日本語を国際普及しようという私の提案の骨子は,これからは諸外国がすぐれた日本の文化や進んだ技術,そして日本人の考えや意見を,日本語の書籍文献を読むことで吸収できるように,日本側として援助できることは何でもやろうということに過ぎません。ですから巨額の金銭的援助を国外における日本語教育進展のために行うのは当然のこととして,日本政府が各国に置いている外交機関の主たる重要業務の中に,当該国での日本文化の普及啓蒙,日本語教育振興のための徹底した援助活動などをはっきりと加えるべきです。これはすでに英米やフランス,そして同じ敗戦国であるドイツなどでもとっくにやっていることです。何しろ日本は戦争を国際紛争解決の手段とすることは絶対にしないことを誓ったのですから,外国との対立や摩擦を解消する日本の外交とは,言葉による他に道がないからです。戦後の日本外務省にこのような「言葉こそが捨てた武器に替わる新しい兵器だ」とする言力外交が,大国日本の生きる唯一の道だという明確な認識が欠けているのは残念でたまりません。
鈴木孝夫 (2009). 日本語教のすすめ 新潮社 pp.235-235
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