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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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クレッチマー説

 ではクレッチマーが実際に診療をしていたころのドイツ(20世紀前半)は,どうだったのだろうか?おそらくクレッチマーが言った通り,肥満者は融通がきき,親切で温厚(外向的)であり,やせ型は非社交的で物静か,神経質で傷つきやすい(内向的で神経症的)だったと思われる。だからクレッチマー理論が生まれた,と考えるのが自然である。それが100年近くのうちに,なぜ正反対になってしまったのだろうか?
 肥満に対する社会のイメージは,その社会の豊かさで決まる。それが,私の考え方である。つまり,経済的に貧しい国では肥満はポジティブに受け止められるが,社会が豊かになるにつれて肥満のイメージはネガティブになっていくのである。
 貧しい国では,金持ちほど肥満者が多い。十分な量の食料を手に入れるだけのお金を持っているからである。そうなると,肥っていることは富の象徴であり,人びとのあこがれとなる。だから肥満に対するポジティブイメージが社会に拡がる。
 一方,経済的に豊かな国では,富裕層に肥満者が少なく,貧乏な層で肥満者が多い。国が豊かになると,貧しい者でも十分な量の食料を手に入れることができるからだろう。そうなると,肥ることが人びとのあこがれではなくなる。むしろ,(肥満という)不健康な習慣を変えられない意志の弱さ,肥りやすい食品しか選べない貧困の象徴として,肥満が受け止められる。つまり,肥っていることが貧困と無知と意志薄弱の象徴になってしまう。実際にアメリカ女性の肥満の割合は,社会経済的地位の低い女性では(高い女性の)2倍以上におよんでいる。
 欧米の100年を振り返ってみると,クレッチマーが理論を作り上げた20世紀前半は貧しい時代であり,肥満が富の象徴という時代だったのかもしれない。たしかに,チャップリンの映画では,金持ちは肥っていて,貧しいチャップリンはやせていた。そして第2時世界大戦後,欧米が豊かになるにつれて,そして人びとが肥るにつれて,金持ちは「肥らない」ように心がけ始めた。そしてスリムな体型を維持することに人びとはあこがれ,肥満に対するネガティブイメージが拡がった。
 この100年間で,欧米の肥満イメージはこれほど大きく変わってしまった。肥満がポジティブにとらえられていた時代に活躍したクレッチマーの理論がいまの欧米で当てはまらないのは,そういう事情によるものと思われる。したがって,性格と体格の関係は,原因というより結果なのではないか。それが私の考えである。

辻 一郎 (2010). 病気になりやすい「性格」:5万人調査からの報告 朝日新聞出版 pp.61-63

(引用者注:クレッチマー理論は一般の人々の気質やパーソナリティを論じる以前に,体格と精神病理の関連から生じており,そのエビデンスも数多く発表されてきた。引用した文化的価値観の変化仮説が,体格と精神病理との関連も説明可能なのかどうかは考慮しなければならないだろう)
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