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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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天気のように

21世紀にも,戦時下で女性がレイプされることはたしかにあったが,それが凶暴な戦争犯罪と見なされるようになって久しい。ほとんどの軍はレイプを未然に防ごうとするし,仮に起きれば否定したり隠したりしようとする。けれども『イリアス』に登場する英雄たちにとって,女性の肉体は正当な戦利品だった。彼らにとって女性は意のままに楽しみ,独占し,捨てられるものだったのだ。メラネウスががトロイア戦争を始めたのは,妻のヘレネが誘拐されたからであり,アガメムノンは女奴隷をその父親に返すことを拒んだためにギリシアに災いをもたらす。やがて娘を返すことを承諾した彼は,代わりにアキレウスの愛妾を横取りしてしまう。だがその後,埋めあわせのために28人もの奴隷を渡す。「わたしは幾度も眠られぬ夜を暮らし,昼は血なまぐさい戦いに明け暮れた——それも奴らの抱く女を得るために敵と戦って」。オデュッセウスは20年の不在ののちに妻のもとに戻り,誰もが自分が死んだと思っていたあいだに妻に求婚した男たちを皆殺しにしてしまう。さらにその男たちが,彼の家の妾たちと通じていたことがわかると,オデュッセウスは息子に命じて妾たちも殺させてしまう。
 こうした大量殺人とレイプの物語は,現代の戦争ドキュメンタリーの基準からみても物騒きわまりない。ホメロスや彼の描いた人物たちは,たしかに戦争が浪費であることを嘆き悲しみはしつつも,ちょうど天気のように,それを避けられない人生の現実として受け入れている——誰もが話題にはするが,どうにかすることはできないものとして。

スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.34
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