他の分野でなら,ある世界像が何十年か後には崩れ去っているということもありうる。しかし数学では,証明のおかげで,たとえば素数に関する事実は,将来なにが見つかろうと決して変わらないと100パーセント保証されている。数学は,いわばピラミッドのような存在で,それぞれの世代は前の世代の業績の上に立ち,足下が崩れる心配などなしに業績を積み上げていくことができる。数学者にとって,この頑強さが魅力なのだ。古代ギリシャ人の打ち立てた業績が今でも正しいといえる科学の分野は,数学以外にない。事物は火と空気と水と土からできているというギリシャ人の信念をあるいは鼻で笑う人もいるだろう。そして未来人たちが,メンデレーエフの元素周期表を,同じように鼻で笑うことにならないとは限らない。しかし数学者はいつの時代も,数学教育の第一歩として,素数について古代ギリシャ人が証明したことを学ぶのである。
マーカス・デュ・ソートイ 冨永星(訳) 素数の音楽 新潮社 pp.54-55.
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