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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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重要なプロジェクト

嘘をつくのは人間の性である。正直な社会など存在した試しがないし,これからもありえない。そして,嘘や偽善の程度をはかる方法はないのだから,どこかの社会がほかより不正直だと見なす根拠もない。むしろ,文化のちがいが表れるのは,嘘にどう対処するかであり,どのような嘘を批判し,どのような制度を作って嘘を暴くかである。嘘を暴くために科学技術に目を向けたのはアメリカだけである。ポリグラフは医療技術を利用した平凡な機械にすぎず,使われている生理学機器はどの先進国でも1世紀前から入手できた。にもかかわらず,それに尋問という新た目的を与えた国はアメリカ以外にない。
 嘘発見器がアメリカで歓迎されたのは,この装置が20世紀の重要なプロジェクトのひとつで一定の役割を果たせると期待されたからである。そのプロジェクトとは,集団生活の根幹にかかわる道徳的な問題を——どうやって公正な社会を実現するかという問題を——法的に解決することが目的だった。これを実現するにあたって,われわれの市民生活に関するふたつの高尚な真実が——しかし一部しか真実ではない思い込みが——プロジェクトの正当化に使われた。民主主義には社会生活の透明性が欠かせず,正義には万人に対する平等な扱いが欠かせないとする思い込みである。共通の歴史や民俗的な近似性ではなく,明確な政治的契約によって誕生したアメリカという国の人々は,人々の対立も明確な公的ルールによって解決したいと——裏では汚い手が使われるにせよ——願ってきた。そしてこのルール自体が公正ではないと抗議されないよう,最も客観的で最も透明性に富む形でルールを決めてくれるはずの科学によってそれを正当化しようとした。社会契約の原罪たる嘘を,アメリカ人が科学という薬を大量に用いることで治療したがるのは,ここから来ていると言える。

ケン・オールダー 青木 創(訳) (2008). 嘘発見器よ永遠なれ:「正義の機械」に取り憑かれた人々 早川書房 pp.362-363
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