忍者ブログ

I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

研究にも見られるべき乗則

 レドナーは,選んだ論文に対する統計を調べ,初めに深刻な事実を発見した。36万8110本もの論文が,一度も引用されていなかったのだ。これらの論文に含まれる学説は,学説のネットワークに目に見える反応をまったく引き起こさなかったのである。しかし,より影響を及ぼした他の論文について調べたところ,さらに興味深いことを発見した。約100回以上引用された論文において,その引用回数の分布がスケール不変的なべき乗分布に従ったのだ。それは学説のネットワークが,砂山ゲームや地殻と同様に,臨界状態へと組織化されている場合に予想される通りのものだった。もちろん,多くの回数引用された論文は,少ししか引用されなかったものより数は少ない。レドナーは,引用回数が増えるとともに,その論文の数がきわめて規則的に減少していくことを発見した。引用回数が2倍になると,そのような論文の数は約8分の1になるのだ。したがって,論文の引用回数に典型的な値はなく,ある論文が学説のネットワークに最終的に引き起こす変化にも,典型的な規模はないのである。このことは何を意味しているのだろうか?
 以前に我々は大量絶滅のところで,恐ろしく大規模な絶滅はよりありふれた目立たない絶滅に対してきわだっている,ということを見た。表面的には,これら2種類の絶滅は本質的に異なる原因,つまりそれぞれ外部からの衝撃と通常の進化の作用によって起こったかのように見える。しかしこの違いは,単なる幻想でしかないということが分かっている。我々はこれと同じことを,地震の場合にも見てきた。大地震の裏にある特別な原因をどんなに必死になって探しても,そのような特別な原因など存在しないことが,グーテンベルク=リヒター則によって示されている。レドナーの統計から考えて,これとほぼ同じことが科学自体についても当てはまるように思える。クーンにとっては,大規模な革命とともに小規模な革命も存在し,どちらも「伝統を打ち壊す」という本質的に同じ性質をもっていることに気がつくところまでが,精一杯だった。しかしレドナーのべき乗則は,科学的大変動に対するグーテンベルク=リヒター則に相当するものであり,これは,大規模な科学革命と小規模な科学革命とのあいだには深い意味で違いはないことを示唆している。

マーク・ブキャナン 水谷 淳(訳) (2009). 歴史は「べき乗則」で動く:種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 早川書房 pp.299-301
PR

TRACKBACK

Trackback URL:

bitFlyer ビットコインを始めるなら安心・安全な取引所で

Copyright ©  -- I'm Standing on the Shoulders of Giants. --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]