もう1つ別の結論も非常に重要である。私たちは,シロアリが廊下をつくる意図を持っていたとか,あるいは働きアリが廊下という何らかの概念を持っていたとか主張する必要はない。廊下は局部的な刺激に対して各個体の集団が示す「創発的(エマージェント)な特性」だ。意外に見えるかもしれないが,そんなわけでもない。読者がこの本を持っている手というものを考えてみよう。あなたが胎児で,手が単純なひれのようなものだったころに,それを構成していた細胞は将来手をつくることを「理解」していただろうか。全部の細胞に何らかの先天的な規則が具わっていて,何か多少とも局所的な刺激,鋳型,勾配などに反応する。それぞれの細胞は分裂,移動,文化,あるいは死ぬことによって反応し,そうやって手が出現(創発)してくる。
マイク・ハンセル 長野敬・赤松眞紀(訳) (2009). 建築する動物たち:ビーバーの水上邸宅からシロアリの超高層ビルまで 青土社 p.140
(Hansell, M. (2007). Built by Animals: The Natural History of Animal Architecture. Oxford: Oxford University Press.)
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