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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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それは違う

 一体,マスコミは何を問題にしていたのだろうか。
 彼らは未履修問題を「悪]として報じていた。なぜか。それが学習指導要領に「違反」するからだ。さらには,違反した理由がけしからん,と言うのだ。それは受験指導のためだったからだ。進学校は,進学実績を上げるために奔走し,教員と生徒が一丸となって受験対策に邁進している。そのために,健全な教育がゆがめられている。こうした背景には依然として学歴社会が影を落としており,ゆがんだ受験指導がある。
 これが彼らのイメージなのだろう。しかし,これがまるで違うのだ。
 第1に,大学はすでに全入であり,一部を除けば入ることは簡単なのだ。慥かに東大などの難関校はあるが,今回の未履修で問題になった中で,そうした大学を対象とする進学校は一部でしかない。むしろ問題は,大学受験が多様化などで簡単になりすぎており,それがかえって高校教育の細分化,断片化をもたらしていることなのだ。
 第2に,「教員と生徒が一丸となって受験対策に邁進する」ような高校はいまや日本のどこにも存在しないだろう。高校生はもっとあっけらかんとしており,上位大学への執着は弱い。できるだけ「安全」に,負担を小さく,少しランクを落としてでも,しんどい思いを早く終わりにしたい。そうした高校生に手を焼いているのが実情なのだ。
 第3に,「学歴社会」の重圧など今の高校生は感じていない。多くの場合は無目的で浮遊している。東大を目指している層でも,この点では変わらない。
 マスコミはいまだに,「受験勉強」か「健全な教育」か,「詰め込み」か「ゆとり」か,といった対立軸でしか語れないでいる。もはやこうした古い図式では,今の状況をとらえられないのである。

中井浩一 (2007). 大学入試の戦後史:受験地獄から全入時代へ 中央公論新社 pp.37-38
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