私が主張する日本語の国際普及とは,その主たる目標として先進諸国に日本語の読める人,読書人口を増やそうということに過ぎません。話し言葉までは要求しないのです。これがどのような意味を持つものなのかは日本における外国語学習の歴史を考えてみれば直ぐ分かります。
前にも述べたように日本人の外国語学習のあり方を歴史的に俯瞰して見ると,それは常に殆ど指導者階級に属する人々だけが外国語の書物を読んで理解し,それを日本語に翻訳することだったといえます。何しろ日本は国としても色々な事情で外国人との直接接触もまた相互交流も殆どなかったからです。ですから外国人と会話することなど外国語学習の主目的には含まれていませんでした。日本人は殆ど書物を読むことを通して外国の進んだ技術,新しい考えをどんどんと国内に取り入れたのです。勿論同時に優れた製品の輸入も行われたことは言うまでもありません。
鈴木孝夫 (2009). 日本語教のすすめ 新潮社 p.235
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