また日本語では対話や議論が対立的になりにくいもう一つの理由は,自称詞と対称詞が多くの場合話し手と相手の間の上下関係を構造的に取り込んでいるからだと思います。父親と議論するような場合,相手を「お父さん」と呼ぶことは,そのことで自分を息子つまり相手の目下と自己規定してしまうわけですから,初めから立場が弱いわけです。あるアメリカの論文で,父親をどう呼ぶかの調査の対象となったある青年が,自分は父親と議論するときは,絶対に Father と呼びかけることはせず,一貫して you を使うことにしていると答えていますが,日本語では言語上これが出来ないのです。