忍者ブログ

I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

効果的な面接法

 そこで私は,面接官がいくつかの人格特性を評価し,それぞれに個別に点数をつける方式を採用した。面接官からのインプットはこの個別の点数だけで,戦闘任務の適性を示す最終スコアは,計算式に従ってコンピュータ処理する。私は戦闘部隊での行動に関係があると考えた6つの人格特性(責任感,社交性,誇りなど)のリストを作成し,それぞれについて一連の質問を準備した。招集前の生活における過去の事実を尋ねる質問で,たとえば就いた職業の数,職場および学校での遅刻や欠席・欠勤,友人と交際する頻度,スポーツに対する興味と参加の度合いなどである。その趣旨は,それぞれの分野で過去にどれだけうまくやってきたかをできるだけ客観的に評価することにあった。
 標準化された事実確認質問を行うに当たって,私はハロー効果を排除したいと考えた。ハロー効果は,第一印象がその後の判断に影響を与える現象である。ハロー効果を防ぐために,私は面接官に対し,6つの人格特性について決められた順序で質問すること,次の質問に移る前に5段階で採点することを指示した。そして,それ以上のことをしてはいけない。新兵が軍隊でどれだけうまくやっていけるかなど,彼の将来のことを考える必要はない,と私は面接官たちに伝えた。面接官の仕事は新兵の過去について必要な事実を聞き出し,その情報を項目ごとに採点することであって,それ以上でも以下でもない。「あなた方の任務は信頼性の高い採点を行うことだ。将来予測のほうは私が行う」と私は言ったが,その「私」というのは,面接官の採点を統合する数式のことだった。
 こう言うと,若くて頭のいい面接官たちは暴動寸前になった。自分とほとんど年のちがわない相手から命令されることが不快だったし,自分の直感を遮断して退屈な事実確認質問だけをするのも気に入らなかったからである。1人はこう不満をぶちまけた。「それでは私たちはロボットになってしまいます」。そこで私は妥協した。「面接は指示通りに確実に実行してください。そして最後に,あなた方の希望通りにしましょう。目を閉じて,兵士になった新兵を想像してください。そして5段階でスコアを付けてください」。
 新方式で数百回の面接が行われ,数カ月後に新兵が配属された各部隊の隊長から各人の実績評価を回収した。結果を見て私たちは大いに満足した。ミールの本が示したとおり,新しい面接方式が従来の方式よりはるかに正確に兵士の適性を予測していたからだ。もちろん完璧にはほど遠く,「まったく役立たず」から「いくらか役に立つ」へと進歩した,と言うのが適切だろう。
 私にとって大きな驚きだったのは,「目を閉じて」面接官が最後に行う直感的判断も,非常によい成績だったことである。実際,6項目の採点の計算処理と同じぐらいの精度だった。この発見から学んだ教訓を私はけっして忘れたことはない。選抜面接において直感を軽蔑するのは正しい。しかし直感が価値をもたらすこともある。ただしそれは,客観的な情報を厳密な方法で収集し,ルールを守って個別に評価した後に限られる,ということである。私は「目を閉じる」評価にも6項目評価と同じ重みを持たせた計算式を作成した。この件から学んだもっと一般的な教訓は,こうだ。自分の直感であれ他人の直感であれ,直感的判断を無条件に信用してはいけない。だが無視してもいけない,ということである。
 45年後,ノーベル経済学賞を受賞した私は,一時的にイスラエルでちょっとした有名人になった。一度同国を訪れたとき,誰かが私を懐かしの基地に案内してくれたものである。そこにはまだ新兵の面接を行う部隊があり,私は心理部隊の隊長に紹介された。彼女は現在の面接方式を説明してくれたが,それは私が設計したシステムとほとんど変わっていなかった。あれから何度も調査が行われたが,この方式は有効だということが確かめられたという。説明の最後に隊長はこう言った。「そして私たちは面接官にこう言います。目を閉じてください,と」

ダニエル・カーネマン (2012). ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?(上) 早川書房 pp.333-335
PR

bitFlyer ビットコインを始めるなら安心・安全な取引所で

Copyright ©  -- I'm Standing on the Shoulders of Giants. --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]