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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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やはり人類が

 アリゾナ大学のポール・マーティンは,1970年代に,アメリカ大陸における大絶滅の原因をホモ・サピエンスに求める有名な仮説を発表した。それまで考古学者たちは,先史時代を通じて,アメリカ先住民は少しずつ増えてきたとイメージしていた。しかしマーティンはそうではなかったと考えた。彼の考えでは,移住者たちは人間を恐れない動物たちをさしたる苦労なしに狩り続け,結果として人工を爆発的に増加させたのだ。これだけではただの空想に過ぎないので,彼は理論的に自説が可能であるかどうかを,シミュレーションを行なって確かめようとした。小さな集団からスタートした祖先たちが,動物を大量に狩り続け,かつテリトリーを急速に広げていくには,拡散の前線でどんどん人口が増えていく必要がある。人口が増えないと,一定量の狩りを行いながらテリトリーを広げるという前提が破綻してしまうからだ。シミュレーションの結果,年間16キロメートルの前進速度と,1.4〜3.4%程度の人口増加率を想定しさえすれば,当初100人程度の小さな祖先集団でも,人口を増やしながら1000年ほどで南アメリカの南端にまで広がりうることが示された。
 マーティンのモデルには,様々な批判がある。設定された人口増加率が高すぎるというものや,人々が移動を続けている前線での人口は常にそれほど多くはなかったろうというものなどだ。実際に遺跡証拠からは,最初のアメリカ人の集団が,人口密度の高い前線を保って南下したという証拠は得られていない。しかし先に述べたように,環境変動だけでは,やはり絶滅を十分に説明しきれない。さらに第7章で触れたように,最近ではオーストラリアにおいても,大型動物の大絶滅にホモ・サピエンスが関与していた可能性が高まっている。マーティンのモデルの細かい点が妥当かどうかは別として,私たちの祖先が大絶滅の原因をつくったと認めるほうが,おそらく現実的なのだろう。新天地にいた逃げ出さない動物たちを相手に,祖先たちは必要以上の狩りを行ったのではないだろうか。祖先たちが自然の恵みに限りがあることに気づいたのは,おそらく私たち現代人の場合と同じで,得られるものがなくなってきてからだったのかもしれない。

海部陽介 (2005). 人類がたどってきた道:“文化の多様化”の起源を探る 日本放送出版協会 pp.269-270
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