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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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火砕流

 火砕流は摂氏何百度という高温なので,海面に触れると沸騰状態となり,まるでホバークラフトのように,海面と接触するかしないかというくらいの高さを一気に逆流します。もっとも火砕流のうち,重い部分は海中に沈み,軽石やガスなど比重が小さいものが海面を滑走するそうです。地上における火砕流は時速100キロメートル前後ですが,海面では摩擦による抵抗もないので,さらに高速だったとも推察されています。
蒲池明弘 (2017). 火山で読み解く古事記の謎 文藝春秋 pp. 52

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ワノフスキー

 ワノフスキーはレーニンらと行動をともにしていたロシアの革命家です。運動から離脱して1919年,日本に亡命,大正時代から戦中期まで早稲田大学文学部でロシア語やロシア文学を教えていました。古事記神話を異様な情熱をもって研究し,日本の神話のいちばん深い所には火山の記憶があるという構想によって書かれた作品が『火山と太陽』です。神道関係者など一部で評判になったようですが,その後長い間,注目されることはありませんでした。
蒲池明弘 (2017). 火山で読み解く古事記の謎 文藝春秋 pp. 35

経済的権利

 しかし,私は少し違った思いを抱いている。現代社会で尊重すべき権利について,経済的権利(生活を支える手段として有償労働をする機会が適正に与えられていること),政治的権利(政治への参画が認められていること),社会的権利(働くことができなくともある程度充実した生活ができること)という区分をするとすれば,日本では女性も移民もいまだに経済的権利を獲得できていない段階だ。この問題を解決することなく,政治的権利や社会的権利の不足を優先的に解決しようとすると,社会に歪みが生じ,社会的分断が深くなってしまう。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 201-202

「普通のサラリーマン」とは

 実は,私たちは職務内容がある程度限定されている労働者については,その職務の名前で職業を表現し,限定されていない場合には「普通のサラリーマン」,あるいは単に「会社員」と表現するのだ。この職務内容の無限定性は,第3章で詳しく説明したように,特に日本において広く普及した働き方だ。日本の「正社員」は,入社する前に職務内容が限定されることがほとんどない。「社員」は会社のニーズに応じて,柔軟に職務内容や勤務地を変えながら働き続けるのである。そのため,日本企業では採用や昇格・昇進にあたって周囲への適応能力,コミュニケーション力といった抽象的・潜在的な能力が重視される。
 このため,日本企業は基幹労働力,つまり「総合職」として外国人を雇うことを避ける。様々な職務に柔軟に対応できるスキルに欠けると思われてしまうからだ。ただ,もしその外国人が日本の大学などで一定期間の教育を受けている場合には,採用する可能性が多少高くなる。しかしその場合,「教育を通じて得た知識やスキル」が買われているのではなく,一定期間日本で生活しているということが,前述した抽象的な能力の証になり,不定形な働き方にフィットすると考えられるからである。また,職務無限定的な総合職ではなく,研究・技術職であれば移民労働力がある程度受け入れられている。そういった限定的な働き方であれば,職務内容に柔軟性が求められず,コミュニケーション力や潜在能力を重視する必要が(相対的に)小さいからである。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 155-156

表面的な真似

 たとえばアメリカは典型的な自由主義路線を歩んできた。しかしここで単純に「アメリカは市場に多くを任せるところで,規制も少なく,自由競争によって競争力を高めている」とだけ理解し,十分な思慮もなく規制緩和に突き進むと,大きな副作用に苦しむことになるだろう。アメリカでは外部労働市場が発達しており,スムーズな転職,スキル転換の機会も多い。そして何よりも,人種や性別による教育や雇用差別に対しては極めて厳しい禁止法則が存在する。アメリカの政策に学ぶのならば,アメリカ社会で労働力が具体的にどのように活用されているのかを詳しく知る必要がある。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 144

中途半端

 少子高齢化社会の問題を考えた場合,各国のパフォーマンスの有力な基準となるのは,やはり出生力を維持しつつ,女性労働力がどれだけ有効活用されているのか,であろう。生まれてくる子どもを増やすことで人口構成の歪みを小さくしつつ,増加する高齢者を支えるための税と社会保障を負担する労働者を増やす必用があるからだ。そして出生力と女性労働力参加率という2つの指標から見た場合,比較的よい数値を維持できているのはアメリカに代表される「小さな政府」の国と,スウェーデンに代表される「大きな政府」の国であり,そのどちらでもないドイツ,イタリア,そして日本などは低出力と女性労働の不活用の問題に直面してきた。このことから,私たちは,単純に政府が大きいほうがよい,いや小さいほうがよい,という議論をしていては,物事が先に進まないということを認める必要がある。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 128

女性のキャリア断念

 とはいえ,独身時のサポートについては男女でそれほど大きな差はないだろう。大きな差が出てくるのは結婚してからである。無限定的な働き方をする人が世帯にいる場合,そうではない人(たとえば専業主婦)が同じ世帯にいてサポートするならば私生活のレベルは落ちないし,子どもを産み育てることも可能であろう。しかし無限定的社員と無限定社員のカップルだけでは無理である。その結果,女性の側がキャリアを断念することになりやすい。ましてやどちらかに転勤が命じられれば,片方の(たいていは女性の)キャリアプランは破壊される。パートナーのどちらかに転勤の可能性があるというだけで,持ち家を買うかどうかの判断などに必要な,生活の長期的見通しが立たなくなることもあるだろう。



筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 112


三つの無限定性

 日本企業の基幹労働力として採用された者は,仕事に関する三つの「無限定性」を受け入れることを要請される。職務内容の無限定性,勤務地の無限定性,そして労働時間の無限定性である。



筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 103


正規と非正規

 日本では,正規雇用と非正規雇用ではかなり大きな賃金格差が存在する。この格差は,正規雇用社の賃金が比較的低い20歳代においてはそれほどではないが,30,40歳代となるにつれて大きくなる。年間収入を130万円未満に抑えていた有配偶女性は,「壁」制度がなくなったからといって,すぐに正規雇用に移行できるわけではないだろう。そのため,「壁」以上に稼ぐためには,非正規雇用にとどまりつつ,労働時間を長くするしかない。たとえば時給が1200円で1日8時間,週5日働いたとしても,年収は230万円程度である。これでは,すでに夫が安定した所得を得ているような場合には,時給が上がらないかぎり,労働時間を延ばそうとする女性はそれほど多くならないのではないか。他方,非正規雇用で生計を立てているような人だと,そもそも最初から「壁」制度の恩恵を受けていない。つまり,「壁」制度となっている配偶者控除制度,第3号被保険者制度を廃止しても,その効果はすぐには表れないと予想できる。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 98

少子化の加速

 アメリカとスウェーデンでは,女性が仕事と家庭を両立できる環境があり,かつ男性雇用が不安定化していることが,(同棲を含む)カップリング戦略およびそのなかでの子育てを促し,結果的に少子化が克服されたのであった。日本では1995年以降,男性雇用が不安定化したものの,女性にとって仕事と家庭を両立していける見込みが小さいままで,そのことが結婚をせず両親と同居するという選択肢を若者に選ばせた。親と同居していても子どもは生まれないので,少子化が加速することになったのである。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 76

チャンス逸脱

 2006年以降,出生率は反転し,女性の労働力参加率と出生率の関係は日本でもようやく正に転化した。しかし人口規模が大きかった団塊ジュニア世代はすでに30歳代後半に入ってしまっていた。いくら出生率が上昇しても,出産可能性が高い女性の数が減ってしまっていては,生まれてくる子どもの数は増えない。日本の出生「率」の回復は,出生「数」上昇の最後のチャンスを逃してしまったあとだった。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 71-72

二人なら

 雇用労働に従事する女性が増えるにつれて,どの国でも出生率が下がることになった。しかし女性の労働力参加が出生率へ与える負の影響は,アメリカやスウェーデンといった少子化を克服した国においては,ある時点から中和されるようになった。おそらく,スウェーデンでは,長期的には公的両立支援制度の影響,アメリカでは民間企業主導の柔軟な働き方の影響で,女性が賃金労働と子育てを両立しやすくなったからだと思われる。その後,女性の労働力参加と出生率との関係はいよいよ反転し,女性が働くことは出生率に正の効果を持つようになる。これは不況あるいは経済成長の鈍化のなかで若年層の雇用が不安定化し,それへの対応として男女がカップルを形成し,共働きによって生計を維持するというケースが増えたからである。個々の雇用が不安定化しても,二人いれば家族としてやっていける,という考え方だ。こうして共働きが合理的戦略となり,さらに仕事と子育てを両立しやすい環境が整っていれば,女性が働くことは出生率に正の効果を持つ。この転換の背景には,スウェーデンでは女性が公的セクターに大量雇用されたこと,アメリカでは民間セクターで女性がますます活躍するようになったことがある。女性が結婚・出産後も長期に働くことができる素地があれば,経済の不調による男性雇用の不安定化に際して「共働きカップルを形成する」という選択肢が合理的となる。そのことが女性の労働力参加と出生率のプラスの関係を生み出した。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 69-70

就労は必要

 「出生動向基本調査:独身者調査」では,実は男性についても,結婚しても働いてくれる女性を求める人が増えていることがわかる。おそらくバブル崩壊とデフレによる不況の影響でいよいよ若年男性の雇用が急激に不安定化するなか,男性側でも相手の女性の所得に期待する意識が生じはじめたのである。
 このように女性の労働を「結婚生活を妨げるもの」ではなく「結婚生活を成り立たしめるもの」として捉えるようになるという転換は,他の国も一定の時期に経験してきたものだと私は考える。このような状態になると,女性の就労は結婚を遅らせ出生率を下げるというよりも,むしろ結婚に必要な要素として考えられるようになる。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 56-57

未婚が増えた理由

 ここから,次のようなことが推察される。1990年代半ばを境として,男女双方に共働きを通じて経済的に維持可能な結婚生活をなんとか成り立たせようとする動きが出てきたこと。また,結婚しても働き続けなければ家計を維持できないのでは,と考える女性が増えてきたこと。他方で,「結婚はしたいが現実には無理で,独身のまま働き続けるのだろう」と考える女性も増えてきたこと,などである。



筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 55-56


少子化対策

 以上を受けて筆者は,肝心なのは結婚・出産を望む人がそれを叶えられる社会を実現することであり,今でもほとんどの人は結婚して子どもを持ちたいと考えている以上,経済的な障壁を取り除くことで十分な少子化対策になると考える。



筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 38


出生力低下の要因

 何がこのような出生力(出生率によって示される出生傾向)の変化を引き起こしてきたのだろうか。人口学によると,出生力は,有配偶率(どれくらいの人が結婚しているか),有配偶出生力(結婚している人がどれくらい子どもをもうけているか),婚外出生力(結婚していない人がどれくらい子どもをもうけているか)の3つによって説明できる。日本では婚外出生力がきわめて小さいため,結婚していない人が増えていることと,結婚していても子どもをあまりつくらなくなっていることの2つの要因によって少子化を説明することができる。そして,少なくとも2000年までは,日本の少子化の7割程度は有配偶率の低下によって説明できることがわかっている(鹿嶋, 2000; 岩澤, 2002; 岩澤, 2008)。その後,有配偶者の出生率低下の影響が相対的に強まるのだが,それでも日本の少子化の主要な要因が未婚化であるという事実は変わりがない。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 35-36

晩婚化,少子化解決への障害

 パートタイマーの人たちが参加する外部労働市場には,家族からすれば子育てなど家庭の事情によって働くのをやめたり始めたりすることが容易であり,経営者からすれば必要なときには労働調整,つまり解雇がしやすいという特性がある。このような外部労働市場が,正規雇用の夫と家計を共有する有配偶女性向けに形成されてきたことの帰結は,その後の正規雇用・非正規雇用の賃金格差の問題となって現れてくる。つまり,パートやアルバイトなどの非正規雇用が多くを占める日本の外部労働市場は,新卒・正規雇用向けの労働市場を除けば,「自立して食べていけない」人のための労働市場になってしまった。これが日本の晩婚化,ひいては少子化問題の解決において,深刻な障害となって現れるのである。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 29

失業抑制法

 1970~80年代を通じて,日本は内部労働市場を駆使し,そのなかで(人員を減らすのではなく)労働時間や賃金を減らすことで対応した。アメリカが規制緩和によって外部労働市場を活用して雇用を活性化し,スウェーデンが積極的労働市場政策や女性の公的雇用を通じて雇用を増やそうと試み,ドイツが高年齢の労働者を中心に会社から退出してもらうという戦略をとったのとは,また異なる第4の方法であった。会社が,雇用している人の職務内容や勤務場所,そして賃金をかなりフレキシブルに変更できるという日本的雇用の特徴によって,失業が抑制されたのである。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 27

民間で

 一見してわかることは,スウェーデン女性の公的雇用の多さである。スウェーデンでは,所得を得ている女性の実に五割以上が,公的に雇用されているのである。「大きな政府」というと高い税率を思い浮かべる人が多いようだが,政府の規模が大きければ当然そこで働く人も多くなる,という当然の事実はなぜかああり注目されてこなかった。逆に日本では,男女とも公的雇用の割合は極めて小さく,ドイツ,アメリカ,スウェーデンと比べたとき,際立った特徴になっている。また日本以外の国では,男女別に見たときに女性のほうが公務員比率が高いのだが,日本はそうではない。他の国では,女性の活躍に公的雇用が大きく貢献しているのだが,日本ではそういった傾向がなく,女性は民間で活躍の場を模索してきたのである。
筒井淳也 (2015). 仕事と家族 中央公論新社 pp. 15-17

科学と人文科学との融合

 過去の記録のされ方がその性格を変化させるにつれ,科学と人文科学の境界は明確ではなくなっている。その結果,両者の融合はさまざまな名のもとで進んでいる。科学的手法を取り入れて研究している歴史学者は,「デジタル人文科学者」を自称する傾向がある。大学の言語学科には「コーパス言語学者」がいる。心理学と社会学は「数理社会科学者」という名称を好む場合もある。科学と人文科学との融合の機は熟しており,シリコン・ヴァレーの新興企業の中では日常的に新たな考え方が次々に生まれている。
エレツ・エイデン ジャン=バティースト・ミシェル 坂本芳久(訳) (2016). カルチャロミクス:文化をビッグデータで計測する 草思社 pp. 274

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