I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「教育心理学」の記事一覧

稀有で例外のケース

第3に,理想化されたリーダーから学ぶのは,稀有で例外的なケースから学ぶことになる点で,問題が多い。リーダーシップ神話やサクセスストーリーが真実かどうかはさて措くとしても,レアケースからの学習の有効性には疑問符がつく。ワーウィック・ビジネススクールのジャーカー・デンレルが行った調査によると,卓越したリーダーのスキルとパフォーマンスの相関性は,多くの場合にきわめて弱いという。これは,卓越したリーダーの業績は,幸運や偶発的な要素に左右される部分が大きいからだ。安定して堅実なパフォーマンスを示すが抜きん出て目立つわけではないという人たちからこそ,学べることが多いとデンレルは主張する。なぜならこうした人たちのパフォーマンスは,偶然の産物ではなく,ほんとうの能力や行動の結果である可能性が高いからだ。だから,こうした人たちの行動を分析するほうが,よほど役に立つという。

ジェフリー・フェファー 村井章子(訳) (2016). 悪いヤツほど出世する 日本経済新聞社 pp.79

授業評価の意味は

この程度のことで驚いてはいけない。受講者自身による満足度評価は,多くの大学や会議などでもひんぱんに行われる。たとえば学生による授業評価は,何らかの評価方式を取り入れているビジネススクールの99%以上ですっかり定着している。だが最近行われた分析では,学生による評価と学習効果との間には統計的に有意な相関性は見られない,との結論が下された。「学習効果の計測が客観的であるほど,学生による評価との相関性は薄れる」という。別の分析も,「学生による教員ランキングと学習効果の間には有意な相関性はない」との結論に達している。これを読んだらたいていの人がこの種の評価を信用しなくなるだろう。ペンシルバニア大学ウォートン・スクールのスコット・アームストロングは,「学習というものは変化を要求する。そしてこれは,辛いことだ。重要な振る舞いや態度の変化に関わる場合には,なおのことである」と指摘する。そしてリーダーシップ開発は,まさに重要なふるまいや態度の変化を要求する。よって,効果が上がるのは辛い経験であるはずだ。こうしたわけだから,数十年も前から数々の実証研究で指摘されてきたとおり,学生による評価はマイナス面が多い。学生が授業や教員を評価するとなれば,教員のほうは多少手加減して評価を高めようとする。すると教育の効果は薄れてしまう。アームストロングが「教員評価は学生に不利益をもたらす」と断言する理由の一つは,ここにある。

ジェフリー・フェファー 村井章子(訳) (2016). 悪いヤツほど出世する 日本経済新聞社 pp.49-50

赤色と成績

親や教師は,赤い色がテストの成績に悪影響を及ぼすという研究結果を軽く見ないほうがいい。たとえ潜在意識レベルのささやかな影響であっても,成功の足を引っ張る要因を把握し,それが子どもたちに及ぼす弊害を軽減してやるべきだ。数年前,オーストラリアのクィーンズランド州は州内の30の学校に対し,採点に赤ペンを使わないよう通達した。赤は攻撃的な色であり,子供の精神に甚大なダメージを与えかねないというのが理由だ。本章で紹介してきた実験は,赤が子どもの精神の健康に害を及ぼすかを調べたものではないが,赤が成績に悪影響を与えることは,実験によって明らかだ。成績が悪くなれば,子どもの精神にダメージが及ぶ可能性は確かにあるのかもしれない。教師にとって,赤ペンではなく黒ペンや鉛筆で採点や講評を書くのは,難しいことではないはずだ。別紙に講評を記してもいいだろう。デジタルファイルの形式で提出されたレポートに講評をつけて返却する場合は,コメントを表示する「吹き出し」を赤色にしないほうがいい。こうした点に気をつければ,子どもたちが赤い色を見ても,失敗の危険をあまり意識しないようにできるだろう。

タルマ・ローベル 池村千秋(訳) (2015). 赤を身につけるとなぜもてるのか? 文藝春秋 pp.79

咳が多い時は気をつけろ

テキサス大学のジェームズ・W・ペネベーカーは社会的な咳を専門に研究している。彼は興味深い問題を創造的な方法で研究してきた。バージニア大学にいた頃,彼は研究助手たちの手を借りて,学部学生が講義中にする咳の数の基準値を確立した。29パーセントの学生が講義中に少なくとも1回咳をしたが,季節による変動もあり,4月より2月のほうが約3倍多く,多人数のクラスのほうが少人数のクラスよりも多く咳をした。教師に対する評価,授業に対する関心そして咳をしている学生の数の間にほぼ完全な反比例の関係があり,最も評価が高い教授が教える最も興味をそそられる授業の咳の数が最も少なかった。4月に少人数のクラスを教えているときにかなりの数の学生が咳をしたら,あまりよい兆しではないだろう。

ロバート・R・プロヴァイン 赤松眞紀(訳) (2013). あくびはどうして伝染するのか:人間のおかしな行動を科学する 青土社 pp.126

自律性の感覚

内発的動機づけは,脅威,監視,時間的制約などによっても低下します。人は,管理されていると感じると,自律性を失います。職場には内発的動機づけを損なうようなきっかけが多く,従業員は自分の意志で選択して行動しているという感覚を持ちにくくなることがあります。
 自律性の感覚を取り戻すには,人びとに選択の感覚を与え,その感情を尊重することが大切です。どのような環境であれ,多かれ少なけれ,報酬,脅威,時間的制約などが関係してくるものです。このため,いかに自律性を得やすい環境をつくり,人びとの内発的動機づけを保てるかが重要です。

ハイディ・グラント・ハルバーソン 児島 修(訳) (2013). やってのける:意志力を使わずに自分を動かす 大和書房 pp.135

冷却経験

どのように戦略を学ぶのはともかく,4歳か5歳までに,1人で楽しく遊ぶのであれ,マシュマロ・テストでより多くのご馳走をもらうために待つのであれ,必要に応じてホットシステムを「冷却」するのがしだいに簡単で自動的に行えるようになる手立てを知り,使っている子どもは幸運だ。とはいえ,この話を終える前に,再度述べておかなければならない。欲求充足を先延ばしにしてばかりの人生は,先延ばしが不足している人生と同様に悲しいものになりうる。子どもだけではなく,すべての人にとって,いちばん難しいのは,より多くのマシュマロをもらうために待つべきときと,ベルを鳴らしてご馳走を楽しむべきときを見極めることだ。ただし,待つ力を伸ばせるようにならないかぎり,その選択肢は手に入らない。

ウォルター・ミシェル 柴田裕之(訳) (2015). マシュマロ・テスト:成功する子・しない子 早川書房 pp.300

両極端

子供に対する親のかかわりの重要性を考えるとき,わたしたちはつい両極端に走る傾向がある。暴力を受けて育った子供は無視されたりやる気を挫かれたりしただけの子供よりはるかに苦労するだろうとか,特別な家庭教師や個人指導を山ほど受けさせるようなスーパーママの子供はふつうに愛されて育っただけの子供よりずっとうまくやるだろう,などと想像する。しかしブレアとエヴァンズの研究によって提示されているのは,たとえばジェンガをやっているあいだ手助けをしたり気遣いを示したりといった,ごくふつうの親のかかわり方が,子供の将来に大きく影響するという事実である。

ポール・タフ 高山真由美(訳) (2013). 成功する子 失敗する子:何が「その後の人生」を決めるのか 英治出版 pp.70-71

簡単ではない

いくつかのスキルにかんして,知能至上主義の背後にある単純な計算——大事なのは早くはじめてたくさん練習することである——には確かに根拠がある。バスケットボールの試合でフリースローを落としたくなかったら,毎日の午後の練習で二百本のシュート練習をするほうが二十本しか練習しないよりもずっと上達する。たとえば4年生なら,夏のあいだに四十冊の本を読めば四冊しか読まないよりも読解能力は伸びるだろう。機械的に向上する技能もあるというのは事実だ。
 しかし人間の気質のもう少しデリケートな要素を伸ばすとなると,ものごとはそう単純ではない。長時間懸命に取り組んだからといって失望を乗りこえるのがうまくなったりはしない。充分に早いうちから好奇心のドリルをやらなかったからという理由で好奇心の足りない子供に育つわけでもない。このような気質を身につけたり失ったりする方法は決してランダムではない。心理学者や神経科学者たちは,ここ数十年のあいだこうした気質がどこから生じ,どうやって伸びるのかについて研究を重ねてきた。だがその方法は複雑で,非常に謎めいている。

ポール・タフ 高山真由美(訳) (2013). 成功する子 失敗する子:何が「その後の人生」を決めるのか 英治出版 pp.16-17

子どもによる選挙の予測

スイスの子供を対象にした実験でも,驚くべき結果が得られた。その実験では,まず,5歳から13歳の子供たちにコンピュータゲームをさせた。トロイからギリシャのイタケーまでの船旅のゲームで,そのゲームの終わりに,子供はフランスの国会議員選挙の立候補者の顔写真を2人ひと組ずつ見せられて,次のような質問をされる。「きみはこれから,トロイからイタケーへ船で向かうことになった。きみの乗る船の船長にふさわしいのはどっちの人だろう?」
 5歳の子供が外国の選挙に勝利する人物を予測できる——あなたが友人にそう話したところで,疑いの目で見られるのがおちだ。だが,それこそがスイスの研究者チームが実験して,《サイエンス》誌にも載った発見なのだ。子供たちが船長に選んだ人物は,71パーセントの確率で国会議員選挙に当選した。その確率は大人による同人物の当選予想正解率とほぼ同じだ。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.177-178

教授に対する印象形成

学生の教授に対する印象は,どのくらいの期間で形作られるのか?5人の異なる教授から14の異なる授業を受けている学生たちがつけた評価に関する研究を見てみよう。まずは学生を2グループに分けて,ひとつのグループは学期の最初の授業の直後に評価をおこない,もうひとつのグループは第1週目の終わりに評価をおこなった。さらに,最後の授業後の学期末に,すべての学生が同じ評価用紙にもう一度記入した。
 最初の授業のあとにせよ,第1週目のあとにせよ,学期のはじめの評価と,学期末の評価はほぼ一致した。教授の熱意,その学問の重要性や可能性がどのぐらい伝わってきたか,適切な反応が得られたか,学生の質問にきちんと応じたか,予想される成績,学生を励ましたか,学習意欲をかきたてたかなどの評価に変わりはなかった。つまり,学生の教授に対する第一印象は授業の初日に形作られ,4カ月後も変わらないというわけだ。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.129-130

自尊心の利点

調査委員会によれば,自尊心の高さの利点としてはっきり実証されていることは2つしかないという。1つは自主性が高まること。これはおそらく自分に自信があるからだ。自尊心の高い人は信念に基づいて行動し,信じるものを守り,他人に近づき,新しい仕事のリスクを引き受ける強い意欲を持っている(残念ながら,その性質のために,たとえ周囲の人すべてが反対しても,ばかげたことや破滅的な行為に意欲的になってしまうときがある)。2つ目は,機嫌よく過ごせることだ。自尊心の高い人は常に前向きな気持ちで行動しているようにみえる。全体的に満足を感じているので,困難を克服したり,憂鬱な気分を吹き飛ばしたり,失敗から立ち直ったりするために,自信が必要なときには都合がいい。たとえばセールスで何度拒絶されても立ち直れるというように,こうした性質が役に立つ仕事もあるが,その種のしつこさにはよい点もあれば悪い点もある。思慮深い助言に耳を貸さず,同しようもない目的に,無駄な時間と金を注ぎ込み続けることになりかねない。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.243-244
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自信を持っている

他にも学生の自尊心が高くなると成績は下がるということを示す証拠が,全国で見つかった。成績が下がっても自分に不満を感じないのだ。バウマイスターは独自の研究で,本当にひどいことをする人間が(たとえばプロの殺し屋とか連続婦女暴行犯人など),著しく高い自尊心を持っていることがあると指摘し,首をひねっている。
 科学論文を審査した調査委員会の心理学者たちは,現代社会に自尊心の低い人が満ちているという考えは間違いだと結論した。少なくともアメリカ,カナダ,西ヨーロッパではそのような現象は見られない。ほとんどの人がすでに自分にかなり満足している。特に子供たちは最初からとても自信を持っている。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.242
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

※日本の場合は他国に比べ自尊感情は低く,近年低下傾向にあります。

自尊心の研究

こうしてお互いを認め合うのは楽しいし,伝統的な勉強法より長期的な利益があるということになっている。カリフォルニア州が自尊心を高めることの効果を評価するよう研究者に依頼したとき,その仮説には大いに期待ができると思えた。報告書をまとめたカリフォルニア州バークリー校の有名な社会学者ニール・スメルサーは,最初のページでこう断言している。「ほとんどとは言わないまでも,社会に蔓延している問題の多くの根は,この社会を構成する人たちの,自尊心の低さにある」
 彼らはさらに「今のところ」その確実な科学的証拠が見つからないのは「残念だ」と述べているが,しかしもう一度調査が行なわれれば,もっと良い結果が出るだろうと期待されていたため,自尊心の研究には潤沢な資金が提供された。研究は続けられ,やがて別の機関が調査を依頼した。今度はカリフォルニア州のような政治機関ではなく,科学的な機関である心理科学協会だった。その結果は,ホイットニー・ヒューストンやレディ・ガガのインスピレーションに満ちたパフォーマンスを刺激するようなものではなかった。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.240-241
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

ブレインストーミングが失敗する理由

 心理学者たちはブレインストーミングが失敗する理由を,通常3つあげている。第1は,社会的手抜き。つまり,集団で作業すると,他人任せで自分は努力しない人が出てくる傾向がある。第2は,生産妨害。つまり,発言したりアイデアを提示したりするのは1度にひとりなので,その他の人たちは黙って座っているだけだ。第3に,評価懸念。つまり,他者の前では自分が評価されるのではないかと不安になる。

スーザン・ケイン 古草秀子(訳) (2013). 内向型人間の時代:社会を変える静かな人の力 講談社 pp.114
(Cain, S. (2012). Quiet: The power of introversion in a world that can’t stop talking. Broadway Books: St. Portlamd, OR.)

刺激量と学習

 それどころか,過度の刺激は学習を阻害するようだ。最近の研究によれば,森の中を静かに散歩した人は,騒音が溢れる街中を歩いた人よりも学習効果が高いと判明した。多種多様な分野の3万8千人の知識労働者を対象にした別の研究では,邪魔が入るという単純なことが,生産性を阻害する最大の要因のひとつだとわかった。一度に複数の仕事をこなすことは,現代の会社員にとって賞賛される偉業だが,これもまた神話だとわかった。人間の脳は一度に二つのことに注意を払えない,と科学者は知っている。一度に二つのことをこなしているように見えても,じつは2つの作業のあいだを行き来しているだけで,生産性を低下させ,ミスを最大で50%も増加させる。
 多くの内向型が,このことを本能的に知っていて,ひとつの部屋に大勢で閉じ込められるのを嫌う。カリフォルニア州オークランドのゲーム制作会社<バックボーン・エンターテインメント>では,当初オープンオフィス・プランを採用していたが,内向型が多いゲーム製作者たちから居心地が悪いという声が聞こえてきた。「なんだか大きな倉庫にテーブルが置いてあるみたいで,壁もないし,おたがいに丸見えだった」とクリエイティブ・ディレクターだったマイク・マイカは回想する。「そこで,部屋に仕切りをしたのだが,クリエイティブな部門でそれがうまくいくかどうか心配だった。ところが,結局のところ,誰もがみんな人目につかないで隠れられる場所を必要としていたとわかった」

スーザン・ケイン 古草秀子(訳) (2013). 内向型人間の時代:社会を変える静かな人の力 講談社 pp.107-108
(Cain, S. (2012). Quiet: The power of introversion in a world that can’t stop talking. Broadway Books: St. Portlamd, OR.)

言葉にせよ

 ある行動を習慣化するために必要な条件の多くは,新しいキューを取り入れる場合と共通している。重要なのは,予測可能性を高めることだ。習慣化したい行動を儀式化し,なるべく一定の状況でそれをおこなうようにするといい。時間と場所を決めるのは,とくに有効だ。たとえば,いつも決まった時間にエクササイズをおこない,あれこれ考える余地なく機械的に行動するようにする。毎週火曜日の午後5時にバーベルを上げ,毎週木曜日の午前6時にランニングをするという具合に決めておくのだ。先延ばししがちな課題があれば,それをいつ,どこでおこなうかをまず決めよう。そのうえで,「土曜の朝ごはんを食べ終わったら,ガレージの掃除をするぞ」と言葉にして誓う。
 あまりに簡単すぎる?しかし,効果はある。心理学者のピーター・ゴルウィッツアーによれば,ほぼどのような行動でも,その行動を取るという意図を言葉にすれば,実際に行動する確率が2倍近くに高まるという。子宮癌検査の受診や睾丸癌の自己検診に始まり,リサイクルや休日返上での報告書執筆にいたるまで,その効果が科学的に実証されている。手軽なうえに効果が大きいという意味で,これほど理想的な方法はないかもしれない。

ピアーズ・スティール 池村千秋(訳) (2012). 人はなぜ先延ばしをしてしまうのか 阪急コミュニケーションズ pp.259-260

接近目標に言い換え

 モチベーションをいっそう高めるうえで有効なのは,「なにを避けたいか」(=回避目標)ではなく,「なにを実現したいか」(=接近目標)という形で長期の目標を決めることだ。さまざざまな研究によると,ポジティブな長期目標を立てている人は,比較的先延ばしをせず,大きな成果を上げるケースが多い。足元が危なっかしい場所に立っている人に「落ちないように気をつけて!」と言ったり,コンサート前の歌手に「歌詞を忘れるなよ!」と念押ししたりすると,避けなくてはならない結果が現実になる可能性をむしろ高めてしまう。
 「酷評されるような本を書かない」ことを目標にするより,「高く評価される本を書く」ことを目標にしたほうがいい。「振られたくない」と思うより,「あの娘を振り向かせたい」と思うほうがいい。回避目標はほぼ例外なく,接近目標に言い換えられる。

ピアーズ・スティール 池村千秋(訳) (2012). 人はなぜ先延ばしをしてしまうのか 阪急コミュニケーションズ pp.201

自己コントロールと学業成績

 2005年,ダックワース(元教師)とセリグマンはさまざまなカリキュラムをもつマグネット・スクールに通う多様な人種の140人の8年生(中学2年生)を対象に調査を行なった。まず親や教師から聞き取りをし,本人にも,悪い習慣をやめるのは大変ですかというような質問をして,生徒たちを自己コントロール能力別に分けた。これが学年が始まったばかりの秋のことで,翌年の春に研究者たちはふたたび学校に出かけ,自己コントロール能力を学習態度,成績,標準テストの成績,それに競争の激しい高校への入学状況などとの相関関係を調べた。
 ダックワースとセリグマンはほかの164人の8年生を対象に同じ調査を繰り返し,今度は楽しみを先延ばしにする実験と知能テスト(IQ)との関係を調べた。するとIQよりも自己コントロール能力のほうが,将来の成績を予測する指標としてはるかに優れていることが明らかになった。学校では持続的な努力が求められ,楽しみを我慢して宿題をしたり,学期末にもらう成績を良くするために着実に勉強しなくてはならないから,この結果は意外ではない。自己コントロール能力は,学習態度や宿題に費やす時間,さらには毎晩何時に宿題を始めるかなどにも正確に反映されていた。またテレビを見る時間ともはっきりした相関関係があった。自己コントロール能力のスコアが高い子ほど,テレビを見る時間は短かった。セリグマンたちは歯に衣を着せずに言う。
 「アメリカの子どもたちの成績が悪いのは,教師の能力が低い,教科書が退屈,1学級の人数が多すぎるなどのせいにされることが多い」とセリグマンらは語った。「だが,わたしたちは,知的能力があっても成績が悪いのには別の理由があると考える。自己コントロール能力が低いことだ……アメリカの子どもたちの多くは,目先の楽しみを我慢して長期的な利益のために努力することが下手なのではないかと思う。自己コントロール能力を鍛えるプログラムこそが,学業成績を上げる王道ではないか」。

ダニエル・アクスト 吉田利子(訳) (2011). なぜ意志の力はあてにならないのか:自己コントロールの文化史 NTT出版 pp.156-157

特別扱いが当然

 最近の学生は特別扱いされて当然だと思っているという大学教授の不満をよく耳にする。2007年に,ハーヴァード大学の教授がこんな話をしていた。20年前は「病気で試験を受けられなかったごくわずかな学生は……非常に悔やみ,追試を受けさせてもらえただけで感謝していたものだ。最近は,ほかに用事があるなら試験を欠席してもかまわないし,追試の日は自分で決められると思っている」。まるでAの成績は実力でもらうものではなく当然与えられるものであるかのように,「この講座はAでないと駄目なんです」と言う学生もいれば,授業料を納めているのだからよい成績が取れるものと思っていて,教職員に「あたしのために仕事してるんですよね」とまで言う学生もいる。特権意識がとくに強い学生は,「Aをくれるまで先生の部屋を動きません」などとごねれば成績が上がると思い込んでいる。

ジーン・M・ドゥエンギ/W・キース・キャンベル (2011). 自己愛過剰社会 河出書房新社 pp.277
(Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2009). The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement. New York: Free Press.)

ナルシシズムが教育される

 残念なのは,こうした人格教育プログラムの多くが自尊心も教えることだ。そして,「私は特別だ」というかたちでナルシシズムが教育される。これらのプログラムは,自信のある子供はルールを守り,ずるをしたり嘘をついたりしないという誤った前提にもとづいている。しかし,特別な人間ならルールに従う必要がなく,だからナルシシストは攻撃的になりやすく,また不正をしないどころか人よりも不正をしやすいのである。

ジーン・M・ドゥエンギ/W・キース・キャンベル (2011). 自己愛過剰社会 河出書房新社 pp.252
(Twenge, J. M., & Campbell, W. K. (2009). The Narcissism Epidemic: Living in the Age of Entitlement. New York: Free Press.)

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