I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

有性生殖というシャッフル

 自然が新しい代謝のテキストを見つける方法のいくつかは,おなじみのものだ。なぜなら,人のような大型の多細胞動物においては,それらの方法が主流だからである。一つは,有性生殖に付随する変化である。有性生殖というのは染色体をトランプのカードのようにシャッフルし,私たちの子供の一人一人が新しい手札でスタートできるようにするものだ。もう一つは,紫外線や放射線がゲノムに入り込むという偶然の出来事を通じて,あるいは,化学反応の副産物である反応性が強く,そばにあるDNAの化学結合を切断する酸素ラジカルを通じて,DNAの文字配列に自然に生じる突然変異である。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 105-106

組み合わせのイノベーション

 こうした反応の組み合わせは,スフィンゴビウム・クロロフェノリクムに特異的なものだが,反応そのものはそうではない。各反応のそれぞれは,これまでに数千回とまではいわないが,数百回は出現している。そのうち二つは,いくつかの細菌で不必要なアミノ酸のリサイクルを助けており,別の二つは一部の菌類や昆虫がつくりだす有毒分子—たまたまペンタクロロフェノールと類似した分子—を取り除く。目覚まし時計,自転車の空気入れ,塩ビ管からスプリンクラーを組み立てる自動車修理工のように,進化は,スフィンゴビウム・クロロフェノリクムにおいて,他の生物に別々に存在する酵素によって触媒される,いくつかの化学反応の新しい組み合わせをつくりだしたのである。言い換えれば,代謝的なイノベーションは組み合わせによって生じるのだ。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 100-101

規格の一元化

 コンピュータ学者であるアンドリュー・タネンバウムはかつて「規格についてすばらしいのは,選ぶべきあまりにも多くの規格があることだ」と皮肉を言った。彼が何のことを言っているのか,私にはわかる。リモコンでも,時計でも,あるいはその他の家にある装置が動かなくなったときには,私はいつも居間にある大小の電池類—たいていは適切なものが見つからない—がごたまぜになったキャビネットを引っかきまわすことになる。もし一種類だけしか電池がなかったら,生活はずっと楽だろう。あるいは一種類だけのコーヒー・フィルター,データ保存媒体,あるいはコンピューターのOSでもいい。
 もっと古い技術でさえ,この問題に悩まされている。公共電力事業ができてから一世紀以上たつが,世界中で14の互換性のないコンセントが存在していて,よその国からやってきた何百万人という海外旅行者たちにとって,日々持ち歩くラップトップ,ヘアドライヤー,電気カミソリ—およびコンセントの合わないアダプター—は,悪態の種である。
 自然はちがう。自然はエネルギー備蓄の規格を一元化してきた。力学的(建物を破壊するために打ち込まれる鋼球),電気的(コンピューターを動かす電流),あるいは化学的(原子どうしを結びつけて分子にする結合力)など,エネルギーを取り出す多様な形態のなかで,生命のお気に入りは,化学的エネルギーである。単細胞の細菌類からシロナガスクジラまで,地球上のすべての生物は,エネルギーを,アデノシン三リン酸,すなわちATPという分子に貯えるという規格化された方法を使っている。この分子の高エネルギー結合が切断されると,エネルギーは別の分子に移転され,エネルギーがそれほど高くないアデノシン二リン酸(ADP)ができる。高エネルギーのATPをつくりなおすには,特別な酵素の手を借りて,燃料となる分子からエネルギーを摂りだしてADPに移転することが可能である。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 88-89

ビタミンの生成

 そして,代謝の領域においては,大腸菌やその他多くの微生物が私たちを完膚なきまでに打ち負かすことがわかっている。たとえば,私たちのタンパク質をつくっている20種のアミノ酸のうちで,自分の体でつくれるものは11種しかない。残りの9種は食い物から摂らなければならない。それに加えて,生きていくのに13種のビタミンが必要だが,そのうちの2つ,ビタミンDとB7(ビオチン)しか,自分で合成できない。大腸菌はそのすべてを何もないところからこしらえることができる。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 85

クエン酸回路

 クエン酸回路は,もう一つ別の理由でも魅力的である。それは自分自身をもう一個つくりだすのである。回路が一回りするとき,最初にあった一つの分子を二つに変身させ,それぞれが新しい回路とそのすべての分子を産み落とし,結果的に,四分子をつくりだす,……ということがつづく。科学者はこの性質を自己触媒反応(autocatalysis)と呼んでいるが,これは現在の細胞と原始的なRNA複製因子を同等に定義するためのしゃれた用語である。
 クエン酸回路の自己触媒反応は自身を直接コピーするわけではないし,回路の他の分子をコピーもしない。その代わりに,回路の反応のネットワーク全体を通じて間接的にコピーされるのだ。仮想のRNAレプリカーゼは自己複製分子ではあるかもしれないが,クエン酸回路は化学反応の自己触媒ネットワークなのだ。これは,クエン酸回路の欠点ではなく,生命の特性を定義するのに,RNA複製因子とその遺伝情報は必要ないかもしれないという,もう一つのヒントなのである——生命は遺伝子に先立って存在することができるのだ。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 75-76

生命の増殖

 ひとたび生命が到来すると,それは急速に増殖して,高エネルギー物質の継続的な供給を貪欲に求める分子の大群となる。あらゆる軍事的遠征と同じように,継続的な補給網がなければ,大軍はたちまち崩壊してしまう。そのうえ,安定した食糧供給がなければ,ダーウィン主義的な進化や自然淘汰は機能しない。その力は,何世代もかけて展開され,したがって複製,それも大量の複製を必要とする。加えて,レプリカーゼが兵士と同じように,死んでいくことも厄介の種だ。時間がたつうちに,それらは他の分子とのランダムな衝突を通じて壊れていく。飢餓状態では,コピーをつくれるより早く壊れてしまうだろう。この惑星を征服しようとする生命の作戦行動は,湿ったマッチのように,点火したとたんに立ち消えになってしまうだろう。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 66-67

遺伝子プール

 集団遺伝学の中心的な洞察の一つは,一つの集団(個体群)を個別の生物個体の単なる集まりではなく,遺伝子全体を集めたプールとみなすことである。たとえば,ガの翅の色を決定する遺伝子は,それぞれ明るい翅または暗い翅の原因となる異なったタイプ—専門用語では対立遺伝子(アレル)—をもっていて,それぞれは集団のなかで異なった比率すなわち頻度で生じる。いずれかの時点で,両方のタイプの対立遺伝子が,生物の一つの集団に同数だけ存在していて,なにかの新しい要因—新しい捕食者,あるいは大気汚染の状態の変化—によって暗色の翅をもつガが長生きし,したがってより多くの子をなすことができるようになったと想像してみてほしい。彼らの有利さはかならずしもそれほど大きいものである必要はなく,暗色型の翅をつくる対立遺伝子がわずか1%,雑種第一代で50%から51%に増えるだけで,時間がたつうちに,暗色型の変異が集団のなかでますます大きな比率を占めるようになる。これが自然淘汰の仕組みである。それは対立遺伝子の頻度を変え,やがて,時がたつうちに個体の外見を変えるのだ。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 29

突然変異

 mutation(突然変異)という言葉を取り上げてみると,この言葉は,200年以上も前からすでに,生物の外見に現れたあらゆる劇的な変化に対して用いられていた。だが20世紀の初めに,突然変異という用語が,ある時にはメンデル流の遺伝単位に,ある時には生物体(表現型)に用いられたために,変化の因果関係についての果てしない混乱をもたらすことになった。100年後の私たちは,突然変異が遺伝子型を変化させることを知っている。たとえば,私たちの遠い祖先動物の一部に,オプシンという光感受性タンパク質の青写真を変化させた突然変異のように。こうした遺伝子型の変化は表現型の変化を引き起こすことができ,変化した表現型の一部が,私たちが世界を色付きでみることができる能力のようなイノベーション—新奇で有用な形質—となるのである。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 23

遺伝子型と表現型

 ヨハンセンは,現代生物学にとってさらに重要な二つの言葉についても貢献した。彼は遺伝子型(genotype)という言葉を造語し,表現型(phenotype)と区別した。現代の用語でいえば,遺伝子型は一個体のすべての遺伝子,すべてのDNAを含むのに対して,表現型は,その個体について観察できるその他すべてのこと,大きさ,体色,尾・羽根・あるいは甲羅をもつかどうかといったことを含む。この区別の理解は決定的に重要だ。なぜなら,それは生物が変化するときに結果から原因を言い当てることを可能にするからである。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 23

ジーンとパンゲン

 結果的に,ド・フリースは残念賞しかもらえなかった。彼は,科学においても大衆文化においても重要でありつづけている遺伝子(gene)という言葉を世に出す祖父の役割を果たした。ド・フリースはメンデルが記載した遺伝子粒を「パンゲン(pangenes)」と呼んだのだが,数年後にデンマークの遺伝学者ウィルヘルム・ルドヴィヒ・ヨハンセンは,そこから単純にpanを取って遺伝子(gen)という言葉を作ったのである。
アンドレアス・ワグナー 垂水雄二(訳) (2015). 進化の謎を数学で解く 文藝春秋 pp. 22-23

そっとしておく思いやり

 「そっとしておく思いやり」は,ほとんどの場合は,思いやりではない,と筆者は感じています。厄介なことに巻き込まれたくない,余計なお世話だと思われたくない,相手を怒らせたくない,といった自分を守りたいという気持ちを,あたかも相手のためであるかのように偽っていることが多いからです。「そっとしておく思いやり」は,自己イメージ目標を持つ人が,困っている人に手を差し出す勇気がないときに,「薄情な人だ」と思われないために用いる方便であることが多いように思います。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 124

思いやりとは

 確かにそっと見守ることが思いやりであることもあると思います。しかし,最近は,それが思いやりでないことも多くあるのではないかと感じるようになりました。一見,相手の立場に立って行動しているようでいて,実は自分が嫌われたり,恥をかいたりするリスクを避けているだけではないか,つまり,自己イメージ目標のために黙視しているのではないか,と思うのです。それを都合よく,あたかも相手のための思いやりであるかのように正当化しているだけではないか,と考えるようになりました。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 120

エコシステム

 一方,エコシステム(ecosystem)とは,自分を他者とのつながりの中に位置づけた動機づけシステムです。自然界の中で人・動物・環境が複雑に影響しあっているのと同じように,自分は一人で生きているのではなく,人に支えられ,人を支えながら,互いに影響しあって生きているという考え方をします。エゴシステムが自分のニーズを満たすことを最優先にしているのとは対照的に,エコシステムでは,他者のニーズは自分のニーズと同じくらい重要であると考えます。他者のニーズを満たし,他者の幸福に貢献することが,ゆくゆくは自分の幸福,そしてシステム全体の幸福につながると考えます。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 87-88

ゼロサム思考

 エゴシステムの特徴の一つに,ゼロサム思考があります。自分に対する評価には,多少なりとも他者との比較が含まれます。能力が高いと評価してもらうには,人よりも優秀であると思われないといけません。誰かに好かれていると感じるためには,他の人よりも自分の方が好きだと思ってもらわなくてはいけません。ゼロサム思考とは,自分が勝つか,他者が勝つか,といった考え方です。同僚が自分よりも良い業績を収めると,自分はそれに比べ見劣りがして,負けたと感じることがあります。また,仲の良い友人に恋人ができると,自分だけ取り残されたような気がしてしまうことがあります。他者の良い出来事を素直に喜べないのは,そのせいでなぜか自分の評価が下がってしまったと感じるためです。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 87

エゴシステム

 エゴシステム(egosystem)とは,エゴ(自分)のニーズを中心に置いた動機づけシステムです。自尊心の追求は,自分が常に中心にあるので,エゴ(自分)中心のシステムであるとクロッカーらは説明しています。「自分はどう見られているか」「自分は高く評価されているか」「自分は周囲の人から好かれているか」「自分は他者よりも能力があると思われているか」は,どれも「自分」が中心にあります。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 85

防衛の代償

 自尊心が失敗に脆いために以上のような防衛的な行動をとると,自尊心は守られますが,そのための代償は大きいと言えます。まず,自分が支払う代償ですが,自尊心の維持・回復を優先させることで,学び・成長する機会を失います。困難な課題を避け,簡単な選択肢に逃げてばかりいると,自分の能力を試し,伸ばすことができません。筋肉が少し負荷を与えないと発達しないのと同じで,私たちの能力も,常に厳しい課題にチャレンジしていないと伸びません。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 38

感じることと現実

 これらの研究を包括して言えることは,自尊心の高い人は,学業でも,仕事でも,対人関係でも,うまくいっていると感じる傾向があるものの,実際に全てがうまくいっているわけではない,ということです。自尊心を高めても,思ったほど良い効果は期待できないようです。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 26

役に立たない

 対人関係においても,自尊心はあまり役に立たないとボーマイスターらは結論づけています。自尊心の高い人ほど,「自分は人に好かれている」と感じ,「対人関係もうまくいっている」と感じるのですが,自尊心の高い人ほど,実際,他者に好かれ,良好な対人関係を築いているわけではないようです。たとえば,学校で人気のある生徒とそうでない生徒の自尊心には差がなく,クラスメイトが評価する生徒の人気度と自尊心には相関がないそうです。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 24

自尊心と自己評価

 自尊心に似た概念として,「自己評価」があります。自己評価も自尊心と同義で使われることが多いようですが,厳密には自尊心は,全体としての自分自身の評価であるのに対し,自己評価は特定の領域における自己の評価として区別されます。
新谷 優 (2017). 自尊心からの解放:幸福をかなえる心理学 誠信書房 pp. 1-2

嘘の徴候

 残念ながら,人は,相手が嘘をついているときに特有の兆候を特定するのがあまり得意ではない。2006年に58に及ぶ国々で調査が行なわれ,参加者は,「あなたは人が嘘をついているときに,どうしてそれがわかりますか?」と質問された。すると,ある回答が圧倒的に多かった。どの国の人もその回答をし,大半の国でそれが回答リストの1位を占めた。嘘をついている人は目を合わせようとしない,というものだった。これは嘘を見抜く一般的な方法ではあるが,とりたてて良い方法でもなさそうだ。嘘をついている人のほうが正直者よりも目を逸らしやすいことを裏づける証拠はない。これ以外に嘘をついている証拠だと思われているものにも,怪しげな根拠しかない。嘘をついている人のほうが見るからに活発だとか,話しながら姿勢を変えやすいなどというのも確かなことではない。
アダム・クチャルスキー 柴田裕之(訳) (2017). 完全無欠の賭け:科学がギャンブルを征服する 草思社 pp. 268

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