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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   

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検索語の意味

 ここでちょっと「子供を持ったことを後悔している」などと検索することの意味を考えてみよう。グーグル自体は情報を調べる手段として存在している。天気予報や昨晩の試合結果,自由の女神はいつ建てられたのかなどだ。だが時に人は,たいして期待もせずに赤裸々な思いを検索ボックスに打ち込む。この場合,検索ボックスはいわば告解の場だ。
 毎年,こうした検索は膨大な数に上る。「寒い季節は嫌いだ」とか「どいつもこいつもウザい」とか「寂しいわ」などだ。もちろんこうした数千件程度の「寂しいわ」検索は,実際に寂寥をかこっている数億人のごく一部が行っているに過ぎない。情報の代わりに考えや感情を検索することは,私が調べたところ,そんな考えを抱いたごく一部に限られている。同様に米国で「子供を持ったことを後悔している」と検索する年に7000人の人々も,私の調査によれば,そう感じている人々のごく一部だ。
 子供は多くの人にとって,いやおそらくほとんどの人にとって,大きな喜びをもたらす。そして私の母は,「あんたとあんたのバカげたデータ分析」のせいで孫の数が減ってしまうのではと恐れているが,この研究は別に私の子供を持ちたいという願望を変えていない。だが子供を持つことをめぐるこの不穏当な検索は興味深い。そして旧来のデータセットには見られない人間性の一側面を示す証拠の一つだ。我々の文化は,常に幸福な赤ちゃん像で満ちている。たいていの人は,子供を持つことを後悔をもたらすものとは考えないだろう。だがそんな人もいるのだ。そして彼らは誰にもそれを認めないが,グーグルに対してだけは別なのだ。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 130-131

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Googleの魔法

 前世紀にネットを使っていた古株なら,メタクローラー,ライコス,アルタビスタなどをはじめ,当時のさまざまな検索エンジンを覚えているはずだ。そしてこれらがもう1つ頼りにならなかったことも。運が良ければ探し物が見つかるが,たいていそうではなかった。1990年代後半に最も人気のあった検索エンジンに「ビル・クリントン」を入力すれば,検索上位に気まぐれの様に現れるのは「ビル・クリントンはクソ」などという誹謗サイトか,クリントンをこき下ろすジョーク集などだった。現職大統領についてのまっとうな情報が得られることはめったになかった。
 1998年,グーグルが現れた。そしてその検索結果は,明らかに他を圧倒していた。1998年に「ビル・クリントン」と検索すれば彼のウェブサイトを筆頭にホワイトハウスのeメールのアドレスやネット上で最高の評伝が表示された。グーグルは魔法のようだった。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 76-77

Google Correlate

 一方,グーグルでは「グーグル・コリレイト(Google Correlate)」というサービスを開発していた。これを使えば,健康関連だけでなくさまざまな分野で同様の分析ができる。経時的に追跡している任意のデータ系列に対して,最も相関性の高い語句検索がわかるのだ。
 たとえば,グーグルのチーフ・エコノミストのハル・バリアンと私は,住宅価格に最も深く関わっている検索語を明らかにできた。住宅相場の上げ局面では,米国人は「80/20ローン」(借入総額を8割と2割の2本のローンに分割して頭金やローン保証の支払を避けるタイプの契約)とか「新築工務店」とか「価格上昇率」などの単語を複合検索していた。下げ局面での検索ワードは「早期売却」とか「ローン残額割れ」(住宅の実勢価格がローン残額を割り込んだ状態)とか「住宅ローン債務免除益法」などが増える。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 73-74

正しいデータが必要

 実際,最先端のビッグデータ会社は,えてして自前のデータを細分化しているものだ。グーグルでは,膨大な手持ちデータからごく一部を抽出した資料に基づいて重要な決断を下している。重要な知見を得るのに,必ずしも膨大なデータは必要ないのだ。必要なのは正しいデータだ。グーグルのデータの価値が非常に高いのは,規模が大きいからではない。人々が真情を吐露しているからだ。人は友人にも医者にも恋人にも自分自身にも嘘をつく。だがグーグル上では,引け目を感じることでも気後れなく入力する。セックスレスな結婚生活や精神衛生や黒人に対する悪意などは,そのごく一例に過ぎない。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 35

トランプ支持者の検索語

 人々はしばしば嘘をつく。他人に対しても,そして自分自身に対しても。2008年,米国人はサーベイに,もはや人種なんて気にしていないと答えた。8年後,彼らはドナルド・J・トランプを大統領に選んだ。白人のアメリカ人に対する殺人の大半は黒人によるものというデマをリツイートし,ある選挙集会では「黒人の命が大切」運動の旗印を掲げた抗議者への暴行をかばい,クー・クラックス・クランの指導者だった人物からの指示を拒むことを渋った男を選んだのだ。バラク・オバマの足を引っ張った隠された人種差別が,ドナルド・トランプの追い風になったのだ。
 予備選の初期,ネイト・シルバーは,トランプが勝つ見込みはないに等しいと宣言した。予備選が進みトランプが広範な支持を集めていることが明らかになるにつれて,シルバーは何が起きているのかデータで検証することにした。いったいどうしてトランプはこんなに快調なのか?
 その結果,トランプが最も優位な地域をつなぎ合わせると,奇妙な地図ができることがわかった。北東部,中西部工業地帯,そして南部で勢いがあり,西部では不振を極めていたのだ。シルバーはこの勢力図を説明できる変数を探した。失業率か?宗教家?銃所有率か?移民率か?反オバマ率か?
 そしてシルバーは,共和党候補予備選挙でドナルド・トランプの支持に最も相関性の高いある要因を見いだした。それは私が4年前に見出した判断の手がかりだった。トランプ支持が最も強かった地域は,「ニガー」という語を最もよく検索していた地域だったのだ。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 25-26

検索で投票がわかる

 私たちは,見たところ中立的なこの検索が,ある人物がどちらの候補に投票しようとしているかを探る手がかりになることを発見した。
 どのようにか?候補名の入力順だ。我々の研究によれば,両候補を含む検索においては,支持候補の名前を先に入力することのほうがはるかに多い。
 過去3度の大統領選では,検索語として先に入力された候補が当選している。さらに面白いのは,この入力順は,個々の州の投票動向の良い先行指標になることだ。
 候補の検索入力順は,世論調査が見逃している情報をも含んでいる。2012年にオバマと共和党のミット・ロムニーが戦った際,統計学の達人でジャーナリストのネイル・シルバーは,50州すべての当落予想を的中させた。だがロムニーの名をオバマより先に入力した州では,ロムニーは実際,シルバーの予想を上回る得票ぶりだったことが,私たちの検証でわかった。オバマを先に入力することの多かった州でも,オバマはシルバーの予想を上回る勝ちぶりだった。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 23

検索自体が情報

 言い換えるなら,人々が情報を求める検索は,それ自体が情報なのである。人々が何かの事実,発言,ジョーク,場所,物事,あるいはヘルプについて検索するとき,それは彼らの本当の考え,望み,あるいは恐れについて,どんな推測よりも性格に明かすものとなる。人々が時に何かを調べるというよりむしろ告白するかのようにグーグルを利用するのは—「上司が嫌いだ」,「私はアルコール依存症だ」,「父に虐待された」など—まさにその恒例だ。
セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介(訳) (2018). 誰もが嘘をついている:ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性 光文社 pp. 15

細菌をつける

 膣内ガーゼ法とは,私の妻のグロリアがプエルトリコで学んだ方法だった。考え方は単純で,帝王切開で生まれた子どもは母親の膣細菌への暴露機会がないので,それを人工的に行うというものである。母親あるいは医療介助者がガーゼを膣内に入れ,細菌で満ちた分泌物を優しく子どもの皮膚や口に塗るのである。経膣出産と全く同じというわけではいかないが,細菌学的には正しい方向の選択となる。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 222

細菌とともに

 私の中心的考えを繰り返しておくと,それは,常在菌が繁栄するに従い,ヒトはそれら細菌とともに,代謝,免疫,認識を含む集積回路を発達させる,というものだ。ところが私たちは,常在菌へのこれまでにないほどの激しい攻撃に直面している。何でもかんでも抗生物質や他の近代的医療実践のせいにしようとしているように聞こえるかもしれないが,私が指摘しているのは20世紀後半に劇的に増加した諸疾患についてで,その時期は近代的医療が展開された時期でもあった。確かに,それぞれに個別の原因が存在している可能性はあるし,実際にそうだろう。しかし多くの人びとに臨床的な沈黙から明らかな病態への一線を越えさせるような,単一の要因の存在もありうる。それは防御機能の残高が枯渇しているときに蓄えを失い,新たな出費があるたびに残高がマイナスになっていくようなものである。幼少の成長期にマイクロバイオームの構成が変化を被ることがその原因ではないだろうか。私はそう考えている。5年前に予想したように,ある世代の変化は,次の世代にも影響を与える。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 204

グルテンアレルギー

 セリアック病(名前の由来は「腸管内の中空」を意味するギリシャ語)になると,患者は小麦に含まれる主要なタンパク質であるグルテンにアレルギーを示す。グルテンは小麦だけでなく,大麦やライにも含まれる。少量のグルテンでも,免疫反応が引き起こされ,健康な小腸細胞が障害される。別な言葉で言えば,免疫はグルテンを食物ではなく,致死的な外来者として認識するのである。症状は,腹痛,下痢,腹部膨満,倦怠感。何ヵ月にもわたってグルテンを避けたとしても,グルテンにふたたび暴露するや,症状は再発する。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 191

抗生物質と肥満

 結果は以下のようなものだった。生後6ヶ月以内に抗生物質を投与された子どもは,より肥満傾向にあった。想定内の結果であった。生後早期に抗生物質を投与されればされるほど,家畜への抗生物質の影響は強い。ローリーもマウスの実験で,生後早期における投与はより影響が大きいことを示していた。ヒトの赤ん坊の成長にとってどの時期が最も重要かと言えば,それは最初の数カ月だということになる。
 農場と同じように,マウスの実験,あるいはヒトの子どもの疫学的研究でも,生後早期の抗生物質への暴露は身体を大きくする,あるいはより多くの脂肪を蓄積することを示した。私たちはさらにマウスでさまざまな実験をしたが,結果は常に同じ方向を示した。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 182

2歳の身長を2倍

 最も成長速度が速い時期は,思春期であると多くの人が信じている。しかしそれは正しくない。最も成長が速いのは生後2年半までである。最終的な成長に関しても,それは決定的な時期にあたる。経験豊かな小児科医は,二歳のときの身長を二倍すると,その子が大人になったときの身長を予測できることを知っている。アジア系の養子に関する研究は,アメリカに渡ったときの子どもの年齢が三歳以前であれば,その身長はアメリカの子どもの平均に近づくことを示す一方,移住の時期が三歳以降の場合,身長は出身国の平均に近いものとなることを示す。身長に影響を与えるのは幼少期なのである。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 160

胃酸の調整

 事実,私の研究室で行った研究のひとつはピロリ菌が胃酸の調整を助けているということを示した。ピロリ菌が炎症を引き起こし,炎症が胃のホルモンに影響を与え,それが胃酸産出のスイッチを「オン」にしたり「オフ」にしたりする。生まれて最初の10年間,胃酸のバランス調整機能はよい。顕微鏡で見ると,胃酸を産生する内分泌腺は,そよ風に揺れるシダの葉に似ている。しかし年をとるにつれ,慢性の炎症が胃壁を覆い始める。ピロリ菌を持った人では,それがより早く広範囲に起こる。胃酸を産生する内分泌腺は短く平らになり,胃酸の産生が減少する。萎縮性胃炎である。結果として胃潰瘍になる可能性は低くなる。シュヴァルツの「胃酸なくして潰瘍なし」という格言は正しい。
 しかし子ども時代にピロリ菌に感染しなかった人,あるいは抗生物質によってピロリ菌を根絶した人は,胃酸の高生産を40代になっても続ける。これほど多くの人が胃酸の分泌量が衰えることなく中年に達するというのは,おそらく人類史上初めての出来事ではないだろうか。そうした人々にとって,胃内容物が食道中に逆流することは,酸性度の高い胃酸が食道に障害を与えることを意味する。ピロリ菌感染率が劇的に低下した今日の子どもの多くは,以前とは異なる胃酸調整システムとともに成長する。子どもにおける胃酸逆流は,かつては稀であったが,現在では増えており,多くの子どもが制酸薬の投与を受けている。こうした現象には何らかの関連性があるのだろうか。
 私たちは,病原菌として発見されたピロリ菌が両刃の剣であるということを発見した。年をとれば,ピロリ菌は胃がんや胃潰瘍のリスクを上昇させる。一方で,それは胃食道逆流症を抑制し,結果として食道がんの発症を予防する。ピロリ菌保有率が低下すれば,胃がんの割合は低下するだろう。一方,食道腺がんの割合は上昇する。古典的な意味でのアンフィバイオーシスである。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 141-142

成人間では感染しにくい

 面白いことに,大人同士が一緒に暮らしてもピロリ菌の伝播はそれほど高くはならない。二つの研究がそれを示唆する。私たちは不妊クリニックを受診したカップルの調査をした。受診した二人は,他のカップルより身体的接触が多いと予想された。しかし一人が保菌者である場合に,もう一人も保菌者である割合には,偶然以外の要素はなかった。同じカップルに関して性感染症の調査も同時に行ったが,梅毒や淋病の原因菌は,カップル間でより共有されていた。ピロリ菌が成人間で感染することは多くないと考えられた。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 130-131

ピロリ菌と逆流性食道炎

 ピロリ菌と胃食道逆流症の間に正の相関関係を見つけようとしたのである。にもかかわらず,リックは逆に両者の間に負の相関関係を見つけることになった。ピロリ菌を持139たない患者は,胃食道逆流症を発症する割合が2倍も高かった。後の研究で,その割合は8倍に及ぶことが分かった。どうすれば,こうした現象を説明できるのだろうか。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房

ピロリ菌の減少

 私たちの研究は次のようなことも示した。20世紀初頭にアメリカで生まれた人の多くはピロリ菌の保菌者であった。しかし1995年以降に生まれた人で言えば,その割合は6パーセント以下となる。同じ傾向はドイツや北欧でも見られた。事実,ピロリ菌は世界中のどこでも減少を続けていた。先進国ではその速度が速いだけで,開発途上国でもやはり減っていた。この違いには,地理的要因ではなく社会経済的状況が影響しているようだった。貧しい人はピロリ菌を保持する傾向にあり,豊かな人々はそうではない。これは世界的な傾向であった。ピロリ菌を持たないことは,豊かであることと同様によいことと見なされているかのようでさえあった。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 128

ピロリ菌の由来

 遺伝子解析の結果,現代のH.ピロリは5つの祖先グループから生じたものであることが分かっている。アフリカ由来のものが二種類,ユーラシア由来のものが二種類,東アジアに由来するものがひとつである。H.ピロリをヒトの移動と関連づけて追跡することも可能である。私たちの研究は,約1万1000年前に人類がベーリング海峡を渡ったときに,東アジア型H.ピロリも一緒に旧世界から新世界に渡ったことを示している。今日,ヨーロッパ型H.ピロリはラテンアメリカの海岸都市で優勢である。スペイン人の到着以降に起こった人種混血の結果であろう。一方,純粋な東アジア型H.ピロリは高地やジャングル奥深くに暮らす先住民の間で今も発見される。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 117-118

出生時の細菌接触

 出産過程が長いか短いかにか変わらず,無菌であった新生児は,やがて膣内に存在していた乳酸桿菌と接触する。膣は手袋のような柔らかさをもって新生児の表面を覆いつくし,それによって母親の細菌が移植される。新生児の皮膚はスポンジのようなものである。新生児は顔を母親の背中に向けて,ぴったりとくっつくようにして産道を通過する。新生児が吸い込む最初の液体は母親の細菌を含んでいる。いくぶんかの糞便も含まれている。出産は無菌的ではない。その営みは,初期の哺乳動物の頃から7000万年にもわたって繰り返されてきたものである。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 104

食べ物のなかの抗生物質

 問題は,畜産業が供給する食べ物に含まれる抗生物質耐性菌に限らない。抗生物質自身が食べ物(とくに肉や牛乳,チーズ,卵といった食物)とともにやってくる。食品医薬品局は農家に,抗生物質を最後に投与したときから家畜が屠畜されるまでの間に,抗生物質を浄化するための期間を設けることを求めている。しかし監査は稀で,強制力は限られたものにすぎない。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 94

抗生物質と体格

 細菌存在下で育てられ,かつ,低容量の抗生物質を与えられたニワトリは,抗生物質非投与群のニワトリよりも大きく育った。一方,無菌下で飼育されたニワトリは,抗生物質を投与されたニワトリもされなかったニワトリも,成長に違いが見られなかった。驚くべき結果だった。これはニワトリの常在細菌が「成長促進」効果の発揮に必要だということを示している。抗生物質は単独では効果がなかった。この発見は50年以上も前になされていながら,無視され,そして忘れられていたのである。
 要は,5パーセント,10パーセント,15パーセントの家畜の体重(食肉)増を低コストで達成できることに,畜産業が気づいたということである。当然の帰結として,彼らが投入する餌に対して得られる食肉は増えた。製薬会社も,抗生物質を畜産家に売ることで巨額の利益が上がることを発見した。医師にミリグラム単位で抗生物質を売るのと違い,こちらはトン単位での商売である。
マーティン・J・ブレイザー 山本太郎(訳) (2015). 失われてゆく,我々の内なる細菌 みすず書房 pp. 91

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