忍者ブログ

I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

あのガウスですら騙された

 数学者はいわば証明にとりつかれていて,推論を支える証拠が実験で得られたくらいでは満足しない。このような姿勢に対して,科学の他の分野から驚嘆の声が上がることも多いが,時にはあざけりの声も聞こえてくる。ゴールドバッハの予想は,2001年現在400,000,000,000,000(400兆)までのすべての数について成り立つことが確認されているが,それでも定理としては認められていない。これが数学以外の分野なら,これほど圧倒的な数値データが得られれば,納得できる主張として喜んで受け入れ,ほかのことに関心を移すはずだ。後になって新たな証拠が見つかり,数学の規範を再評価しなければならなくなったとしても,それはそれでかまわないではないか。科学の他の分野にとって十分なことが,なぜ数学にとっては不十分なのか。
 たいがいの数学者は,このような反論を考えただけで震え上がるはずだ。フランスの数学者アンドレ・ヴェイユがいうように,「人間にモラルが不可欠であるように,数学には厳格さが必要不可欠」なのだ。なぜ厳格さが不可欠かというと,ひとつには,数学では証拠の評価がしばしば非常に難しいからだ。数学の中でもとりわけ素数は,なかなかその真の姿をはっきりさせようとはしない。ガウスは素数に関してある予測を行い,それを裏付ける圧倒的なデータが得られたことから,この予測が正しいと考えた。ところが後に理論的に分析したところ,実は間違っていたのである。あのガウスですら騙された。第一印象が正しいとは限らないから,証明が必要なのだ。科学の他の分野では,ほんとうに信頼できるのは実験で得られた証拠だ,という態度が支配的だが,数学の場合は,いかなる数値データも証明なしには信用すべからず,という姿勢が染みついている。


マーカス・デュ・ソートイ 冨永星(訳) 素数の音楽 新潮社 pp.53-54.


PR

TRACKBACK

Trackback URL:

bitFlyer ビットコインを始めるなら安心・安全な取引所で

Copyright ©  -- I'm Standing on the Shoulders of Giants. --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]