科学者のなかには,こんな説を提唱している人もいる。IgE抗体は,かつて寄生虫との戦いにおいて一定の役割を果たしていた。だが,ピュレル[抗菌用ジェル]やペニシリンに取り囲まれ,無菌状態に近づいている現代生活のなかで,私たちはIgE抗体の敵となるものを排除してしまった。そのため,誤作動したときにしか目にとまらなくなったのだ,と。
この仮設を裏付ける証拠はいくつかあるものの,この説では,アレルギーはあくまで副作用であって,IgE抗体をつくりだす真の目的ではないとされている。また,ある特定の物質が他の物質よりも強いアレルゲンとなる理由を,この説では説明できない。私たちがもつ,寄生虫からの防衛システムは,花粉や食物,薬,毒液,そして金属を寄生虫と間違えるほど,精度の低いものなのだろうか?
クリスティー・ウィルコックス 垂水雄二(訳) (2017). 毒々生物の奇妙な進化 文藝春秋 pp. 90
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