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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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記憶の歪み

 ブラウンとクーリックのフラッシュバルブ記憶説にもとづいて,記憶の正確さを調べる実験がいくつかおこなわれている。その多くは悲劇的な事件の直後の記憶を集め,同じ対象者に数か月後,あるいは数年後にもう1度話を聞くという形がとられた。これらの実験では,フラッシュバルブ記憶が(いかに豊かで鮮明ではあっても),ふつうの記憶と同じようにゆがむという結果が一貫してでている。1986年1月28日の朝,スペースシャトル,チャレンジャー号が打ち上げ間もなく爆発した。その翌朝,心理学者ウルリック・ナイサーとニコル・ハーシュは,エモリー大学の大学生たちに,自分が爆発事故について知っていたいきさつを書いてもらったあと,細かく質問をおこなった。それを知ったのは何時だったか,そのときなにをしていたか,誰から教えられたか,ほかに誰かいいたか,事故についてどう思ったかなどである。直後に書かれたこのようなレポートは,実際にあったできごとに関する最良の記録的証拠になる——ボビー・ナイトとニール・リードの事件で,首をしめたかどうかビデオが事実を記録していたように。
 その2年半後,ナイサーとハーシュは,同じ学生たちにチャレンジャーの爆発事故について同様なアンケートに答えてもらった。すると学生の記憶は大幅に変わっていた。自分が事故について知ったいきさつに合わせて,ありそうではあっても実際にはなかったできごとが,混じり込んでいたのだ。たとえばある学生は,事故の翌日のレポートに,自己についてはスイス人の学生Yから聞かされ,部屋でテレビをつけるように言われたと書いた。聞いたのは午後1時10分,車で出かけられなくなるのが心配だった。一緒にいたのは,友人Zだった。ところが同じ学生が2年半後には,授業のあと寮に帰ると,入り口のホールでみんなが騒いでいたと書いている。そしてXという友人から事故のことを聞き,テレビをつけて爆発時の映像を見た。時刻は午前11時半,自分の部屋にもどったあと,自分以外には誰もいなかった。つまり,ときとともに事故について知ったいきさつ,知った時刻,一緒にいた仲間についての記憶が変わっていたのだ。
 こうした食いちがいにもかかわらず,学生たちは数年前の自分に関する記憶に,驚くほど自信をもっていた。それはできごとを非常に鮮明に思い出せるためだった——これもまた記憶の錯覚作用である。2度目の調査のとき,アンケートに書き込んでもらったあとの面接で,ナイサーとハーシュはチャレンジャー号爆発の翌日書かれた回答を,本人に見せた。学生の多くは,自分が以前に書いた回答と現在もっている記憶の食い違いにショックを受けた。そしてなんと,以前書いたものを見て,自分の記憶ちがいを認めるよりも,自分の「現在の」記憶のほうが正しいと言い張る学生のほうが多かったのだ。

クリストファー・チャブリス&ダニエル・シモンズ 木村博江(訳) (2011). 錯覚の科学 文藝春秋 pp.96-98
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