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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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アメリカ紙幣の政治家たち

 1ドル札上の初代大統領ジョージ・ワシントンは,就任式では高品質のイギリスの衣服ではなくアメリカのもの(この日のためにコネチカット州で特別に織られたもの)を身につけると主張して譲らなかった。今日なら,こういうこだわりは政府調達の透明性にかんするWTOの協定に抵触することになるだろう。それに,ワシントンはハミルトンを財務長官に任命した本人であり,彼の経済政策にかんする考えをよく知っていた,ということも忘れてはいけない。ハミルトンは独立戦争ではワシントン総司令官の副官を務め,戦争後は彼の政治的盟友となった。
 5ドル札のエイブラハム・リンカーンが,南北戦争中に関税を最高レベルにまで引き上げた保護貿易主義者であったことはよく知られている。また,50ドル札に採用された,南北戦争の英雄から大統領になったユリシーズ・グラントは,自由貿易を強要するイギリスをものともせず,「200年以内にはアメリカも,あらゆる製品の保護をとりやめ,自由貿易を実行できるようになるだろう」と言い放った。
 ベンジャミン・フランクリンはハミルトンの幼稚産業保護論にはくみしなかったが,別の理由から高関税による保護の必要性を主張した。当時アメリカにはただ同然の土地が存在し,労働者はその気なら簡単に工場から逃げ出して農園を始めることができたので(労働者の多くが元農民であったため,これはただの脅しではなかった),アメリカの製造業者たちはヨーロッパの平均よりも4倍も高い賃金を支払わなければならなかった。
 そこでフランクリンは「アメリカの製造業はヨーロッパとの低賃金競争(いまなら“ソーシャル・ダンピング”)から保護されないと生き延びられない」と主張したのだ。この論理は,政治家になった億万長者ロス・ペローが,1992年の大統領選キャンペーンで北米の自由貿易協定(NAFTA)に反対するさいに用いた論理とまったく同じであるそしてこの論理は,アメリカの選挙民の18.9%に支持された。
 しかし,アメリカ自由市場資本主義の“守護聖人”たち,トーマス・ジェファソン(めったに見られない2ドル札に採用)とアンドリュー・ジャクソン(20ドル札に採用)なら,米財務長官の“テスト”に合格するだろう,とあなたは思うかもしれない。
 トーマス・ジェファソンはハミルトンの保護主義には反対だったかもしれない。だが,特許制度を支持したハミルトンとはちがい,特許権を目の敵にした。ジェファソンは,アイデアは「空気のようなもの」だから誰も所有してはいけない,と信じていたのだ。今日の自由市場主義者の大半が特許権など知的財産権の保護を重視している点を考えると,ジェファソンの見解は彼らにはまったくウケないにちがいない。
 では,「庶民」の味方で財政保守主義者(アメリカ史上初めて連邦政府債務を完済した)だったアンドリュー・ジャクソンはどうか?ジャクソン・ファンには申し訳ないが,彼にしても“テスト”に合格できないだろう。ジャクソン政権下では,工業製品にたいする平均関税は35〜40%もの高率だったのである。またジャクソンは悪名高き排外主義者だった。彼が1836年に半官半民の第2アメリカ合衆国銀行(連邦政府が株式の20%を所有)の認可を取り消したとき,外国人投資家(おもにイギリス人)の株式所有が「多すぎる」というのが大きな理由のひとつだった。
 「多すぎる」とはどのくらいだったかというと,わずか30%だった。もし今日,発展途上国の大統領が,アメリカ人が株式の30%を所有しているという理由で銀行の認可を取り消したら,米財務長官は怒り心頭に発することだろう。
 そういうことなのだ。毎日,何千万ものアメリカ人が,“ハミルトン”や“リンカーン”でタクシーに乗り,サンドイッチを買い,“ワシントン”でお釣りをもらって暮らしているというのに,「そうした崇敬される政治家たちはみな,保守・リベラルの別なくアメリカのメディアが何かにつけてこき下ろす,とんでもない保護主義者だった」という事実を知らない。ニューヨークの銀行家やシカゴの大学教授は,“ジャクソン”で《ウォールストリート・ジャーナル》紙を買い,ベネズエラ大統領ウーゴ・チャベスの排外的愚行を批判する記事を読んで舌打ちするが,彼らはチャベスよりもジャクソンのほうがずっと排外的だったことに気づいていない。

ハジュン・チャン 田村源二(訳) (2010). 世界経済を破綻させる23の嘘 徳間書店 pp.103-106
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