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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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宇宙人に!

 引き金を引くのは恐怖の体験だ。「ある晩,真夜中に目が覚めると,まったく体が動きませんでした」と,スーザンが話を聞いた人物は話し始めた。「怖くなって,何者かが家に入り込んだと思いました。叫びたいのに,まったく声が出ないのです。ほんの一瞬のことでしたが,怖くてもう寝つけなくなるには十分でした」。無理もないことだが,この人物は発生した事実に意味を見つけ,そのほか抱えている問題も解決してくれるような説明を欲しがっている。別の人物は「記憶にある限り,ずっとうつの状態です」と語った。「何かがひどく調子が悪くて,それが何か知りたいのです」。性的な機能不全,体調管理の苦労や,自分を困惑させ悩ませている経験や症状を訴える者もいた。「目が覚めたとき,どうしてパジャマが床に散らばっているのだろうかと不思議でした」「そのころは鼻血がひどかったんです。今は全然です」「背中に丸い傷がいくつもあるなんて,どこでできたのでしょう」
 なぜこうした人々は,こうした症状や心配事の説明として宇宙人による誘拐を選んだのだろうか。「夜中に暑かったからパジャマを脱ぎ捨てたのだろう」とか「太ってきたようだ。少し運動をしなくてはな」「そろそろプロザック[抗うつ剤]を飲むか,カウンセリングでも受ける時期かもしれない」といった,もっと合理的な説明を検討しないのだろうか。睡眠障害やうつ状態,性的機能不全やよくある身体的症状を理由づけられるあらゆる説明がそろっているというのに,なぜよりによって,いちばん無理のある宇宙人による誘拐を選んだのかとクランシーは考えた。現実に体験しない限り誰も信じてくれそうもない出来事を覚えているなどと,なぜ主張できるのだろうか。答は,アメリカの文化にも,「体験者」の欲求や人格にも関わっている。「体験者」というのは,宇宙人に誘拐されたと信じる人々が自称する言いかたである。
 体験者は宇宙人による誘拐について,まず,同じ体験者の話を聞いたりこれに関する話を読んだり聞いたりすることで,自分の症状に対する説明として理屈に合うと信じるようになる。話というのは何度もくりかえされるとすっかりなじんできて,疑っていた気持ちも次第に小さくなるものだ。子どものころに悪魔を見たということを信じてもらおうとするような荒唐無稽な話でさえもである。たしかに宇宙人に誘拐話は,アメリカの大衆文化にも本,映画,トークショーにも,ありとあらゆるところに登場している。そして逆に,この話が体験者たちの欲求にぴったりと合っている。クランシーによって判明したところでは,体験者の大半は伝統的な宗教を与えられて育っているが,途中でこれを捨て,チャネリング(何か高次の存在との特別な能力による交信)や別のヒーリング法に重点を置くニューエイジ思想にのりかえている。彼らは一般の人よりも空想物語や他人からの示唆に影響を受けやすく,情報源の混乱による面倒も起こしやすいし,自分で考えたり直接に体験したことと,テレビで見たり読んだりしたことを混同しやすい傾向もある(シャーマーは,こうした人々とは対照的に,自分が見た宇宙人は60年代のテレビシリーズの産物だと認識している)。おそらく重要な点は,体験者の恐ろしい白昼夢の,感状に訴える激烈さや本人にとっての重要性を,宇宙人ゆう開設ははっきりと形にしてくれたということだろう。彼らにとって,昔からの「睡眠中の金縛り」説は何も心に訴えなかったが,宇宙人誘拐説はまさにリアルに感じられたのだ。

キャロル・タヴリス&エリオット・アロンソン 戸根由紀恵(訳) (2009). なぜあの人はあやまちを認めないのか:言い訳と自己正当化の心理学 河出書房新社 pp.120-122
(Tavris, C. & Aronson, E. (2007). Mistakes Were Made (but not by me): Why We Justify Foolish Beliefs, Bad Decisions, and Hurtful Acts. Boston: Houghton Mifflin Harcourt.)
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