I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

優生保護法と断種

公式統計によれば,優生保護法が施行されていた約半世紀の間に,手続き上本人の同意を必要としない強制的な不妊手術(第四条,第十二条適用)は,約1万6500件実施された。この種の手術は,80年代にも140件報告されている。また,形式的には当事者の同意に基づいていても,施設に収容されていたハンセン病患者に象徴されるように,事実上強いられた状況下で不妊手術や中絶が行われていたケースもある。さらに,優生保護法とその関連法では卵管や精管の結紮・切断しか認めていなかったにもかかわらず,月経中の介護負担の軽減を名目に,女性障害者に対して子宮摘出手術が行われてきたことも,忘れてはならない。
 ちなみにスウェーデンでは,断種法のもとで1934年から75年までに,本人の同意に基づくものや医学的理由によるものも含めて,合計で約6万3000件の不妊手術が実施されたという。スウェーデン政府の不妊手術問題調査委員会は1999年1月の中間報告(最終報告は2000年3月)で,「医学的理由」として届けられていても実質的には優生学的理由で手術されたケースや,任意といえども施設を出る際の条件とされるなど半ば強制的に実施されたケースが存在していたことを指摘し,任意か強制かにかかわらず,すべての被害者を補償の対象とみなすよう提言した。この中間報告を受けて,スウェーデンでは99年7月から補償が始まった。日本では,優生保護法のもとで,総計約84万5000件(1949-96年)の不妊手術が公式統計上報告されている。中絶の件数と任意あるいは強制による不妊手術の件数は,いずれも1950年代半ばから60年頃までがピークであった。この数字の意味を日本の戦後史の中で検証する本格的作業は,まだ行われていない。
 優生保護法が優生政策を背景とする「断種法」であったことは明白である。そして,この法律を根拠に不妊手術や中絶手術を強いられた人々が確かに存在する。つまり,少なくともこの事実において,日本の戦後世代はすでにある種の優生政策を経験してきているのである。現在の遺伝子技術・生殖技術に向き合うとき,われわれはまずこのことを念頭に置く必要があろう。

米本昌平・松原洋子・橳島次郎・市野川容孝 (2000). 優生学と人間社会:生命科学の世紀はどこへ向かうのか 講談社 pp. 171-172

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