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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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嫌悪感は気持ちが決める

 私はチーズ好きだが,虫はどうしても苦手だ。だから,難題となる発酵食品は,カース マルツゥである。カース マルツゥはイタリアのサルディーニャ島でよく食べられている羊のチーズだ。「腐ったチーズ」,俗に「うじ虫チーズ」と呼ばれていることからもわかるように,このチーズには文字どおり生きたうじ虫がひしめいている。このうじ虫チーズを作るには,まずこの地方で作られる羊のチーズ,ペコリーノ サルドの厚切れを用意する。そのチーズは,通常の発酵を通り越し,腐っていると思われかねない状態まで,放置する。腐敗していく途中で,チーズバエの幼虫が加えられ,このハエの消化器官から出された酸がチーズの脂肪分を分解するためそのまま分解が進むとチーズは最後にとても柔らかくなり,どろりとする。食べ頃になったカース マルツゥには通常,何千もの幼虫が宿っている。それどころか,地元の人々は,幼虫が死んでいるカース マルツゥは危ないと考えている。そのため,生きた幼虫が蠢いたままで,供される。
 この幼虫は,白く透き通った蠕虫,つまりうじ虫で,太町はおよそ8ミリほど。うじ虫を取り除いてからチーズを食べる人もいるが,取り除かず食べる人もいる。うじ虫がまだ蠢いている状態でこのチーズを食べる時には,この無視が自分やあたりの何かをめがけて飛びかかってこないように,手でチーズを覆う必要がある。刺激を与えると,うじ虫たちは15センチもの高さまで跳ねることがあるからだ。このチーズは,サルディーニャ特産のパンと強い赤ワインと一緒に食することが多い。このカース マルツゥさえ「食べてはいけないチーズ リスト」に載せておけば大丈夫,などと思ってはいけない。ヨーロッパの他の国々でも,生きた昆虫を使ってチーズを醸成しているのだから用心が必要だ。たとえば,ドイツのミルベンケーゼやフランスのミモレットは,どちらもチーズの熟成や風味を出すのに,ダニの力を借りている。
 ここまで読んで,こうした数々の発酵食品への私の説明にあなたが嫌悪感を覚えたとしても,無理はない。最も原始的な嫌悪感情の生来の目的は,私たちが,腐敗して毒性をもつ食べ物を口にしてしまうのを避けさせることにあるからだ。だとしたら,なぜ,発酵した唾液や腐敗したサメやうじ虫蠢くチーズが,これほどまでに私たちを惹きつけるのか?これは単に,腐敗のありとあらゆるシグナルを放つものを食べたがってしまう,という人間のおかしな矛盾にすぎないのだろうか?そうではない。ほとんどの場合,何かに嫌悪感をいだくか否かというのは,見る側の気持ちが決めるものだからだ。

レイチェル・ハーツ 綾部早穂(監修) 安納令奈(訳) (2012). あなたはなぜ「嫌悪感」を抱くのか 原書房 pp.8-9
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