知識が暗黙的に獲得される主要なメカニズムが,最近たがいに独立ないくつかの心理学的実験によって明らかにされている。魔力のようなかくれた機構を明るみに出すものとして,これらの実験について耳にされた方も多いであろう。実はこれらの実験は,つぎのような能力の存在を示す基礎的証拠をなすものである。つまりその能力とは,2つの出来事があって我々がその両方とも知ってはいるが,語ることができるのはその一方だけであるような場合にも,我々はそれら2つの出来事の間に成り立っている関係を捉えることができる,という力のことである。
1949年にラザルスとマクリアリによって示された例にならって,心理学者はこの能力の発現を「潜在知覚」(Subception)過程とよんでいる。この2人は多数の無意味な文字のつづりを被験者に示した。そしてある特定のつづりを示した後では,被験者に電気ショックをあたえた。ほどなくして被験者は,そのような特定の「ショックつづり」が示されるとき,ショックを予想するという反応を示すようになった。しかしどのようなつづりのときにショックを予想するのかを被検者にたずねてみても,被検者は明確に答えることができなかった。被検者はいつショックを予想すべきかを知るようになった。しかし,なぜ彼がそのような予想をするのかを,彼は語ることができなかった。つまり彼は,我々が語ることのできないしるしによって,人の顔を知るときにもっている知識と類似した知識を得ていたのである。
マイケル・ポラニー 佐藤敬三(訳) (1980). 暗黙知の次元ー言語から非言語へー 紀伊国屋書店 p.19-20.
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