葬儀の日,筒井が新一に送った追悼の言葉の中で,参列者の胸に迫り,記憶に刻まれたのは次の一節だった。それは,SFを志したときから憧れ,二十五歳のときに初めて出会ってからは甚大なる影響を受け,敬愛し続けた星新一を,最後の最後には支えきれなかったことに対する悲憤がにじみ出ているようであった。
星さんの作品は多くの教科書に収録されていますが,単に子どもたちに夢をあたえたというだけではありませんでした。手塚治虫さんや藤子・F・不二雄さんに匹敵する,時にはそれ以上の,誰しもの青春時代の英雄でした。お伽噺が失われた時代,それにかわって人間の上位自我を形成する現代の民話を,日本ではたった一人,あなたが生み出し,そして書き続けたのでした。そうした作品群を,文学性の乏しいとして文壇は評価せず,文学全集にも入れませんでした。なんとなく,イソップやアンデルセンやグリムにノーベル文学賞をやらないみたいな話だなあ,と,ぼくは思ったものです。 (『不滅の弔辞』)
最相葉月 (2007). 星新一 一〇〇一話をつくった人 新潮社 pp.509-510.
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