I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「社会心理学」の記事一覧

EFL

地球上の無数にいる人の中には,嘘の見抜き方を熟知している者がいる。それが“真実を見ぬく魔法使い”だ。1万5000人以上の人にいくつかの映像テストをおこなった結果,嘘を感知するスーパースター軍団が発見された。普通の人が嘘を的確に見破る確率は5分5分——つまり,まぐれ——なのに対して,“真実を見ぬく魔法使い”は80パーセント以上の確率で嘘を見破る。現時点で,実験によって発見された“真実を見ぬく魔法使い”は50人ほどいる。
 そのひとりの女性は自分のことを“嘘が見える目(アイズ・フォー・ライズ)”,略してEFLと呼んでいる。EFLは中年で,茶色の髪に茶色の目。ジャーナリズムの学士号と,科学の修士号を持っている。彼女にとって嘘の感知は,ヨーヨー・マやジミ・ヘンドリックスにとっての音楽と同じだ。その分野の鬼才というわけだ。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.122

嘘を見破る迷信

目をそらす
 体を前後に揺する
 唇を噛む せわしなく足踏みをする
 鉛筆をもてあそぶ
 耳にさわる
 左を見る
 鼻にさわる
 わざと友好的な態度を取る

 以上のような手がかりのせいで,なぜ嘘を見抜くのが苦手なのかがはっきりわかる。私たちは嘘を見抜くための手がかりを知っていると思いこんでいるが,その手がかりの多くが実はあてにならないのだ。右に挙げた手がかりが必ずしも嘘の証拠というわけではない。
 とはいえ,そういった手がかりのいくつかが嘘を表していると,あなたが思い込んでいたとしても不思議ではない。ある研究で,サモアから中国まで58カ国の人々に,どんなしぐさによってうそがわかるかと質問した。回答として無数のしぐさが挙げられたが,目をそらす——メラニーのように目を合わせない——というのが一番多く,それこそがもっとも確実な嘘の証拠と考えられていた。だが,実際には,人がどこを見ているかということと,嘘をついているかどうかに明確な関連はない。嘘の証拠として多くの人が信じこんでいる手がかりの大半は,迷信のようなもので,なんの証拠もないのだ。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.109-110

嘘の手がかり

配偶者や子供,従業員や友人が嘘をついていても,態度や声から得られる手がかりはほんのかすかなものでしかない。声やそれ以外の複雑な手がかり——表情,ジェスチャー,間,顔が赤くなる,声の抑揚,言葉の選び方,うなずき,姿勢,まばたき,落ち着きのなさ,アイコンタクト,話す速度,脚の動き——を相手が発していても,あなたがそれに目を向けようとしなければ,何ひとつ気づかないこともあり得る。
 さらに事態をややこしくしているのは,手がかりに気づいたと思っても,実際には,それは嘘とはなんの関係もなく,話者が不安を感じているだけかもしれない。殺人について警官に訊かれたら,嘘の達人だろうと正直者だろうと,不安のシグナルを発するものだ。そしてまた,さまざまな研究がおこなわれているにもかかわらず,嘘を見極める明確な合図は見つかっていない。ピノキオの鼻とちがって,嘘をついても,わたしたちの鼻は伸びないのだ。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.107

破綻の予測

ゴットマンとその研究チームは,カップルが見せる複雑な行動を秒単位で仔細に観察し,その結果をもとに,幸福な夫婦と破綻する夫婦を予測した。まず研究室に被験者となる夫婦を呼んで,金銭やセックスなど夫婦関係で争点となる話題を話し合わせるという実験を繰り返した。夫婦が差し向かいで話し合う様子を録画し,なおかつ,心拍数などを測定する装置で身体的な変化も追跡した。そうして,被験者のふるまいを点数化したのちに,追跡調査をおこなって,結婚が続いているか,破綻したかを調べた。
 ゴットマンの研究から得られた心理学的発見はひじょうに興味深い。ゴットマンとその研究チームは,被験者の夫婦の会話をもとに,結婚したままでいる夫婦と,離婚する夫婦を90パーセントの精度で予測したのだ。さらに,驚くべきことに,夫婦が問題点について話し合いをはじめてからわずか3分間の会話だけで予測した。大多数の夫婦では,話し合い開始直後の3分で,その後の会話がどんな方向に向かっていくか,完全に予測できるというわけだ。ゆえに,今あなたの目の前にいるカップルが,喧嘩をはじめるやいなや激しく非難しあって,不快そうな表情を浮かべているとしたら,その後もそれと同じ状態が続くと考えてまずまちがいない。逆に,問題点を話し合いながらも,肯定的な方向を目指して努力するカップルであれば,最後までその状態が持続する可能性が高い。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.93-94

同性愛感知

同性愛を感知する能力は万国共通のものらしい。それもまた,その能力が進化によるものという解釈を裏づけている。ある実験では,日本,スペイン,アメリカ出身の男女が,男性の性的指向を正確に見抜いた。だが,3つの国の実験結果の差が,すべてが進化によるものではないことを示している。アメリカの被験者は,日本やスペインの被験者より,すばやく正確に性的指向を見抜いた。さらに,被験者がまちがえるパターンが,国によって異なっていた。日本——3国の中では同性愛があまり受け入れられていない国——の被験者は,アメリカやスペインの被験者に比べて,同性愛者と異性愛者を見まちがえる確率がかなり高かった。この実験結果はもちろんのこと,ほかのさまざまなデータも,同性愛の予測には文化的要因が一役買っていることを示している。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.61-62

性的指向と人種

性的指向に関する知覚は,私たちにとって重大問題で,ときに悲惨な結果をもたらす。アメリカでは,マイノリティーの同性愛者は憎悪犯罪(ヘイトクライム)の標的になりやすく,アフリカ系では約2.5倍,イスラム教徒では約4.5倍にものぼり,その傾向はますます顕著になっている。
 同性愛者に対する否定的な考え方は,研究室でおこなわれた実験にもはっきり表れている。トロント大学の研究者は,民族性との相関関係という観点から,同性愛者と異性愛者に対する見方をテストした。インターネットのデートサイトに掲載された男性の顔写真を,その男性の性的指向を伏せて,被験者に見せた。写真の男性は次の4つのいずれかにあてはまる。

1.異性愛者の白人男性
2.同性愛者の白人男性
3.異性愛者の黒人男性
4.同性愛者の黒人男性

 それぞれの写真を見せて,被験者に「平均的なカナダ人にとって,この人はどのぐらい好ましい男性か?」と尋ねた。
 異性愛者の白人男性は,異性愛者の黒人男性に比べて,はるかに好感度が高かった。性的指向と民族性の関係を考えるにあたって,ひじょうに興味深い結果だ。また,同性愛者の白人男性よりも異性愛者の白人男性のほうが,はるかに好ましいという結果だった。黒人男性に関しては,真逆の反応だった。異性愛者の黒人男性より,同性愛者の黒人男性のほうが好感度が高かったのだ。被験者が写真の男性の性的指向を知らないことを,いま一度思い出してほしい。また,写真の男性の中に同性愛者がいると指摘した被験者はいなかった。
 この実験結果に私は大いに興味を抱いた。なぜなら,性的指向に関する無意識の予測と,意識的に知覚する差異——たとえば人種など——が相まって,人に対する印象に影響を及ぼしているからだ。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.49-50

相手の目を見る

相手の目を見る——特に話をしているときに相手の目を見る——人は,知性的な印象を与えるばかりか,実際に知能が高い。テンポよく,大きな声(といっても,大きすぎてはいけない)で明確に話をする人のほうが,頭の回転が速いとする証拠もある。そして最後に,美しい顔立ちは知的であることを表わしている。といっても,それは“美しさのレベルが半分以下の顔”の場合。つまり,ごく普通の人にだけあてはまる。もちろん,これはあくまでも一般的にということであって,端正な顔立ちで,顔をまっすぐ見つめてきて,よどみなくすらすらと話をしても,頭が鈍い人は大勢いるし,どちらかというと醜い顔で,目をそらして,ゆっくり話す人の中にも非常に賢い人もいる。
 “見せかけの知性”を装って,実際よりも知的だと相手に思わせるのは,人が得意とするところだ。意識的に演技して,相手にほんの束の間でも知的な印象を抱かせるのは,その気になればできないこともないというわけだ。逆もまた然りで,実は賢くない人を相手にしていながら,いとも簡単に欺かれて,知的という印象を抱かされるかもしれない。

マシュー・ハーテンステイン 森嶋マリ(訳) (2014). 卒アル写真で将来はわかる:予知の心理学 文藝春秋 pp.26-27

嘘を見破れるか

しかし,嘘の専門家たちによれば——嘘をついてくれと被験者にしょっちゅう頼んでいるアメリカの心理学者のことだが——大部分の人は,本人の自信とは裏腹に,嘘を見破るのがすこぶる下手らしい。これまでの研究を分析した専門家は,人が正直者と嘘つきをうまく見分けられる率は54パーセントにすぎず,当てずっぽうとさして変わらない結果だったと2006年に結論している。意外な話だが,嘘をついている相手と親しければ親しいほど,ますます嘘を見抜けなくなるという。警官,判事,心理学者といった,嘘と真を区別するのが仕事の人々でさえ,成功率が50パーセントを大きくうわまわることはないらしい。

ケン・オールダー 青木 創(訳) (2008). 嘘発見器よ永遠なれ:「正義の機械」に取り憑かれた人々 早川書房 pp.31

ゆるいつながり

フェイスブックに先駆けること25年以上前,社会学者でスタンフォード大学教授のマーク・グラノヴェッターは,最初にして,もっとも有名になったソーシャル・ネットワークについての研究を発表しました。彼はネットワークがいかにして社会移動性を育むかという点,いかに人を新たなチャンスに導くかという点に興味を持っていました。そして,ボストン近郊で転職した人たちを調査した結果,仕事探しを助けてくれたのは,(もっと助けてくれそうな)親しい友人でも家族でもなかったことがわかりました。新しい仕事の4分の3以上が,むしろ「たまにしか」,あるいは「めったに」会わない人物のつてによってもたらされたのです。この結果をもとに,グラノヴェッターは「弱い紐帯の強み」と題する画期的な論文を世に問いました。あまり親しくない知り合いの持つユニークな価値についての論文です。
 グラノヴェッターによると,すべての人間関係やつながりが同じ重みを持つわけではありません。ゆるいものもあれば強いものもあり,つながりは,ときと経験とともにさらに強化されます。だれかといっしょにいればいるほど,絆は強まります。なぜなら,おそらく,わたしたちは経験と信頼を分かち合うからです。子供時代においては,強いつながりとは,家族と親友のことです。20代における強いつながりは,都会派ルームメイト,パートナー,親密な友人たちとのあいだで育っていきます。
 ゆるいつながりとは,わたしたちが会ったことのある,あるいは最近は会ったことがなくても,なんらかの関係や縁故がある相手を言います。ただし,目下あまり付き合いのない,よく知らない人です。具体的に言うと,ふだんはあまりしゃべらない職場の同僚であったり,外であいさつを交わすだけの隣人だったりするでしょう。また,いつか会う機会があるかも知れないけれど,まだ一度もその機会を得ていないという知人です。そういう人をだれでも1人や2人は知っていると思います。もう何年も連絡をとっていない友人の場合もあります。さらに,以前の雇い主や大学の恩師も考えられます。つまりは親密な関係を築いてこなかった人びとすべてです。

メグ・ジェイ 小西敦子(訳) (2014). 人生は20代で決まる:TEDの名スピーカーが贈る「仕事・結婚・将来設計」講義 早川書房 pp.58-59

信用できる顔か

プリンストン大学のアレクサンダー・トドロフと同僚は研究によって,「この人は信用できるか否か」という瞬時の判断につながる外見的要素をわりだした。「信用できる」とされる顔の特徴は,口角の上がった口もとや大きく見開かれた目,そしてはっきりした頬骨などで,逆に「信用できない」と判断されがちな特徴は,下がり気味の口角や眉尻の上がった眉毛,そして頬骨が平板だったり落ち窪んでいたりすることだ。
 ロンドン大学のレイ・ドランとその同僚は研究の結果,脳の中でこうした「信用できない」顔にとりわけ強く反応するのは扁桃体であること,そして扁桃体が脳内の警報システムを作動させ,不吉な感覚をもたらすことを発見した。扁桃体が傷を受けると,この自然の警戒機能はなくなってしまう。

エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.134-136

計画錯誤に注意

目標を決めるときは,心理学で言うところの「計画錯誤」に気をつけよう。若い学生からベテランの企業役員まで,誰でもこの症状に冒される。ハイウェーや建物が,予定より6か月早く完成したという話を聞いたことなどあるだろうか?予定は遅れ,予算はオーバーするのがふつうだ。
 計画錯誤については,学位論文を書いている大学4年生を対象にした実験で数値化されている。ロジャー・ビューラーという心理学者と同僚たちは,論文を書いている学生にいつごろ書き終わるか尋ね,最短のケースと最長のケースを予測してもらった。学生たちが予想した日数は平均34日だったが,実際かかった時間はその2倍近くの56日だった。最短のケースの日数で書き終えた学生は,ほんの一握りしかいなかった。最長のケースは,すべてがうまくいかないという前提で考えたスケジュールなのだから,守るのはたやすいだろう。すべてがうまくいかないことはめったにないのだから。ところがそれは違った。最長のケースと予想した日数で書き上げた学生は,半分もいなかったのだ。計画錯誤は誰でも陥る可能性があるが,どたんばになって集中的に仕事を終わらせる先延ばし常習者にとっては,大きな打撃となる。締め切り前に相当な時間を取っていれば,その戦略もうまくいくかもしれないが,そんなことはしないだろう。仕事にかかる時間を少なく見積もりすぎて,あとになってじゅうぶんな時間がないことに気づく。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.314-315
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

少しずつ

大きな変化を急激に起こそうとすると,それが無理だと思えたとき逆効果となる。完全な禁煙ができないなら,1日に吸う数を2,3本に減らすことを目指してみよう。飲み過ぎだとわかっていても完全にアルコールを断てないなら,週単位で計画を立てて,飲むのは週末だけにする,あるいは週に何日か飲まない日を決めて,あとは何を飲んでもいいことにする。それなら我慢できるかもしれない。あなたは飲んでいるとき,何時間か飲むのをやめて自分の状態をチェックし,また飲み始めるかどうか考えられるだろうか。もしできるなら,それを実行することがダメージを最小限に抑えるよい方法になるだろう。けれどもあなたがそういうタイプでないなら,自分をごまかすのはやめよう。効果的なのは,意志力の使い方まで計画することだ。今日,今夜,そして来月,意志力をどのように使うか。この先,税金を払うとか旅行をするとか,特にたいへんなことが予定されているなら,余分な意志力をどこで調達するか考えておこう。たとえば他の作業に使う意志力を削ってそちらに回すといったことも考えられる。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.312-313
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

衝動性

問題に思える性質は「衝動性」で,それは先延ばしの研究で繰り返し現れる。先延ばしは女性よりも男性,特に若い男性にとって大きな問題であることが,最近の研究で証明されたが,このことも衝動性説を裏付けるよすがになる。男性のほうがコントロールするのが困難な衝動を持っているのだ。難しい仕事に不安を感じるとき,あるいは日常の雑務に退屈しているとき,何か他のことをして気分を高めたいという衝動に負けてしまう。彼らは目の前にある楽しみに飛びつき,期末レポートを書く代わりに,ビデオゲームをしたりキッチンの掃除を始めたりする。そしてそれが長期的にどんな結果をもたらすかは無視しがちだ。締め切りのことが思い浮かんだら,最後の最後まで待つほうが賢明だとさえ考える。「締め切りのプレッシャーを受けながら仕事をするときが一番はかどるんだ!」。しかしほとんどの場合,彼らは自分をごまかしていることを,バウマイスターとダイアン・タイスが突き止めた。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.303
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

オプラ・パラドックス

これを私たちは「オプラ・パラドックス」と呼んでいる。いくら自己コントロールに長けた人でも,体重のコントロールには苦労する。彼ら,彼女らはその意志力により,さまざまな形で活躍する。学校や職場で,人間関係においても,自分の内なる感情の世界でも。しかしスリムな体型を保つことに関しては,他の人たちより優れているわけではない。バウマイスターとオランダの研究者たちが自己コントロール能力の高い人を分析したところ,彼らは体重のコントロールについても平均以上の成果をあげるが,その差は他の分野で見られるほど顕著ではなかった。このパターンは減量プログラムに参加している肥満の大学生の間でも見られた。それはバウマイスターとジョイス・エルリンガー,ウィル・クレシオーニ,そしてフロリダ大学の研究者たちが大学生を対象に行なった実験で,プログラムが始まったばかりのころは,性格診断テストで自己コントロール能力が低い学生に比べると,始めた段階での体重もやや少なく,運動もしていた。そして12週間のプログラムを進める間に,その優位性は高まった。それは彼らが食事制限や運動量の増加というルールをきちんと守れたからだ。しかし自制心が体重コントロールに役立つとはいえ,実験の前にも,実験中でも,その違いはさほど大きくないようだった。自己コントロール能力が低いより高いほうが有利だ。しかしそれほど大きな差は生じない。
 プログラム終了後に学生たちの追跡調査を行なえば,ほとんどの学生はすぐに体重が増加し,オプラ・ウィンフリーをはじめ,多くのダイエット挑戦者と同じ道をたどったという結果が出るのは間違いないだろう。自己コントロール能力はエクササイズの習慣を維持するのに役立つが,エクササイズをすれば確実に減量できるわけではない(しかし自己コントロール能力は,多くの理由からやはり価値のあるものだ)。自己コントロール能力が高かろうと低かろうと,エクササイズをしてもしなくても,ダイエットに挑戦しても,体重を落としてそれをずっと維持できる可能性は少ない。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.275-276
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

食事とダイエトには役立たない

メタ分析によるもう1つの思いがけない発見は,自己コントロールは仕事や勉強には役立つが,食事とダイエットに関してはあまり効果を発揮しないということだ。比較的自己コントロール能力が高い人は,体重もそこそこうまく管理できるが,他の性質に比べると効果はそれほど大きくない(その理由については,あとの章で述べる)。感情の調整(満足を感じる,健全な自尊心を持つ,絶望しないなど)や,親しい友人,恋人,親戚とうまくつきあうことなどにも,自己コントロール能力は適度な恩恵をもたらしてくれる。しかし最も効果を発揮したのは学校や職場である。優秀な学生や労働者が良い習慣を身につけていることは他でも証明されているが,それを裏付ける結果が出た。卒業生代表になるような学生は,大きな試験の前に徹夜で勉強するタイプではなく,学期の最初から最後までこつこつ勉強するタイプだ。長期にわたって着実に仕事をこなす労働者が,長い目で見ると最も成功しやすい。

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.202
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

情報公開

情報を公開することで,自分の恥をさらす可能性はある。自分では当たり前すぎて気づかない進歩の兆候を,第三者に指摘されて励まされることはよくある。そしてうまくいかないとき最も効果的な解決法は,どこかに助けを求めることなのだ。人気QSアプリケーションの「ムードスコープ」を開発したのは,うつ病と闘い自分の体調を監視する助けを求めていた,ある起業家だった。彼は自分の気分を測定する簡単なテストを受けられるアプリケーションを考案した。自分の感情の起伏を記録し,そのパターンと原因を考えるのに使えるだけでなく,結果が自動的に友人たちに送られるという機能をつけた。こうすれば気分がふさいでいるとき,友人たちがデータを見て連絡をくれる。
 「こういうデジタルツールは,自分や互いのモチベーションを高めるための触媒にすぎません」とダイソンは言う。「自分に合ったモデルが見つかるはずです。友人たちと数字を比べるのは,彼らの前で恥をかきたくないとか,チームの足を引っ張りたくないとかいう気持ちが起こるのを期待してのことかもしれません。人によってモチベーションの高め方は違いますから」

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.159-160
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自己認識の意味は

自己認識は動物に見られる非常に特殊な性質だ。犬は鏡を見ると激しく吠えるが,それは目の前にいるのが自分だと気づかないからだ。ミラーテストと呼ばれる実験を行なうと,他のほとんどの動物でも同じような反応を示す。ミラーテストとは動物の体に匂いのない染料で印をつけて鏡の前へ連れていき,そのしみが自分の体についていると気づいている仕草(しみをよく見えるよう体の向きを変えるなど)をするかどうか調べるものだ。チンパンジーをはじめ,人間に近いサルはこのテストにパスできる。他にはイルカ,ゾウなども自分を認識できるが,ほとんどの動物が不合格だ。しみにさわろうと,自分の体ではなく鏡のほうに手を伸ばす。人間の幼児も幼いころはそのような反応をするが,2歳の誕生日を迎えるまでに,ほとんどの子供が合格する。2歳児はしみをつけられたことに気づいていなくても,すぐ自分のおでこを触ろうとする。これが自己認識の最初の段階だ。まもなくこの性質は思春期の苦労へと変わる。ティーンエージャーになると自分に欠けているものに過度に敏感になり,幼児期の無責任な自信は困惑と恥ずかしさに打ち砕かれる。彼ら,彼女らは鏡を見ては同じ質問を繰り返す。その問いについて心理学者は何十年も研究し続けている。自分を知るとみじめになるばかりならば,自己認識の意味はどこにあるのだろうか?

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.146
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

自分との戦い

ジム・ターナーは自己コントロールの困難を克服するために,直接的な——おまけに愉快な——方法をとった。『糖尿病:自分との戦い』と題した1人舞台を演じたのだ。ターナーは10代の息子と言い争いをしたときに,最終的には自分のほうが大人げなく怒り狂い,外へ出て愛車をけとばし,修理できないほどのへこみをつけた経験などを語った。「私はよく,息子にもわかるほど自分をコントロールできない状態になるんですが,息子はそのたびに私にむりやりジュースを飲ませたり,父親がまともな精神状態にないのを心配したりしなければならないんです」

ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.66
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)

ソシオメーター理論

リアリーとコワルスキーの「社会的指標(ソシオメーター)理論」によれば,自尊心を保っておくには,自分の行動とそれに対する他人の受け入れ方の具合をモニターしなければならず,それによって,社会的に認知されているか,拒絶されてはいないかの目安にするのだという。こうして拒絶のサインを感じたら,行動を修正することができる。要するに,「自尊心のシステムは,社会から仲間はずれにされる可能性を最小に抑えるメカニズムとして進化したのだろう」。

リチャード・ウィルキンソン 竹内久美子(訳) (2004). 寿命を決める社会のオキテ—シリーズ「進化論の現在」— 新潮社 pp.98-99

自己像の飾り立て

人はさらに,自分の記憶を持ち出してきて自己像を飾り立てることもある。たとえば成績について考えてみよう。ある研究者グループが大学1年生と2年生の計99人に,数年前を振り返って,高校の数学,科学,歴史,外国語,英語の各教科でどんな成績を取ったかを思い出してもらった。答えた内容は高校の記録と照らし合わせると伝え,実際に全員がそれを許可する書類にサインしたため,学生たちに嘘をつく動機はまったくない。
 合計で3220の成績の記憶をチェックしたところ,面白いことがわかった。何年か経っているのだから成績の記憶には大きな影響があったはずだと考えられるかもしれないが,実際にはそんなことはなかった。その間の歳月は学生の記憶にほとんど影響をあたえなかったようで,高校のどの学年における成績も,およそ70パーセントという等しい正確さで思い出した。それでも記憶には確かに欠落があった。忘れさせた原因は何だったのか?それは過ぎ去った歳月ではなく,成績の悪さである。記憶の正確さは,A評価の場合には89パーセントだったが,Bでは64パーセント,Cでは51パーセント,Dでは29パーセントと着実に下がっていった。だから,悪い評価を受けて落ち込んでいても,元気をだしてほしい。しばらくすればきっと忘れるのだから。

レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.322-323

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