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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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不幸になる権利

 「V・P・Sって?」
 「激情代用薬(Violent Passion Surrogate)のことさ。規則的に毎月1回だ。身体の全組織にアドレナリンを充満させるのだ。恐怖と怒りの完全な生理的代用物だ。デズデモーナを殺したり,またオセロの手で殺されたりする,あの強壮剤的効果には一切欠けるところがなく,しかも何らの不都合はともなわぬのだ」
 「しかし,わたしはその不都合が好きなんです」
 「われわれはそうじゃないね」と総統は言った。「われわれは物事を愉快にやるのが好きなんだよ」
 「ところが,わたしは愉快なのがきらいなんです,わたしは神を欲します,詩を,真の危険を,自由を,善良さを欲します。わたしは罪を欲するのです」
 「それじゃ全く,君は不幸になる権利を要求しているわけだ」とムスタファ・モンドは言った。
 「それならそれで結構ですよ」と野蛮人(サヴェジ)は昂然として言った。「わたしは不幸になる権利を求めているんです」
 「それじゃ,いうまでもなく,年をとって醜くよぼよぼになる権利,梅毒や癌になる権利,食べ物が足りなくなる権利,しみだらけになる権利,明日は何が起こるかもしれぬ絶えざる不安に生きる権利,チブスにかかる権利,あらゆる種類の言いようもない苦悩に責めさいなまれる権利もだな」
 永い沈黙が続いた。
 「わたしはそれらのすべてを要求します」と野蛮人はついに答えた。
 ムスタファ・モンドは肩をそびやかした。「じゃ,勝手にするさ」と彼は言った。

ハックスリー 村松達雄(訳) (1974). すばらしい新世界 講談社 p.278-279
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