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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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ナイフの使い方

新しい礼儀作法が定着するにつれて,それは暴力的な装具——とくに短剣——にも適用されるようになった。中世にはほとんどの者が短剣を携帯しており,夕食の際に直火で焼いた動物の死骸から肉を切り取り,突き刺して口に運ぶのに使っていた。けれども大勢が集まる席に凶器を持ち込むことや,短剣を顔に向けることが呼び起こすおぞましいイメージが,しだいに忌避されるようになった。エリアスは短剣の使い方に関する礼儀作法を多数引用している。

 短剣で歯の掃除をしないこと・短剣を持ったまま食事するのはやめ,使うときだけ手に取ること・食べ物を短剣の先に刺して口に運ばないこと・パンは切らずに手でちぎること・人に短剣を渡すときは先端を手で持ち,柄の部分を相手に差し出すこと・短剣を持つときは杖のように手全体で握るのではなく,指で持つようにすること・短剣で人を指ささないこと

 食卓でのフォークの使用が一般的になったのはまさにこの移行期であり,人びとは短剣で食べ物を突き刺して口に入れる必要はなくなった。短剣を鞘から抜かなくてもいいようにテーブルには特別のナイフが用意され,そのデザインも先端が尖ったものではなく丸いものとなった。ナイフで切ってはいけないとされる食べ物もあった——魚,丸いもの,パンなどだ。break bread together(一緒にパンをちぎる→食事をともにする)という言い回しはここから生まれた。
 中世の短剣にまつわるタブーのいくつかは,今日も残っている。ナイフを人に贈るときにはコインを一緒に渡し,贈られた側はそのコインを贈り主に返すという習わしもその1つだ。これによってナイフは,かたちのうえでは売ったことになる。ナイフが「友情を断ち切る」ことのないように,というのが表向きの理由だが,実際には相手が要求していないナイフを相手の方に向けることになる不吉さを,回避するためだと考えたほうがよさそうだ。これと似た習わしに,ナイフを直接相手に手渡すのは縁起が悪いというものがある。渡すときはいったんテーブルの上に置き,相手がそれを取るのがいいとされる。テーブルにセットされるナイフは先端が丸いものとなり,その切れ味も必要以上であってはならない。硬い肉を切るためにはステーキナイフがセットされ,魚料理には普通より切れ味の悪いナイフがセットされる。さらに,ナイフはどうしても必要なとき以外は使ってはならない。ナイフでケーキを食べたり,食べ物を口に運んだり,料理の材料をかき混ぜたりするのは御法度だ(「ナイフでものを混ぜると,いざこざが起きる」という迷信の由来もここにある)——そして,フォークに食べ物を載せるときにも使ってはならない。
 なるほど,そうだったのか!

スティーブン・ピンカー 幾島幸子・塩原通緒(訳) (2015). 暴力の人類史 上巻 青土社 pp.148-149
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