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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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儲かるベンチャーキャピタリストとは

 数年前,当時クレアモント大学院にいた心理学者のジェフ・スマート博士は,51人のベンチャーキャピタリストを対象にした研究を行った。ベンチャーキャピタリストたちは高いリスクを冒し,数億円を無名の新興企業に投資する。決算書や過去の業績を分析できる,ある程度確立した会社に投資するパブライ氏やクック氏たちとは違い,彼らは若く野心的な起業家が描く荒削りな夢に大金を賭けるのだ。起業家たちが掲示できるのは,1枚の紙に描かれた落書きや,ろくに動かない試作品だけ,ということも多い。だが,グーグルやアップルもそのようにして始まった。ベンチャーキャピタリストたちは,次のグーグルを見つけ,それを所有しようとしているのだ。
 彼らはいったいどうやって投資の判断をしているのだろう。スマート博士は調べてみた。アイデアの質が最も重要な判断材料なのだろうと私は思っていたが,そうではないらしい。実は,良い起業アイデアを見つけるのはそれほど難しくない。だが,良いアイデアを実現させられるような人物を見つけるのはとても難しいそうだ。アイデアを具体的な形にし,朝早くから夜遅くまで働き,プレッシャーや挫折に耐え抜き,人の問題にも物の問題にも対処し,何年間も努力を続けられるような人が望ましい。だが,そのような人材は希少で,運良く目の前に現れても,それに気づくのは難しい。
 スマート博士はベンチャーキャピタリストたちを研究し,彼らが人物を見分ける方法を十数種類に分類した。方法と言うより,流儀と言った方がいいかもしれない。まず,「美術評論家」タイプ。彼らは起業家を一目で判断する。美術の評論家が絵画を見る時のように,勘と長年の経験を元に一瞬で決める。「スポンジ」タイプは時間をかけて調べる。面接,会社の見学,資料などから,ありとあらゆる情報を吸収する。だが,結局最後は直感に任せる。あるスポンジタイプの投資家に言わせると,「調べるというより,時間をつぶすという感じかもしれない」そうだ。
 「検察官」タイプは起業家を問い詰める。難問を投げかけ,知識があるか,様々な状況にどう対応するかなどを試す。「八方美人」タイプは,審査よりも,起業家に好かれることに専念してしまう。「ターミネーター」タイプは,起業家を評価するのは無理だと考え,人物の審査をしない。とにかく一番よいアイデアに投資し,経営者が無能だと思えば,すぐにクビにして代わりを雇う。
 そして「機長」タイプ。彼らは過去のミスや同業者の失敗を分析してチェックリストを作り,それを使って丁寧に仕事をする。この人なら絶対に成功すると直感的に思っても,自分を律し,手順を絶対に飛ばさない。
 スマート博士がベンチャーキャピタリストたちの成績を追ってみると,あるタイプが飛びぬけて好成績を収めていた。ここまで本書を読んでくださった方々ならば,どのタイプかおわかりだろう。機長タイプの成績が突出していた。彼らが不適任を理由に経営者をクビにする,または当初の評価は間違いだったと結論付ける確率はわずか10%,他のタイプでは50%以上だった。
 収益にも大きな差があった。機長タイプの投資リターン率の中央値は80%だったが,他タイプは35%以下だった。決して他タイプの成績が悪かったわけではない。きっと彼らの経験がものをいったのだろう。だが,経験にチェックリストが加わると,断然良い成績をあげられるのだ。

アトゥール・ガワンデ 吉田 竜(訳) (2011). アナタはなぜチェックリスト使わないのか?:重大な局面で“正しい決断”をする方法 晋遊舎 pp.195-197
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