読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。
悪態は言語能力の欠如という思いこみにとどめを刺したのが,マサチューセッツ・カレッジ・オブ・リベラル・アーツ(MCLA)の心理学者チームが最近発表した研究だ。ここでは言葉の全般的な能弁さと,悪態の能弁さを比較している。まず前者を調べるために,アルファベットの特定の文字で始まる単語を,1分間にできるだけたくさん書きだすテストを行なった。書いた単語が多いほど,言語スキルが高いことになる。悪態のほうも同様に,1分間に思いついた悪態をたくさん書き出してもらった。
2つのテストの成績をくらべたところ,言語全般の得点が高い人は悪態も点が高く,前者の成績が悪い人は悪態の成績も悪かった。このことから,悪態は言語能力の低さ(語彙の貧しさ)を示しているどころか,むしろ高度に言葉を操れる人が,最大の効果をねらって用いる手段だと言えるのではないだろうか。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.89-90
1.社会的悪態――侮蔑の意図はない
(例)I didn’t know what the fuck I was wearing.(うわ,あたしってばひどい格好)
2.不快表現の悪態
(例)Oh shit I’m getting lost.(くそっ,道に迷っちまった)
3.侮蔑的悪態
(例)The people on night fills are arseholes.(夜勤の連中はアホばかりだな)
4.様式的悪態――発言にニュアンスをつける
(例)Welfare, my arsehole.(生活保護ってやつね)
科学的な分析によって,悪態を口にする状況はこのように4種類存在することがわかった(私としては,様式的悪態は社会的悪態に含めたいところだ)。あと習慣的悪態というのも追加できそうだ。最初は社会的な状況で発していたものが,本人のボキャブラリーに組み込まれ,大した理由がないのに連発してしまうというものだ。汚い言葉を意味もなく矢つぎばやに発することが多いゆえに,悪態は知性や言語表現力の欠如に結びつけられることが多いが,話はそれほど単純ではない。むしろ逆の可能性を示唆する研究結果もある。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.86
酒を飲むと異性がセクシーに見えてくる。いわゆる「ビール・ゴーグル効果」だ。昔から知られていたこの現象を,初めて科学的に記録したのがグラスゴー大学の心理学者チームだ。とはいえ彼らの研究を「科学的」と呼ぶのは,過大評価の感なきにしもあらずだ。研究者たちは大学内に何か所かあるバーに出向き,酔っぱらった学生たちに顔写真を見せて,1~7点の範囲で点数をつけてもらっただけ。ただそれでも,科学的調査の体裁はいちおう整っている。それで結果はというと,異性愛志向の適量飲酒者(アルコール摂取量が6単位まで)では,異性に対する評価が高くなった。酒を飲んでいる女性は,飲んでいない女性よりも男性の顔写真を魅力的だと評価したのだ。男女を入れかえても同様だった。相手に魅力を感じることは,関係を築く第一歩だろう。したがってこの調査もまた,酒が人間関係の促進剤であることを物語っている。酒が入ると社交的になるのは,相手がすてきに見えてくるからだということも,この調査からわかる。
リチャード・スティーヴンズ 藤井留美(訳) (2016). 悪癖の科学:その隠れた効用をめぐる実験 紀伊國屋書店 pp.70