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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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10%神話

 「ふつうの人は,脳の潜在能力を10パーセントしか使っていない」この項目には,回答者の72パーセントがイエスと答えた。広告や自己啓発書の喜劇のネタに使われやすいこの不思議な説は,かなり前から信じられており,その出所を探る有名な研究をおこなった心理学者もいる。ここには,可能性の錯覚がもっとも純粋な形で示されている。私たちが,脳を10パーセントしか使っていないとしたら。使い方を知らないだけで,90パーセントの能力がまだ眠っていることになる。だがこの信仰には,問題が多すぎる。第1に,人の「脳の潜在能力」を計測する方法も,その能力のうち個人がどれくらい使っているかを計測する方法も,知られていない。第2に,どんなたぐいの活動であれ,長いあいだ働いていないと脳組織は死んでしまう。そこで,もし私たちが脳の10パーセントしか使っていない場合,奇跡の蘇生や脳移植がない限り,その割合を増やせる可能性はない。最後に,進化が——あるいは神が——,その9割もが使えない器官を私たちに用意するだろうか。大きな脳は,人間という種の存続にとって明らかに危険である——脳は産道を通過できる大きさである必要があり,大きな頭は出産時に死をもたらしかねない。人の脳のごく一部しか使っていなかったとしたら,自然選択によって脳はとっくの昔に小さくなっていただろう。
 この「10パーセント神話」は,MRIやPETなどの脳画像技術が発達するはるか以前に出現したのだが,画像化された脳に対する誤った解釈が,神話の影響を強めた可能性もある。神経科学の研究結果として,脳の活動を映した写真(脳ストリップ)がメディアで紹介されるとき,脳の大部分は暗く,明るい色がついた部分はほんの一部だ。だが,色のついた部分は,脳の「活動的な」部分を示すものではない——それが示しているのは,状況や個人差に応じてほかより活発になる部分である。脳全体はつねに(少なくとも基本的な活動レベルでは)「オン」の状態にある。そしてあなたがどんな行動をするときも,脳の広範囲にわたる部分が活動を開始する。というわけで,脳を「これまで以上に」使っても,もちろん日常的な錯覚を避けることはできない。

クリストファー・チャブリス&ダニエル・シモンズ 木村博江(訳) (2011). 錯覚の科学 文藝春秋 pp.252-253
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