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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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先延ばし=ドラッグ

 先延ばしを薬,ドラッグの一種だと考えてみよう。気分を変えてくれる薬,若干依存性があって,大量に摂取すると有害で,一種の変性意識の状態,つまりうろうろふらふらする特殊な気分に導いてくれる薬だ。こういう見方をすると,先延ばしは自己コントロール問題の主流にどっかりと座ることになる。自己コントロールの問題の多くには,自己治療という大きな要素があるからだ。よくわかる例がドラッグ依存やアルコール依存だが,強迫性障害も不健康な行動パターンによって,たとえ一時的であれ不安を解消しようとしている。ドアの鍵や蛇口をもう一度確認したいという思いはかゆみのようなもので,かけばそのときはすっきりする。
 仕事をしなければならないと思うと不安になったり落ち込んだりするときには,自己治療したくなるのも無理はない。だから先延ばしは気分転換の技術なのだが,ただし(食べたりドラッグを使用したりするのと同じで)近視眼的ではある。だが,それで気分が良くなると思えば,どうしたって先延ばししたくなるだろう。自己コントロールに関してはアメリカで有数の研究者である心理学者ロイ・バウマイスターと2人の共同研究者が88人の大学生を対象に調査を行なっている。大学生たちはアロマテラピーと色彩が気分に与える影響を調べる実験だと告げられた。また数学を含む知能テストもすると知らされ,10分から15分練習すると点数が上がると言われた。しかし準備の時間は好きなように使っていい。部屋にはさまざまな「暇つぶしの道具」が備えられていた。
 学生たちの一部はつまらない「暇つぶし」(幼稚園生対象のパズルや古い技術雑誌など)しか与えられなかったが,別の学生たちにはおもしろい「暇つぶし」(ビデオゲーム,やりがいのあるプラスチック製パズル,人気のある雑誌の最新号など)が与えられた。それから学生たちは気分が良くなる,あるいは悪くなる文章を読むように指示された。また一部の学生は確実に気分を鎮める効果があるキャンドルの香りを嗅いでくれと言われた。もともとアロマテラピーに関する調査ということになっていたからだ。
 この実験から何がわかったか?いちばん先延ばしがひどかったのは,気分が悪くなっていて,しかも嫌な気分を変えることができると考え,さらにおもしろい「暇つぶし」の道具を与えられた学生だった。このグループの学生たちは15分の準備時間のうち14分をサボって過ごした!自分の嫌な気分は変わらないと思った(気分を良くするキャンドルを与えられなかった)学生がサボった時間は6分未満だった(気分が良くなった学生でも,気分を変えられると思った者はもう少しサボった時間が長かった)。
 この実験からわかるのは,私たちが先延ばししてサボることで気分が良くなると思っていることだ。だがこの治療法は病気よりも始末が悪い。仕事を先延ばしにすると,ふつうはますます不安になり,落ち込む。仕事にとりかかったと考えてみよう。eメールをチェックするのも,ほかの一時的な気晴らしを選ぶのも自由だ。だがデスクからは離れない。キーボードを前にしている!それでも目の前にある抜け道を通り,『フィナンシャル・タイムズ』の記事を読んだり,eBayで格安商品を探したりして気晴らしをしたくなる。劣等感について解明してくれた偉大な心理学者アルフレート・アドラーは,神経症とは「無意識の抑圧ではなく,手に負えない作業を回避しようとする意図的な策略である」と考えていた。この基準からすれば,先延ばしはまさに神経症だろう。

ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.277-279
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