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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「パーソナリティ・個人差」の記事一覧

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夫婦の性格は似ているわけではない

 まず,性格は夫婦でどれくらい似ているのだろうか。オーストラリア人夫婦3,618組のデータによると,夫婦間の神経症傾向の類似性は,相関係数で0.07に過ぎなかった。またアメリカ人の夫婦4,815組でも,相関係数は0.09に過ぎなかった。他の性格特性でもほぼ同様の結果が報告されているが,唯一うつ病に関しては,0.39から0.49という高い相関が報告されている。つまり,夫婦の性格特性は,うつ病については類似性が見られるが,それ以外の特性においてはあまり見られなかった。性格の類似性が望ましい条件として挙げられるが,実際の結婚相手は必ずしも自分と性格的に似かよった人ではないようだ(ただし,価値観や態度での類似性は高い)。
 しかし,性格の似たカップルのほうが性格の異なるカップルより結婚生活への満足度は高いのであろうか?先行研究によると,一貫性のある答えは得られていない。たとえば,アイゼンクとウェークフィールドは556組の夫婦からデータを取り,この点を検証してみたが,神経症傾向と非協調性のスコアを統計的にコントロールすると,この相関は消えてしまった。また,外向性における類似性は結婚生活への満足度となんら関係が見られなかった。これに対し,ラッセルとウェルズは,夫婦の外向性における類似性と結婚生活への満足度との相関を見たが,神経症傾向では見られなかった。ただし,性格ではなく,価値観や態度という面では,夫婦の類似性が高ければ高いほど,結婚生活への満足度は高いという結果が出ている。つまり,税金やリサイクルについての考え方は,夫婦で似ていればいるほど夫婦関係はうまくいくが,2人がどれくらいおしゃべりか心配性かという面で似ているかどうかは,夫婦の満足感と無関係なようだ。
 面白いのは,実際の類似性が結婚生活への満足度とはっきりした関係を示さないのに対し,推定類似性(どれくらい夫婦がパートナーと自分が似ていると認識しているか)は,一貫して結婚生活への満足度と相関を示していることである。幸せなカップルは,実際は似ていなくても,自分たちが性格的に似ていると認識しているようだ。

大石繁宏 (2009). 幸せを科学する:心理学からわかったこと 新曜社 pp.100-102
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1回批判されたら2回褒められることが必要

 最近起こった出来事でも,悲惨な出来事と幸福な出来事の人生全体の満足度に及ぼす影響力は等しいわけではない。嫌な出来事のほうが,良かった出来事より影響力が強いというのは,さまざまな調査で明らかにされている。たとえば,われわれが行った研究でも,アメリカの大学生は誰かに1回批判された場合,他の人から2回くらい褒められなければ,批判される前の気分には戻れないという結果が出ている。つまり,ネガティブな出来事はポジティブな出来事の2倍くらいの力があるようである。しかし悲惨な出来事でも,普通の人間は予想以上にうまく適応しているケースも多い。有名な社会心理学者のダン・ギルバートとティム・ウィルソンはこれを心理的免疫と呼び,われわれがこの心理的免疫を過小評価する傾向があることをさまざまな実験を通して実証している。

大石繁宏 (2009). 幸せを科学する:心理学からわかったこと 新曜社 pp.90-91

経度のナルシシズムの利点

 一方,準臨床的なナルシシストは,ストレスを楽々と切り抜ける幸運な人々であることがしばしばである。「サイコロジー・トゥデイ」誌のライター,カール・ヴォーゲルは書いている。「経度のナルシシズムは自己やその他のトラウマから回復するのにも役立っているようだ。自分自身は不死身であるという非現実的な感覚を与え,彼らは人生において投げかけられるものになんであれ対処できると信じる。ある研究者によると,いくらかナルシシズム的であることは,大型のスポーツ車に乗っているようなものだ。おおいに楽しみ,堂々と道路の真ん中を通り,気ままにふるまい,他のドライバーを高いリスクにさらす」

バーバラ・オークレイ 酒井武志(訳) (2009). 悪の遺伝子:ヒトはいつ天使から悪魔に変わるのか イースト・プレス pp.269

矛盾が人を惹き付ける

 皮肉なことであるが,ロールシャッハテストが矛盾する結果を生じる傾向があることは,心理学者の間でこのテストがもてはやされている理由の1つなのかもしれない。イェール大学のJ・R・ウィッテンボーン(Wittenborn, J. R.)とシーモア・サラソン(Sarason, S.)が半世紀前に述べたように,ロールシャッハテストがもつ自己矛盾によって,このテストは何でも明らかにすることができる検査であるようにみえることがある。どのようなクライエントであっても,ロールシャッハ・スコアの中には何かぴったりするものが必ずある。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.274-275
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

人気があるから意味がある?

 今日では,エクスナーの共著者であるアーヴィング・ウェイナー(Weiner, I.)がいまだにロールシャッハテストの人気こそがその有効性の証拠であると指摘している。「アメリカでは,メンタルヘルスの専門家がパーソナリティを査定するのに,ミネソタ多面人格検査(MMPI)を除けば,ロールシャッハ・インク図版検査がもっとも多く用いられている。ロールシャッハテストが現在まで生き続け成功をおさめてきたのは,さまざまに異なる文化の多くの心理学者が,クライエントを援助するのに役立つと考えたからである」。
 ここでウェイナーは2つの論理的誤りをおかしていると考えられる。第1に彼は,今述べたばかりの広く受け入れられていることに基づく論証の誤りに陥っている。第2に,ある信念や技法が長い間生き続けたという理由でそれが正しいと考える,論理学者が「古くから続いていることによる論証(ad antiquitem)」とよぶエラーをおかしている。星占いや手相占いのような多くの方法は何世紀も昔から広く行なわれ続けているが,それらには妥当性はまったくない。ロールシャッハテストが広く行なわれているとウェイナーが言ったことはその通りである。私たちが言いたいのは,ロールシャッハテストは,臨床家たちの間で広く用いられていることからではなく,科学的証拠に基づいて評価されるべきだということである。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.257-258
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

投影法でも偽りからは逃れられない

 司法現場で査定される人々は,質問紙検査に偽りの答えをしたり,判定にとって重要なことを答えなかったりすることが時々ある。しかしこの問題はロールシャッハテストでも解消されることはない。このような場合のよりよい解決法は,経歴データや観察データを集めることである。
 たとえば,ある人が情報を隠しているのではないかと疑われる場合には,心理学者はその人を長い間にわたって知っている別の信頼できる人に平行して面接を行なうことができる。査定される人について,職歴,学歴,重要な関係,犯罪行為,心理的既往症などを含む,十分な個人データを集めることも有効な方法である。また,査定される人から得られた情報は,事例記録やその他の資料からの独立のデータで補完することもできる。
 要するに,司法場面で虚偽が疑われる場合に,査定者がロールシャッハテストの疑わしいエックス線パワーにたよることは賢明なやり方ではない。そのようなやり方ではなく,心理学者と弁護士によって役に立つことが以前から認められてきた,より信頼できる情報源を求めるべきである。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.244-245.
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

ごまかしを見つけることができるか

 また,ジョーンズ・ホプキンス大学のデヴィッド・シュレトレン(Schretlen, D.)が最近の包括的な文献レビューの中で指摘したように,ロールシャッハテストが偽りの精神障害に対して弱いことは,半世紀近くも前から知られていたことである。「1950年代と60年代にいくつかの研究で,ロールシャッハテストが偽りに対して弱いという証拠が報告されていたにもかかわらず,一部のロールシャッハテスト推進者は,このテストと他の投影法検査はごまかしがきかないといまだに主張している。最近の知見によれば,このような議論はほとんど擁護することができないものになっている。明らかにされるべきなのは,人々がロールシャッハテストの結果をごまかすことができるかどうかではなく,このようなごまかしを見つけることができるかどうかである」。
 たとえば数多くの研究が,ロールシャッハテストでは統合失調症を偽ることができるということを見いだしている。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.244.
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

ロールシャッハテストの中で妥当性がある指標は

 これらからわかるように,包括システムの妥当性は以前のロールシャッハ法とそれほど大きく異なるものではない。妥当な包括システム変数は大きく2種類に分けられる。第1は知能とそこそこの関連があるいくつかのスコアである。高い知能をもつ人々は,ロールシャッハテストに対してより多くの反応(R)をする傾向があり,彼らの反応はより複雑で(Blends/R, Lambda)よくまとまっていて(DQ+, Zf, W),図版の形によく合っていることが多い(F+%, X+%, X-%)。また高い知能の人々は,図版に対して人間の姿(人間反応),特に運動を含む姿(M)を答える傾向がある。これらの結論は,古いロールシャッハ法を用いた1950年代の研究で報告されているものと似ている。
 第2は,統合失調症,精神障害,思考異常などと関連がある,形態水準の指標(X-%,X+%,F+%)と病理的言語反応(WSum6)である。第6章で述べたように,1950年代の研究では,低い形態水準と病理的言語反応が統合失調症と関連することが確かめられている。最近の研究では,病理的言語反応が,双極性障害(以前は躁うつ病とよばれていた)と,おそらく分裂性人格障害や境界性人格障害(思考障害を含むことがある障害)とも関連することが示唆されている。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.221
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

患者ではない人が病的だとされる

 1999年の夏にアムステルダムで開かれた国際ロールシャッハ会議の席上で,新たな事実が初めて明るみに出されて聴衆を当惑させた。「非患者のロールシャッハ・データ:世界中の知見」という平凡な題目のシンポジウムで,フィリップ・アードバーグ,トーマス・シェーファー,およびメキシコ,ポルトガル,フランス,イタリア,フィンランドの共同研究者たちが,国際共同プロジェクトの結果を発表した。ほとんどのロールシャッハ研究は,心理的問題を抱える人々に焦点を当てていたが,この研究者たちは非患者(明らかな心理的問題なしに社会で生活している人々)に関する結果を報告した。
 この一見したところ無難なプロジェクトの結果は,多くの心理学者が包括システムをみる見方を変えることになった重要な知見が2つあった。第1は,ヨーロッパ,中央アメリカ,アメリカ合衆国の人々のロールシャッハ・スコアは非常に似ていることが多いというものだった。この知見は多くの聴衆に歓迎された。包括システムが,アメリカ合衆国以外でも,文化的・言語的違いに大きく影響されることなく用いることができることを示唆していたからである。
 しかし第2の知見は人々を当惑させるものだった。さまざまな国で得られたスコアは互いに似てはいたが,包括システムの基準と合わなかったのである。包括システムの基準と大きく異なるロールシャッハ変数が次々と明らかになった。エクスナーの本の基準値と比較すると,アメリカを含むすべての国で,非患者は病的であると判定された。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.208-209
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

「ブラ」への反応

 ロールシャッハテストのスコアリングが,心理学者の間で一致しない場合があることはまちがいないことである。この本の著者の1人は,仲間たちの間での次のようなおもしろい不一致を観察した。あるとき,1人の大学院生が,ある患者が図版の1枚に対して「ブラ」と答えた反応をどうスコアリングしたらよいものか尋ねた。男性の心理学者は,それは「性」反応とするべきだとしたが,何人かの女性の心理学者は「衣服」反応だと主張した。この場合,スコアリングは患者についてだけでなく,心理学者についての投影法検査になっているといえる。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.202
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

自分自身が欺かれる

 興味深いことに,手相占い師や占星術師に関する心理学の研究者は,心霊療法家の中には意識的にいんちきを働く者もいるが,多くは自分の超常的な力を心から信じているという一致した見方をしている。たとえば,ニュージーランド,カンタベリー大学のデニス・ダットン(Dutton, D.:高く評価されているWeb出版誌“Arts and Letters Daily”の編集をしている)は,星占いに魅了されるようになったある若い科学者の話を語っている。友人や客のために星占いをしているとき,彼の占いは「驚くほどよく当たる」といわれていた。しかし,ある満足した客からいつもの熱狂的な反応がかえってきたあとで,誤ってこの客に違う星占いを与えていたことに気づいて,この若い科学者は目をさませられた。彼はすっかり意気消沈して,当惑させられるような認識に達した。「占星術師としての彼のすばらしい成功は,星占いが科学として正当であることを示すものではまったくない。実際,彼は,客から絶えず強化を受け続ける中で星占いの力を心から信じるようになり,腕のよいコールド・リーダーになったのである。もちろん彼は客を欺いていたのであるが,その前に自分自身が錯覚に陥っていた」

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.150-151
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

バーナム効果について

 星占いの本からとられた記述は,一見したところ自分をよく表しているようにみえるが,それらはほとんどだれにでもあてはまるものだった。現在では心理学者はこのような性格記述を,すぐれた芸人だったP・T・バーナム(Barnum, P. T.)にちなんで「バーナム文」とよんでいる。彼は「サーカスには万人を喜ばせるちょっとしたものが必要だ」と言った(「カモは後から後からやってくる」ということばでも知られている)。
 フォーラーが示したように,人々はバーナム文が自分に一致する程度をひどく過大評価する傾向がある。たとえば,ある研究で,学生たちは性格検査の結果であるとして偽りのバーナム文を与えられて,「ぴったり合っている。すばらしい。もっと聞きたい」,「どれもみんな私にあてはまっている。私にピッタリの面があまりにたくさんあって,何といってよいかわからないくらいだ」,「驚くほど正確で詳しい描写だ」などの熱烈な賛嘆のことばでこたえた。
 科学的には価値がないことがわかっているのに,なぜ多くの人々が星占いを信じるのかについて,おそらくバーナム効果が説明を与える。フランスの心理学者ミシェル・ゴークラン(Gauquelin, M.)は,申し込みがありしだい,無料で星占いをするという広告をパリの新聞に出した。彼は申し込んできた読者のすべてに,悪名高い殺人者の星占いを送った。「星占いを受け取った94%の人々は,それが当たっているとして絶賛した」。
 バーナム文の性格記述を受け取った人々は,それが自分だけのために書かれたものであると考えるときには,いっそう感心する傾向が強くなる。たとえば,ある研究の被験者は,バーナム文が彼らのために「個人的に」書かれたものであるといわれると,ずっとよく当たっているとみなすようになった。別の研究では,被験者に偽の星占いを与えて,それが当たっている程度を評価するように求めた。被験者の生年月日を知っている星占い師によるものといわれた被験者のほうが,生まれた年と月だけを知っている占い師によるものといわれた被験者よりも,その占いがよく当たっていると判断した。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.148-149
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

相関の錯覚が生じるとき

 視覚的錯覚は目(実際には脳)を欺いて,現実には存在しないものを知覚させる。同様に心は欺かれて,テストに対する反応と性格との間に,実在しない相関を知覚してしまうことがあるといえる。チャップマン夫妻は他の研究で,特定のテスト反応と特定の性格特性との間に「言語的な関連」があるとき,相関の錯覚がもっとも起こりやすいことを示した。たとえば,体のどの部分が知能ともっとも密接に関連するかを人々に尋ねると,頭という答えが返ってくるし,体のどの部分が疑り深さと関連するかを尋ねると,目という答えが返ってくることが多い。学生たちと臨床家たちが特定のテスト反応と性格特性との間につながりがあるようにみえると答えるとき(大きな頭と知能の高さ,目と疑り深さ),実際には彼らは言語的関連に基づいて期待したものを答えているのかもしれない。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.145
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

ロールシャッハテストは診断を向上させるか

 シネスの研究,およびそれと同様の研究から,3つの重要なことが明らかになった。第1に,研究の結果,患者についてのもっとも役に立つ情報源は患者の個人情報で,これが心理検査よりもはるかに役に立つものであることがはっきりと示された。したがって,患者を理解したり診断したりしようとするときは,臨床心理学者はつねに十分な面接を行ない,個人情報を読むべきである。一般に,多くの個人データを集めることができるほど,患者をより理解し,正しく診断することができる。このことはごく当然のことのようにみえるだろう。ブルーノ・クロプファーとダグラス・ケリー(Kelly, D. M.)の有名な本が,ロールシャッハテストを用いる高度に熟練した心理学者には個人情報は必要ないと説いていることを思い出さない限りは。
 第2に,詳細で信頼できる個人データは,MMPIよりも,患者のパーソナリティ判定や診断に役立つことが多いが,研究の結果では,個人データとMMPIの両方を利用するほうが,個人データだけの場合よりも少しだけよい。すなわちMMPIは,個人情報と面接だけの場合よりも,わずかながら妥当性を向上させるということである。
 第3に,もっとも重要なことであるが,心理学者がすでに個人データと面接の情報をもっているときは,ロールシャッハテストを加えても患者のパーソナリティの判定や診断の正確さが向上することはあまりないことが,研究の結果示された。それどころか,(シネスの研究のように)ロールシャッハテストが加わると,心理学者の判定が不正確になってしまうことを見いだした研究もいくつかある。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.127-128
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

ロールシャッハテストは心理学者の地位向上に貢献した

 しかし戦後,臨床心理学者の地位は急速に高まった。ヒルガードは,この新たな状況で臨床心理学者にとって大きな強みとなったのがロールシャッハテストであったと,次のように述べている。

 もし心理学者が,微妙な解釈を必要とするロールシャッハテストの熟達者であれば,その心理学者が明らかにする患者のパーソナリティについての秘密に,テーブルを囲む人々はおとなしく耳を傾けた。いまや心理学者は以前には許されていなかった臨床的診断をするようになったからである。患者の反応に基づいて,浮遊する不安や色彩ショックについて心理学者が語ると,テーブルを囲む他の多くのスタッフはその患者の中にみていたことに思いあたって,同意してうなずいた。ロールシャッハテストの正確さに対しては,統計的基準から疑問が出されていたのしても,このような同意は心理学者の自己イメージを大いに高めることになった。

 WAISのような知能検査や,MMPIのようなパーソナリティ検査のほうがより強力な科学的支持を得ているかもしれなかったが,これらの平凡そうにみえる検査は,ロールシャッハテストがもつ神秘性に欠けていた。ロールシャッハテストは臨床心理学の新たな権威の象徴となったのである。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.87
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

ヘルマン・ロールシャッハとのズレ

 1940年代に書かれたロールシャッハテストに関する重要な本はすべて精神分析の考え方の中で書かれたものであった。マーガレット・ハーツ(Hertz, M.)は次のように述べた。「私たちの多くは精神分析理論の影響を受けた…防衛メカニズム,象徴,意識的・無意識的動機づけ,その他たくさんの概念を用いるような,精神生活の決定因に関する精神分析的なやり方が,ロールシャッハテストの解釈の中に取り込まれた」。
 皮肉なことに,ヘルマン・ロールシャッハは『精神診断学』の中で,彼のインク図版テストは精神分析の道具としてはあまり役に立たないと述べ,無意識を探る手段としてそれを用いることには明らかに否定的だった。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.80
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

フロイト理論がロールシャッハテストに与えた影響

 フロイトの理論は複雑で広い範囲に及ぶものだったが,次のような彼の3つの考えが,1940年代と50年代にロールシャッハテストに特に影響を与えた。その1つが,人間の思考と行動は無意識の動機によって強く影響されるという考えである。フロイトによると,思考と行動の理由は無意識の中に埋もれているので,人々はなぜいろいろなことを考えたりしたりするのか本当のところを知らない。
 第2にフロイトは,心理異常における無意識の要因を重視した。精神分析理論によると,多くの精神病患者の問題は,彼らが,特に幼児期に両親に対して感じていた,無意識のうちの性的・攻撃的衝動に原因をたどることができるとされる。
 フロイトの重要な考えの第3は,人の心の奥底にある無意識の葛藤が,象徴的な形で(シンボルとして)夢に表れるというものだった。精神分析家は,夢のシンボルの意味を解釈することによって,患者の無意識の中をのぞき見て,その衝動と葛藤についての洞察を得ることができるとフロイトは説いた。
 精神分析理論が無意識を重視したことは,自己報告式質問紙検査がもつ問題に関係していた。質問紙検査に答えているとき,患者が表すのは自分自身について知っていることだけで,当然のことであるが,無意識の中にあることを正しく表すことはないと考えられた。それに対して,ロールシャッハテストにはこのような限界はなく,患者自身が気づいていないことまでも明らかになると考えられたのである。こうして,精神分析の隆盛は,「単なる」自己報告式の検査への不満を明確にし,心理学者の関心をロールシャッハテストやその他の投影法検査に向けさせることになった。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p79.
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

「投影仮説」の形成

 1906年に,ヘルマン・ロールシャッハに影響を与えたスイスの高名な精神医学者オイゲン・ブロイラー(Bleuler, E.)は次のように書いた。「1人の人のどのような精神過程も,どのような行為も,その人の過去の経験によって決められたようにしかならない。どの行動も,すべて全体としての人間を表している。人の筆跡や人相,手の形,あるいはスタイルや靴のはき方さえからも,その人のパーソナリティの全体を推測しようとすることは,根拠のない野望とはいえない」。
 1930年代末に,ブロイラーの考えはアメリカの心理学者ローレンス・フランクによってさらに推し進められた。フランクはブロイラーと同じように,人のすべての行動は内面を表わしているという考えをもっていた。「パーソナリティは,人がすべての状況に押す一種のゴム印のようなものとみなすことができ,その人が1人の人間として存在するのに必要な形を与えるものであるといえる」。
 自己報告式質問紙検査の大きな弱点は,人が個人としての自分自身を完全に表現することを妨げ,自分を社会的に決められたカテゴリーに当てはめてしまうところにあるとフランクは述べた。解決法は,インク図版のような構造化されていない刺激,または「場」を与え,それに対して反応を求めることであった。「構造と文化的型をあまりもたない場(事物,材料,経験)を与え,パーソナリティがその可塑的な場に,生活についての見方,真意,意味,型,そして特に気持ちを投影することができるようにすることによって,人が経験を組織づけるやり方をあらわにするように誘導することができるだろう。このように,人は場を組織化し,材料を解釈し,それに対して情動的に反応するはずなので,私たちはその人のパーソナリティの『私的世界』の投影を引きだすことができるのである」。
 こうしてフランクは「投影仮説」をもち込んだが,これはきわめて長く影響を与えた考え方であり,ロールシャッハテスト,ならびにそれと同様の検査がどのようにはたらくかを説明するのに今でも時々用いられる。フランクは物理学から比喩をもち込む傾向があったので,ロールシャッハテストとその他の「投影」検査をエックス線撮影にたとえた。これはブルーノ・クロプファーがやがて採用することになった比喩である。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 p.73
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

ロールシャッハテストが受け入れられた背景

 1930年代には,多くの心理学者や精神医学者たちは,患者の当てにならない自己記述に頼らずに,個人の全体像を明らかにするパーソナリティ検査を求めていた。ロールシャッハテスト,特にブルーノ・クロプファーによって手が加えられたテストは,この要求にかなうもののように思われた。ロールシャッハテストはエックス線検査のようなもので,気づかれることなく人の心の深層を見抜くことができるとクロプファーは主張した。クロプファーの『ロールシャッハ研究報告』に掲載されたある論文は次のように述べている。「ロールシャッハテストやその他の投影検査が人の心の内面を明らかにすることができるのは,被検査者が自分が言っていることの意味に気づかず,また自分の内面をあからさまにしないという社会規範がはたらかないからである」。臨床心理学者たちにはこのような主張はきわめて魅力的なものだった。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.47-48
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

ロールシャッハテストの受容過程

 1936年には,クロプファーはロールシャッハテスト信奉者の親密なグループの非公式の指導者になり,『ロールシャッハ研究報告(Rorschach Research Exchange)』という,謄写版印刷のニュースレターの発刊を始めた。1937年には,ロールシャッハテストに傾倒している心理学者やソーシャルワーカーなどの専門家の集まりであるロールシャッハ研究会(Rorschach Institute)を設立した。おのニュースレターと研究会はやがて,今日の『パーソナリティ・アセスメント学会誌(Journal of Personality Assessment)』とパーソナリティ・アセスメント学会(Society for Personality Assessment)に発展していった。
 ブルーノ・クロプファーは,人々と親密で共感的な関係を結ぶ才能があった。人をひきつける魅力をもつ論客であった彼を,その崇拝者の1人は「もっとも熱心で,献身的で,巧みな,ロールシャッハテストのスーパー・セールスマン」と評した。もしクロプファーが人々を組織し改宗させる才能に恵まれていなかったならば,ロールシャッハ・インク図版テストは今日のように有名な,あるいは論争を巻き起こすものとはならなかっただろう。

J.M.ウッド,M.T.ネゾースキ,S.O.リリエンフェルド,H.N.ガーブ 宮崎謙一(訳) (2006). ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議— 北大路書房 pp.45-46
(Wood, J. M., Nezworski, M. T., Lilienfeld, S. O., & Garb, H. N. (2003). What’s Wrong with the Rorschach?: Science Confronts the Controversial Inkblot Test. New York: John Wiley & Sons.)

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