忍者ブログ

I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

森林破壊事例

イースター島を総体的に描けば,太平洋における森林破壊の最も極端な事例となり,世界的にも,かなり極端な部類に属する事例だといえるだろう。なにしろ,森林が丸ごと姿を消したうえ,全種の樹木が絶滅したのだ。その結果としてただちに島民に襲いかかったのが,原料の欠乏,野生食糧の欠乏,作物生産量の減少という事態だった。
 原料については,完全になくならないまでも,入手できる量が激減した。これは在来の植物と鳥類から得られるすべてのもの,つまり木,縄,布を作るための樹皮,羽根などに当てはまる。大型の木材と縄の不足により,石像の運搬と設置だけでなく,航海用のカヌーの製造も終局を迎えることになった。1838年,水漏れする小さなふたり乗りのカヌーが5艘,イースター島から漕ぎ出してきて,沖合に投錨したフランス船で物々交換を行なったときのことを,そのフランス船の船長が記している。「島民の全員が,興奮したようすで何度も“ミル”という言葉を繰り返し,意味が通じないと見ると,いらだち始めた。この言葉は,ポリネシア人がカヌーの製造に使う木材の名前だった。島民たちが最も望んだのはその木材であり,あらゆる手を使ってそのことをわれわれに理解させようとした……」。イースター島最大にして最高の山を指す“テレヴァカ”という名前には,“カヌーを手に入れる場所”という意味がある。テレヴァカ山の斜面から樹木が除去されて農園に姿を変える前は,その樹木が木材として利用され,今でも,その時期に使われた石製の錐,掻器もしくは削器,小刀,のみなど,木工とカヌー製造のための道具が山中に散乱している。大型の木材が欠乏するということは,風と激しい雨と摂氏十度の気温に見舞われるイースター島の冬の夜を,薪なしで過ごすことを意味する。1650年以降,イースター島の住民たちは,薪代わりに草,芝,そしてサトウキビなどの農作物の屑を燃料に使わざるを得なくなった。屋根葺き材,住居用の小型の木材,道具の材料,布の材料を求める人々のあいだでは,残された灌木を巡る激しい争いが繰り広げられたことだろう。従来の葬儀方式さえ,変更を余儀なくされた。1体ごとに多量の燃料を要する火葬が不可能になり,遺体をミイラにして土葬する方法へと移行していったのだ。

ジャレド・ダイアモンド 楡井浩一(訳) (2005). 文明崩壊:滅亡と存続の命運を分けるもの(上巻) 草思社 pp.171-172
PR

bitFlyer ビットコインを始めるなら安心・安全な取引所で

Copyright ©  -- I'm Standing on the Shoulders of Giants. --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]