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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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胃酸の調整

 事実,私の研究室で行った研究のひとつはピロリ菌が胃酸の調整を助けているということを示した。ピロリ菌が炎症を引き起こし,炎症が胃のホルモンに影響を与え,それが胃酸産出のスイッチを「オン」にしたり「オフ」にしたりする。生まれて最初の10年間,胃酸のバランス調整機能はよい。顕微鏡で見ると,胃酸を産生する内分泌腺は,そよ風に揺れるシダの葉に似ている。しかし年をとるにつれ,慢性の炎症が胃壁を覆い始める。ピロリ菌を持った人では,それがより早く広範囲に起こる。胃酸を産生する内分泌腺は短く平らになり,胃酸の産生が減少する。萎縮性胃炎である。結果として胃潰瘍になる可能性は低くなる。シュヴァルツの「胃酸なくして潰瘍なし」という格言は正しい。
 しかし子ども時代にピロリ菌に感染しなかった人,あるいは抗生物質によってピロリ菌を根絶した人は,胃酸の高生産を40代になっても続ける。これほど多くの人が胃酸の分泌量が衰えることなく中年に達するというのは,おそらく人類史上初めての出来事ではないだろうか。そうした人々にとって,胃内容物が食道中に逆流することは,酸性度の高い胃酸が食道に障害を与えることを意味する。ピロリ菌感染率が劇的に低下した今日の子どもの多くは,以前とは異なる胃酸調整システムとともに成長する。子どもにおける胃酸逆流は,かつては稀であったが,現在では増えており,多くの子どもが制酸薬の投与を受けている。こうした現象には何らかの関連性があるのだろうか。
 私たちは,病原菌として発見されたピロリ菌が両刃の剣であるということを発見した。年をとれば,ピロリ菌は胃がんや胃潰瘍のリスクを上昇させる。一方で,それは胃食道逆流症を抑制し,結果として食道がんの発症を予防する。ピロリ菌保有率が低下すれば,胃がんの割合は低下するだろう。一方,食道腺がんの割合は上昇する。古典的な意味でのアンフィバイオーシスである。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 141-142

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