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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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行動にいたる閾値の集合

 集団に見られる不可解な行動を前にしたとき,人がよく口にするのは,群衆が狂気に走ったり分別をなくしたりすること,つまり集団行動や群集心理である。群衆の行動を予測するのがどんな場合でもきわめて難しいのは事実だ。けれども,群衆の気まぐれな行動の背後にある理由は,少なくとも一部は,実際にはそれほど不可解なものではない。1970年代の後半にマーク・グラノヴェターは,ちょっとした数学を使って,このことを見事なやり方で立証している。
 グラノヴェターは,だれにも騒乱に加わる「閾値」があるという発想から出発した。大半の人は理由もなく騒乱に加わることはないだろうが,周囲の条件がぴったりはまったときは——ある意味で,限界を越えて駆り立てられれば——騒乱に加わってしまうかもしれない。パブのあちこちに100人がたむろしていたとして,そのなかには,手当たり次第にたたき壊している連中が10人いれば騒動に加わる者もいるだろうし,60人あるいは70人が騒いでいなければ集団に加わらない者もいるだろう。閾値のレベルはその人の性格によって,またこれは一例だが,罰への恐怖をどの程度深刻に受け止めているかによっても変わってくる。どんな状況におかれても,また何人が参加していようとも,暴動に加わらない人もいるだろうし,反対に,自分の力で暴動の口火を切ることに喜びを覚える人も,ごく少数ながらいるだろう。
 むろん,ある人の閾値を実際に判定するのはかなり難しいだろう。しかし,このことはそれほど重要ではない。理論的に考えれば,だれもがなにがしかの閾値をもっているはずだ。グラノヴェターが述べているように,この閾値とは「問題となっている行動(いまの場合なら暴動に加わること)をする個人にとって,考えられる利益が考えられる犠牲を上回る」ところである。そして興味をそそられるのは,この閾値,というよりむしろ閾値が人によって異なるという事実が,複雑で予測不能な集団の行動にどのような影響をおよぼすかである。
 具体的に示すために,パブにいる100人の閾値を0から99までとし,各人の閾値はその人特有で,同じ閾値の人はいないと考えよう。ある人は閾値1,別の人は2,さらに別の人は3という具合である。このケースでは,大きな暴動は避けられない。閾値ゼロの「過激分子」が口火を切ると,これに閾値1の人が加わり,騒乱は燎原の火のように広がっていって,最後には非常に高い閾値をもつ人までもが呑み込まれてしまう。しかし注目してほしいのは,騒乱の連鎖に加わっているたった1人の人物といえども,その性格次第で結果を微妙に左右してしまうということである。かりに,閾値が1だった人が2の閾値をもっていたとすれば,最初の人物が物を手当り次第にぶち壊しはじめても,残りの人々はただたむろして眺めているだけで,警察を呼ぶことすらしたかもしれない。だれも2番手になって騒ぎに加わろうとしなければ,連鎖反応は生じようもない。
 このようにたった1人の人物の些細な性格のちがいでも,集団全体に大きな影響をおよぼすことがある。けれどもグラノヴェターが述べているように,もしこのような2つの種類の事件を報道する新聞があったとしても,その微妙なちがいを区別することはしないだろう。区別するなら,最初の事件は「過激な連中が放埒な振舞いに加わった」という記事になり,もう一方の事件の記事は「厄介者が狂ったように窓ガラスをたたき割っているのを,分別ある市民たちのグループはじっと見ていた」となるだろう。

マーク・ブキャナン 阪本芳久(訳) (2005). 複雑な世界,単純な法則:ネットワーク科学の最前線 草思社 pp.167-168
(Buchanan, M. (2002). Nexus: Small Worlds and the Groundbreaking Science of Networks. New York: W. W. Norton & Company.)
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