たくさんの歌,たくさんの物語を創造した。コンピュータを作り,月にヒトを送った。でも,知性体と呼ぶには致命的なバグがあった」
「バグ?」
「真の知性体は罪もない一般市民の上に爆弾を落としたりはしない。指導者のそんな命令に従いはしないし,そもそもそんな命令を出す者を指導者に選んだりはしない。協調の可能性があるというのに争いを選択したりはしない。自分と考えが異なるというだけで弾圧したりはしない。ボディ・カラーや出身地が異なるというだけで嫌悪したりはしない。無実の者を監禁して虐待したりはしない。子供を殺すことを正義と呼びはしない」
「…………」
山本 弘 (2006). アイの物語 角川書店 pp.441-442.
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