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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「社会心理学」の記事一覧

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身長と地位

 身長とステータスの関係は,おもしろい現象をもたらす。ある人の身長がどのぐらいに見えるかは,その人の地位の高さによって変わるようだ。この興味深い現象を初めて科学的実験で確かめたのは,クイーンズランド大学の心理学者,ポール・ウィルソンだった。ウィルソンは,異なる学生グループに同僚の学者を紹介し,彼の身長がどのぐらいだと思うか尋ねた。学生には内緒で,ウィルソンは,グループごとに紹介の仕方を変えている。最初は,学生だと言い,次は講師,上級講師,そして最後には正教授だと紹介した。すると,学生たちの目に映るその男性の身長は,どんどん高くなった。たんなる学生と紹介したときには,173センチと思われたのに,講師だと紹介すると,2.5センチ高く見られた。上級講師だと言うと,学生の目にはさらに2.5センチ高く映り,かなり異例のスピード出世で正教授へ昇進すると,なんと183センチになったのである。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.172
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名前の効果

 ペルハムらは,人名と居住地の関係,人名と結婚相手のとの関係だけにとどまらず,姓と職業選択の関係についても調べた。米国歯学会と米国法律協会の名簿をオンラインで検索したところ,歯科医には“Den”で始まる人の名前が“Law”で始まる名前の人よりも多く,法律家には“Den”よりも“Law”で始まる名前の人が多かった。さらに,金物屋と屋根屋のデータも調査した。ヤフーのインターネット・イエローページで全米第20位までの大都市にある金物屋(ハードウェアストア)と屋根屋(ルーフィングカンパニー)の経営者のファーストネームまたは姓が,HまたはRで始まっているかどうかを調べた。すると,金物屋の経営者にはHで始まる名前(「ハリス・ハードウェア」など)が多く,屋根屋にはRで始まる名前(「ラシド・ルーフィング」など)が多いことがわかった。ペルハムによれば,同じ傾向は政治にも当てはまる。2000年の大統領選挙のとき,Bで始まる姓の人にはブッシュ支持者,Gで始まる人にはゴア支持者が多かった。ペルハム教授は,この結果を「なぜスージーは海岸で貝殻を売るのか——潜在的自己中心主義と人生の重要な選択(Why Susie Sells Seashells by the Seashore: Implicit Egotism and Major Life Decisions)」という論文で発表した。その結論で,「こうした結果が表れるのは,人びとが無意識のうちに自分にとっていちばん大切な人を思い出させるものに引かれるせいなので,さして驚くことではない」と述べている。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.160-161

(引用者注:2002年のJPSPに掲載された論文のことである)

満月の効果

 似たような研究が,もっとも理性的と思われる場所,病院で行われた。じつは,医療関係者は驚くほど迷信深い。それは満月が行動におよぼす影響を扱った論文にも表れている。アメリカの研究チームが,1年間に病院へ搬送された負傷者千五百人近くの記録を調査したところ,満月と入院数,死亡率,負傷の種類,入院日数に関係はなかった。しかし,「ルナシー」という論文で発表された1987年の調査によると,救命室で治療に当たる人の64パーセントが,「満月は患者の行動に影響する」と信じていた。そのなかで,看護師の92パーセントが,満月の夜はストレスがかかると答えている。しかし,この報告は疑わしいかもしれない。というのも,そういうストレスがあるので「満月勤務手当て」を支給してもらいたいと答えているからだ。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.116-117

日本の六曜

 京都大学の平憲二研究グループは,日本の別の迷信が経済におよぼす影響を調査した。1873年以前の日本では太陰暦が使われ,曜日には「先勝」「友引」「先負」「仏滅」「大安」「赤口」の6つがあった。今日でも,大安はめでたい日とされ,仏滅は縁起の悪い日とされている。このため,病院から退院するときも,大安の日に退院したがる患者が多い。最近3年間の退院記録を調査したところ,実際に多くの患者が大安の日まで退院を伸ばしていることが明らかになった。この迷信のために費やされる費用は,年間数十億円にのぼる。日本ばかりではない。アイルランドでも,「土曜日に出発する人はすぐ戻る」という迷信があり,4年間に記録された7万7千件の産婦人科データを分析したところ,土曜日の退院者は,平均より35パーセント少なく,金曜日には23パーセント多く,日曜日には17パーセント多かった。
 これではっきりした。迷信は,たんに木に触れたり指をクロスしたりするだけのたわいないものではない。それどころか,家の価格や,交通事故の死傷者数や,中絶率,死亡者数にも関係し,治療を必要としない患者のために巨額な無駄金を使わせている。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.112-113

嘘を見破るコツ

 嘘を言うときの特徴がわかれば,見抜くのはずいぶん簡単になる。目をきちんと見るか,手を振りまわすか,落ち着かない座り方をしているかは,関係がない。最も頼りになるのは,声と無意識のうちに選ぶ言葉だ。嘘をついているときは,重要なことをくわしくしゃべっていなかったり,間が長く,ためらいがちだったりする。また,自分に関係のある言葉を避け,感情描写が少なく,嘘と自分とのあいだに距離をおこうとする。正直な人が忘れたと認める情報を,妙にくわしく覚えているのも不自然だ。これらのコツに注意しながら,じっくりと耳を傾ければ,嘘のベールはすぐにはがれる。相手が考えていることや感じていることが急によく見えるようになり,世界はまったく違った場所になる。いや,これは嘘ではない。本当の話だ。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.78-79

なぜ嘘を見抜けないのか

 なぜ,人は嘘を見抜けないのだろう?その答えは,テキサスクリスチャン大学のチャールズ・ボンド教授の研究のなかにある。ボンドは,人が嘘をついているときにどんな行動をとるか調べた。彼の心理学研究は,アメリカの大学生数百人にチェックシートに記入してもらうようなレベルではない。60以上の国の数千人に,「他人が嘘をついていることを,あなたはどうやって判断しますか?」と訊いたのである。その答えは,驚くほど一致していた。アルジェリア,アルゼンチン,ドイツ,ガーナ,パキスタン,パラグアイ,どこでもほとんどすべての人が,嘘つきを見破るサインとして,目をそらす,手を振りまわす,椅子の上でそわそわするなどをあげた。
 しかし,ここに少し問題があるのだ。研究者は,何時間もかけて注意深く嘘つきと正直者のビデオを見比べ,さらに映像観察訓練を受けた人に,デジタル画像を分析させた。笑顔,まばたき,手の動きなどを見るたびにボタンを押し,コンピュータに記録するのだ。1分間の映像を分析するのに1時間もかかるが,嘘をつくときと本当のことを言うときの身振りの違いが厳密に比較できる。そこで明らかになったのは,嘘つきは本当のことをいう人とまったく同じように相手の目を見つめ,手を神経質に振り回したりせず,椅子の上でそわそわしないということだった(したとしても,本当のことを言う人よりもずっと動きが少なかった)。嘘を見抜くことができなかったのは,身振りに頼っていたからで,実際はそういうものは嘘とは無関係だったのだ。

リチャード・ワイズマン 殿村直子(訳) (2008). Qのしっぽはどっち向き?:3秒で人を見抜く心理学 日本放送出版協会 pp.71-72

中途半端なマイナス思考

 ウケるトークができない人にありがちな思考の流れとしては,まず最初に「面白い人だと思われたい」という期待から入り,次に「でもウケなかったらどうしよう」という不安が襲ってきます。そしてそのまま,「もしスベったら取り返しがつかない」と思い込み,「ウケを取るのはやめて普通の話をしよう」と最終判断をしてしまいます。これがもし,ほかの人たちがウケを取ってきて,いざ自分の番という状況になった場合には,「僕も笑わせなきゃマズい」と頭が真っ白になってしまい,思うように話すことができなくなります。
 この場合,どうすれば「余計な気持ち」を除くことができるのでしょうか?
 それは,「中途半端なマイナス暗示をしない」ことです。マイナス暗示をやめろということではありません。中途半端がダメだ!ということなんです。
 なぜなら,緊張しやすい人は,プラスの暗示をしても,結局マイナスの方が勝ってしまうからです。つまり,「緊張はだれでもするんだ」とプラスにとらえても,次の瞬間に「でも隣りは緊張してるように見えなかった」とか,「こんなに緊張してるのは俺だけかも」とか,勝手にマイナスに考えてしまいがちです。
 そこで,中途半端ではなく,究極のマイナス暗示をしてやります。それは何かというと,「だれも僕の話には期待していない」と思うことです。ウケようがスベろうが,自分の話には誰も期待していない——このように一番下からのスタートにして,これ以上恥をかくことはないと思うのです。

田中イデア (2009). ウケる!トーク術:昨日起こった出来事を面白く話す方法 リットーミュージック pp.75-76

勝者と敗者の見方

 たとえば次のようなことを考えてみてください。
 いまここに同じ能力をもち,同じような生育環境のAさんとBさんの2人がいます。Aさんは人生において成功している,いわゆる「勝ち組」です。彼は自分が人一倍の努力をしたので,それが報われていまの成功があると考えています。これに対してBさんのほうは,努力しようにも家庭環境に恵まれず,運にも恵まれなかったと言っています。2人の間には現在,経済的な豊かさにおいて,おおいに差がついてしまっています。
 このときAさんは,「自分のいまの地位は自分の努力によるものだ。そしてBさんがうまくいっていないのは努力が足りないからだ」と考えています。これは自由競争社会のイメージです。他方,Bさんのほうは「自分の人生がうまくいっていないのは社会のせいだ。Aさんが「勝ち組」なのは,単に運がよかっただけだ」と考えています。
 このようにわたしたちは,自分が成功すれば努力が見を結んだのだと考えがちで,自分が失敗すれば社会に問題があるからだと考えがちです。しかし同時に,他人の成功は社会的な追い風によるもので,他人の失敗はその人の自己責任だと考える傾向もあります。
 実際は,「勝ち組」でも「負け組」でも,生まれて,育って,社会生活を営むという人生のあゆみにおける成功や失敗には,個人に帰するべき事情と,社会に帰するべき事情が混在しています。ですから,できることなら個人の努力の成果は削らずに,社会の仕組みの不備だけを選び出して調整すべきなのです。
 ところが,結果として生じた経済的な格差を調整する方法をとったのでは,個人に帰するべき努力の成果と,社会に帰するべき不平等を区別なく均してしまうことになるのです。するとAさんのような「勝ち組」にとっては,自分が努力して勝ち取ってきたものまで不当に削られて,努力をしていない(とみなされる)人に分け与えるということになります。他方Bさんにような人は,努力が十分であったかどうかは省みず,社会保障を受けるのは当然だと考えます。

吉川 徹 (2009). 学歴分断社会 筑摩書房 pp.69-71

怒り

 この話を聞いた時,目を閉じたまま考えた。
 物事に順序があるのと同じく【怒り】にも順序がある。人間は怒りやストレスを感じると胃が刺激される。胃が活発になり腹が立ち上がるような感覚から【腹が立つ】。怒りが収まらず,腹が立ち上がったままの状態が続き,肺を圧迫するような息苦しさから【ムカムカする】【ムカつく】。怒りが収まらず動悸が激しくなり,心臓に集中した血流が頭部まで押し上げて興奮した状態が【頭に血がのぼった】【頭にきた】。それでも,怒りが我慢できず,歯を食いしばるような怒涛が脳の細かい血管を膨らまし,破裂しそうになった表現から【キレそう】【キレる】。最後に細かい血管が破裂したぐらいの状況まで憤激し【キレた】になる。

 腹が立った程度で「殺す」と書くなら,ムカついたら何をするつもりだったのか。それは警察での取り調べ中,涙を流しながら,「きくち,殺す」は正義感だと主張した女性にしかわからない。
 たった数時間,パソコンを閲覧しただけで真実も確かめず,罵倒も中傷もせず,いきなり「きくち,殺す」と投稿した派遣社員の29歳の女性。
 この感覚に言葉も出なかった。

スマイリーキクチ (2011). 突然,僕は殺人犯にされた:ネット中傷被害を受けた10年間 竹書房 pp.150

「枠」という問題

 枠は偏見に比べると巧妙で検出が難しい。それらはまた,メディア情報源相互間で一致している。ストリートは,「枠は世界を特定の見方で見る方法だが,それらは単一の概念的立場をとらないという意味で偏見の概念とは異なる」と示唆している。そればかりか,例えば「ニュース記事」などは,メディア研究によるとまさしく物語なのである。他の物語と同様,深く定着した仮定(因果関係,倫理観,社会的関係などに関する)に起因する特異な語りの構造を持っており,矛盾し無関係な情報は無視している。ニュースを伝える者を含めて物語作者は,自分たちの多くのひな形を自由に使うことができ,自分が言わんとする物語,「英雄ブラボー」,「官僚的無能」,「やっかいな対立」などを構成するのに最適のひな形をどれでも使うのである。個々のひな形——枠——は,それと結びついた特別の言語をもっている。例えば,病気で亡くなった子供の場合は,ご両親にとって歓喜の源であり,勇敢で,なにより道徳的に高潔であった子供が,今や悲劇の主人公としてご両親を嘆かせているというような表現になる。間違いなく,時にその子供の小さな妹を叫ばせ,不機嫌にし,よろめかせる——子供はそういうものだ——が,お定まりの観察は枠には合わないので,そのようなレポートでは扱われない傾向がある。もし子供が見知らぬ人間に殺された場合には,悲劇と道徳的高潔の要素は残るが,勇敢さの代わりに無垢が入り,それに対応して殺人者の非人間性が持ち込まれる。

キャスリン・テイラー 佐藤敬(訳) (2006). 洗脳の世界——だまされないためにマインドコントロールを科学する 西村書店 pp.297-298
(Taylor, K. (2004). Brainwashing: The Science of Thought Control. London: Oxford University Press.)

遺伝の影響

 私たちはまた,遺伝子が友人同士のつながり方に及ぼす影響についても調査した。推移性は,ある人の友人のうち任意の2人が友人同士である可能性を示すことを思い出してほしい。推移性の高いひとは,全員がおたがいを知っている高密度の集団のなかで生きている。対照的に,推移性の低い人は,いくつかの異なるグループに友人を持つ傾向がある。そういう人はしばしば,まったく異なるグループ同士を結ぶ架け橋の役割を果たす。私たちの研究では,推移性は非常に遺伝性が高く,差異のうち47%は遺伝子の違いによって説明できることがわかった。したがって,一般的に言って,たがいに知り合いである友人が5人いる人と,たがいに知り合いでない友人が5人いる人は,遺伝子構造が違うことになる。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.291-292
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

皆で一斉に

 過去40年のあいだに,成人の喫煙者は全体の45%から21%へ減少してきた。40年前は,事務所,レストラン,さらには飛行機のなかでさえ,タバコの煙が立ち込めていたものだ(1987年に飛行機内での喫煙を禁じる規定ができると,大きな前進として熱烈に歡迎された)。ところが現在は,喫煙者は屋外で小さな集団になって身を寄せている。
 だが,,人びとは独力でタバコをやめてきたわけではない。そうではなく,大勢でいっせいにやめてきたのだ。私たちはフレーミングハム心臓研究の社会的ネットワークに関するデータを利用し,過去40年間の喫煙の減少について分析してみた。すると,肥満の蔓延の裏返しのようなパターンがあることが分かった。ある人がタバコをやめると,友人,友人の友人,そのまた友人へと波及効果が広がっていくのだ。肥満と同じように,喫煙行動も3次の隔たりまで拡大していく。ここでも「3次の影響のルール」が働いているわけだ。だが,肥満よりも喫煙のほうがグループ効果はさらに高い。鳥や魚の群れと同じく,禁煙には時間と空間における一種の同調性がある。相互につながった喫煙者グループの全体が——メンバー同士はお互いを知らなくても——ほぼ同時にそろってタバコをやめる。まるで,反喫煙の波が全員に波及していくかのようだ。群れが特定の方向に飛んでいくのを一羽の鳥が食い止めるように,1人の喫煙者が禁煙を先導するのかもしれない。タバコをやめる決意は,ばらばらの個人が1人でするわけではない。そこには,直接・間接につながった個人からなるグループの選択が反映しているのである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.148-149
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

肥満への影響

 だが,肥満を広げるのは模倣だけではない。人間はたがいに認識を共有するものだが,こうした認識がどれだけ食べ,どれだけ運動するかにも影響するのだ。たとえば,周囲の人を見て,その人たちの体重が増えているのに気づけば,許容できる体型について認識を改めることもある。多くの人が太りはじめると,太りすぎとは実際に何を意味するかについて期待値が再調整される。人から人へと広がるのは,社会科学者が規範と呼ぶもの,つまり,何が適切であるかに関して共有される期待値なのだ。ロックデール郡のティーンエイジャーが性的規範を(大人たちを失望させて)調整したように,何を肥満とみなすかについての人びとの考えは急速に変化している。また,社会的ネットワーク内にニッチが生じることもある。こうしたニッチで人びとが特定の規範を強化し,直接・間接につながった人びとが何かについて認識を共有しながら,たがいに影響されていると気づかない場合もある。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.144
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

理由の違い

 性別による役割分担に関して,リラードとウェイトは次のことを発見した。結婚が男性の健康にとって有益なのは,主として社会的支援を受けられたり,妻を介してより広い世界とつながりを持てたりするからなのだ。また,既婚男性がいわゆる「独身男の愚行」をやめることも同じく重要である。結婚すると,男性は大人の役割を引き受ける。つまり,ガレージにあるオートバイを処分し,非合法なドラッグをやめ,規則的に食事をし,仕事に就き,常識的な時刻に帰宅し,責任を真剣に受け止めるようになる。これらはすべて男性の寿命を延ばすのに役立つ。妻が健康にかかわる夫の行動を変えさせることを含め,社会的制約のこうしたプロセスは,結婚によって男性の健康が改善されるうえで不可欠なものに思える。一方,結婚によって女性の健康や寿命が改善される主な理由はずっと単純だ。つまり,結婚した女性は経済的に豊かになるのである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.114
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

出会いの変化

 パートナーと出会う場所や状況は,過去100年にわたって変化してきた。それを示す最高のデータが,フランスで実施されたある調査に含まれている。人が配偶者と出会う場としては,ナイトクラブ,パーティ,学校,職場,休暇旅行先,家族の集まり,あるいは単純に「近所」などが考えられる。調査に携わった研究員たちは,こうしたさまざまな場所を視野に入れつつ出会いの場の変遷を跡づけた。たとえば,1914年から1960年のあいだを見ると,15〜20%の人が将来の配偶者に近所で出会ったと回答している。ところが,1984年までにこの比率は3%に低下している。現代化と都市化の結果,社会的な絆が地理的制約を受けることが少なくなったためだ。
 インターネットの発展とともに,地理的条件の重要性はさらに低くなっている。2006年には,アメリカの成人インターネット・ユーザーの9人に1人,合計すると約1600万人が,出会い系サイトをはじめとするオンラインサイト(たとえばマッチ・ドットコム,イーハーモニー・ドットコムなど,無数にある)を利用して,出会いの相手を探していると回答している。ある体系的な全国調査によれば,こうした「オンライン・デート相手探し」を利用した人の43%,つまり約700万人が,オンラインで出会った相手と現実のデートにこぎつけ,17%,つまり約300万人が長期的な関係に入るか結婚するかしたという。一方,結婚していたり,長期的で親密な交際相手がいたりするインターネット・ユーザーの約3%が,オンラインでパートナーと出会ったと報告している。この数字は今後数年にわたって増えていることだろう。隣の女の子の時代は去った。かつてのような地理的制約から解放された(オンラインとオフラインの)社会的ネットワークを通じて,パートナーと出会う機会がますます増えていくのである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.91-92
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

ネットワーク上で見つける

 人びとがどんなふうにパートナーに出会うかを示す体系的データを見てみよう。「健康と社会生活に関する全国調査」は,あまり適切ではないが「シカゴ・セックス調査」としても知られる。1992年に全国の18歳から59歳までの3432忍をサンプルに,アメリカにおける恋愛行動と性行動を網羅的かつ正確に説明したものだ。そこには,パートナーの選択,性行為,心理的特性,保健対策などに関する詳細なデータが含まれている。さらに,きわめて珍しい種類のデータもある。つまり,現在のセックス・パートナーとどこでどのように出会ったか示すものだ。次の表は,さまざまな関係のカップルを誰がとりもったかを示している。
 この表に示されている紹介者は,必ずしもパートナーにするつもりで2人を引き合わせたわけではない。それでもこうした結果が出ているのだ。調査対象となった人々の約68%が,知り合いの紹介で配偶者に巡り合っている。一方,「自力」で配偶者と出会った人は32%に」すぎない。一夜限りのつきあいのような短期のセックス・パートナーであっても,53%は誰かに紹介してもらっている。見知らぬ者同士が偶然出会うこともあるし,ときには他人の援助なしにパートナーが見つかることもあるだろう。だが大半の人びとは,友人の友人をはじめ,ゆるやかにつながった人びととの出会いを通じて配偶者やセックス・パートナーを見つけているのだ。


ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.87-88
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

良い位置にあるから

 あなたが他の人より幸福だったり裕福だったり健康だったりするなら,ネットワーク上でたまたまきわめて有利な位置を占めているのかもしれない(たとえ自分自身の位置がわからなくても)。また,ネットワークの全体構造が大きな役割を果たしているとも考えられる(たとえ自分ではその構造をまったくコントロールできなくても)。さらに一部のケースでは,こうしたプロセスがネットワーク自体にフィードバックを返すこともある。多くの友人を持つ人は裕福になるかもしれず,そうなればさらに多くの友人を引き寄せる可能性があるのだ。こうした「豊かな者はますます豊かに」という力学が意味するのは,社会的ネットワークを通じて,私たちの社会に存在する2種類の不平等が劇的に拡大してもおかしくないということだ。つまり,状況的不平等(一部の人は社会経済的により良い状況にある)と位置的不平等(一部の人はネットワーク上でより良い位置を占めている)である。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.48
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

6次の隔たり,3次の影響

 もっとも,6次の隔たりを経てあらゆる人とつながっているからといって,それらの人びとすべてに影響を及ぼせるわけではない。社会的な距離が問題となるのだ。私たち自身の研究から,社会的ネットワークにおける影響の広がりは,いわば「3次の影響のルール」に従うことがわかっている。私たちのあらゆる言動は,さざ波を立てるようにネットワークを進んでいき,友人(1次),友人の友人(2次),さらに友人の友人の友人(3次)にまで影響を及ぼすケースが多い。だが,その影響力は徐々に弱まり,3次の隔たりの位置に存在する社会的な限界を超えると,目立った効果はなくなってしまう。同じように,私たちは3次以内の関係にある友人からは影響を受けるが,その先に連なる人びとからは影響を受けないのがふつうである。

ニコラス・A・クリスタキス,ジェイムズ・H・ファウラー 鬼澤忍(訳) (2010). つながり:社会的ネットワークの驚くべき力 講談社 pp.43
(Christakis, N. A. & Fowler, J. H. (2009). Connected: The Surprising Power of Our Social Networks and How They Shape Our Lives. New York: Little, Brown and Company.)

コントロールの錯覚

 バース大学とブリストル大学の心理学部講師スーザン・ブラックモアによれば,人が超常的な理由づけに強く引かれるのは,夢と現実の出来事,星の配置と性生活など,物事を関連づけることで世界を理解しようとする傾向のせいなのだという。偶然の一致は都合よく準備されたつながりであって,あとは私たちが,それは予言だと思ってしまえばいいわけである。
 心理学では,たまたま起きた出来事を自分の思考と結びつけようとする行為を「コントロールの錯覚」と呼ぶ。ブラックモアが簡単な例を示している。たとえば,信号に近づいたときに「変われ」と思った経験は誰にでもあるはずだ。信号が思ったとおりに変わればうれしくていい気分になるが,こうした偶然の出来事について念力が働いた,つまり心が物を動かしたのだと言う人も多い。要するに,どうしたわけか人の心の中で考えたとおりに物が軌道修正をするというのだ。調査によれば,こうしたことを言う人は,信号が変わらなかったときには,それに気づいても決まって無視するのだそうだ。

マーティン・プリマー,ブライアン・キング 有沢善樹(訳) (2004). 本当にあった嘘のような話:「偶然の一致」のミステリーを探る アスペクト pp.51

毎回あがる原因

 まとめてみましょう。「経験を積んでも,毎回あがってしまう」原因は,大きく分けて3つありました。1つは,「自分はあがっているんだ」と思い込んでしまうケース。パフォーマンスに必要な身体的な興奮を「あがり」だと誤解することが原因です。2つ目は,技術が伴わないままパフォーマンスを積み,慣れるのより先に自信を喪失してしまうケース。これは身体的な不安症状ではなく,嫌な考え(認知的不安)の高まりが原因です。3つ目は少数の否定的評価ばかりを気にする,もしくは肯定的な評価をネガティブにとらえてしまうケース。嫌な考えが「あがり」の原因になる点は2つ目のケースと同じですが,この場合は嫌な考えが身体的な症状と結びつき,さらに嫌な考えが高まるという悪循環が問題になります。

有光興記 (2010). 「あがり」は味方にできる メディアファクトリー pp.150-151

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