I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「パーソナリティ・個人差」の記事一覧

特性・状況怒り

怒りについて話をするときは,”特性としての怒り”と”状況としての怒り”を区別しなければならない。前者は,絶えず怒りを感じているような傾向を指している。これは明らかに不健康な状態だと言える。だが状況的な怒りは,それとは大きく異なる。怒りの感情で問題に立ち向かう人は,人生満足度や幸福感などの尺度で測定する「心の知能指数」が高いことがわかっている。
 状況的な怒りは,起きるべきことと起きたことの間のギャップによって誘発される。これは,目的が誰かによって不当に妨害されたと感じるときに生じる怒りである。この怒りの成分には,不公平の感覚が含まれている。また,自分にはこの不公平を是正するために何かができるという感覚も,怒りを引き起こす重要な要因だ。不正を正すために状況を変えられるという見込みと,自分が行動すればそれは可能だという自信がなければ,怒りはブロックされる。それは怒りではなく,絶望につながるのである。

ポー・ブロンソン7アシュリー・メリーマン 小島 修(訳) (2014). 競争の科学:賢く戦い,結果を出す 実務教育出版 pp.244

戦士型と心配症型

人間はすべて,戦士型(warrior)と心配症型(worrier)のどちらかであるという科学的な主張がある。ドーパミンを素早く除去する酵素を持つ人は戦士型で,恐怖や苦痛などの脅威に直面しつつも最大限のパフォーマンスが求められる環境にすぐに対処できる。ドーパミンの除去に時間がかかる酵素を持つ人は心配症型で,起こりうる事態について,事前に複雑な計画や思考をする能力がある。戦士型と心配症型のアプローチはどちらも,人類が生き残るために必要なものであった。
 一見,戦士型の方が攻撃的だと思われるが,実際にはそうとも言えない。心配症型は平常時のドーパミンのレベルが高く,攻撃的反応の閾値の近くにいる。こうした人は神経質であり,感情を爆発させやすい。簡単に腹を立てるし,感情を表に出す。だがその攻撃性が効果的なものだとは限らない。「適切な攻撃性」とは,他者の攻撃的意図を正確に読み取り,解釈し,それに対処することである。心配症型は,相手にその意図がないときに攻撃性を見いだし,相手にその意図があるときに攻撃性を見逃してしまう傾向がある。一方の戦士型は,現実への備えができている。

ポー・ブロンソン7アシュリー・メリーマン 小島 修(訳) (2014). 競争の科学:賢く戦い,結果を出す 実務教育出版 pp.103-104

ホルモンと人格

フィッシャーはホルモンと人格の関係のあらましを説明する。ドーパミンが優勢な人々は“冒険家”で,リスクをおかすことに楽観的だ。セロトニンが形成する“組織者”は,静かで落ち着きがあり,集団をまとめるのがうまい。テストステロンに満ちているのは“支配者”で,三分の二を男性が占める。論理的な分析を得意とし,音楽を好むことが多いという。まるで<ニューメラティ>の説明を聞いているようだ。エストロゲンが脳を駆けめぐる“仲裁人”は,話し好きで洞察力があり,他人とつき合うのがうまい。おそらく,交渉をするために生まれてきたのだろう。だが,ときには,「あまりにも従順で,事なかれ主義におちいることがあります。そのため,本人の真意が周囲に伝わりません」

スティーヴン・ベイカー 伊藤文英(訳) (2015). NUMERATI ビッグデータの開拓者たち CCCメディアハウス pp.244

ホルモンと性格

1990年代の終わりごろ,フィッシャーは生物学による人格分析に興味をもち,遺伝子や神経伝達物質,とりわけホルモンについて調べはじめた。研究材料の一つとして,「恋愛に取りつかれた」人々の脳を断層撮影した写真も使われた。その結果によれば,人格は四種類のホルモン,具体的には,エストロゲン,ドーパミン,セロトニンによって決まり,人間は自分に欠けている性質を補う相手に引かれるという。ケミストリー・ドットコムのアンケートは,それぞれのホルモンが支配する4つの性格への分類を意図している。質問の大部分は,ホルモンの作用と思われる気分や振る舞いについて尋ねるものだ。そのほかの指の長さを比較するような質問は,もっと生化学的な裏づけのある証拠を見つけようとしている。研究結果によると,人差し指が薬指よりも短いのは,胎児のときからテストステロンが優勢だったためらしい。一方,人差し指が長ければ,エストロゲンのほうが多いという。

スティーヴン・ベイカー 伊藤文英(訳) (2015). NUMERATI ビッグデータの開拓者たち CCCメディアハウス pp.243-244

特権意識・全能感

「DVの加害者は家庭でわがままに育てられた人が多いのです。『自分は何をしても許される』という特権意識や全能感を持ち合わせているため,『やってはいけないこと』と知識では分かっていても道徳観念としての理解はなく,事の重大さに気づける人は極めて少ない。特に旧世代には家制度の残滓がいびつな形で意識の中に残っていることも多く,根底には『男女平等などとんでもない』という根強い差別意識もあるのです。高齢者の離婚問題は,こういった理屈で割り切れない問題と対処せざるを得ず,解決は相当な困難を伴います。最悪の場合は『戦うより相手が死ぬのを待った方が早い』というような事態にも陥りかねません。しかし,それでは残された人生を相手への恨みだけで,相手の死を願いながら生きていくことになり,決して幸せとは言えないでしょう。人は幸せに生きた者が勝ちなのです。『死ぬまでに自分の人生を取り戻したい』という思いがあるならば,逃げ出さずに進むべきではないでしょうか」

新郷由起 (2015). 老人たちの裏社会 宝島社 pp.96-97

許否に対する感受性

不安型の人のもっともやっかいな一面は,他者の言動を,実際にはたいしたことではないのに,自分に対する失礼なふるまいや冷淡な扱いであると感じとって,大げさに反応することです。このことを,コロンビア大学の心理学者ジェラルディン・ダウニーはrejection sensitivity(許否に対する感受性)と表現しました。この現象は3つの部分からなっています。

 (1)拒否されることを予期する
 (2)不明瞭な状況でも,いち早く許否を感じとる
 (3)(事実でも単なる想像でも)許否に対して過剰に反応する

 こういう不安型の人のレンズには歪みがあり,メールに返信が来ないとか,待ち合わせに相手が遅れてきたとか,期待した褒め言葉がもらえなかったなどのほんの些細なことを,「意図的な拒絶」と受け取り,自分に対する相手の「本心」なのだと解釈するのです。

ハイディ・グラント・ハルヴァーソン 高橋由紀子(訳) (2015). だれもわかってくれない:あなたはなぜ誤解されるのか 早川書房 pp.195

エゴレンズの働き

「エゴレンズ」の基本的な機能は,その人の自己肯定感(self-esteem)を守ったり高めたり,自分に自信を持たせることです。「エゴレンズ」は実際に大変有効なので,ふつうの人は誰でも(病的に落ち込んでいるのではない限り),自分に対して全般的にポジティブな見方をしていて,かなり高い自己肯定感を持っているものです。

ハイディ・グラント・ハルヴァーソン 高橋由紀子(訳) (2015). だれもわかってくれない:あなたはなぜ誤解されるのか 早川書房 pp.136

エゴレンズ

「信用レンズ」や「パワーレンズ」と同じように,この「エゴレンズ」の使命も単純なものです。それは自分が優位になるようにものごとを見るということです。この使命を果たすために「エゴレンズ」が使う戦略はいくつかあり,この章ではそれらを詳しく見ていきたいと思います。
 まずはその4つの戦略を簡単に説明しましょう。

 戦略1:自分より相手の方が(相手のグループよりも自分のグループの方が)優れている点に注目する。

 戦略2:相手と自分が同じグループに属している点に注目する。この場合,相手の成功は自分自身のものでもあり,その素晴らしい栄光に自分も浴すると考える。

 戦略3:相手の優れた点が自分にとって脅威ではないと判断する。相手の持つリソースが自分のものと重なっていない,あるいは相手の優れた点を特に評価しない。

 戦略4:右の3つの戦略のどれを使ってもうまくいかないときや,どれもうまく当てはまらないときは,相手の優れた資質や業績が,認識する側の自己肯定感にとって脅威となる。そのため,相手を避けたり,邪魔したりして,脅威をなくそうとする。

ハイディ・グラント・ハルヴァーソン 高橋由紀子(訳) (2015). だれもわかってくれない:あなたはなぜ誤解されるのか 早川書房 pp.133-134

良い第一印象

心理学の研究によって明らかになったのは,ナルシシストやサイコパスの人たちが,往々にして初対面の人に非常に良い第一印象を与えるという事実で,これはやっかいな問題です。でも「フェーズ2」というプロセスがあるおかげで,私たちは出会った人の第一印象にとらわれず,本当はどういう人なのか,さらに認識を深めることができるのです。
 一般的に「フェーズ2」では,相手の行動が何らかの状況によって引き起こされていて,その状況にあれば,他の人でも同じ行動をとるのではないかと考えます。相手の行動に関して自分が最初に行なった理由づけを疑ってかかり,自分の出した結論がバイアスで歪んでいないかをチェックしようとします。意識的な観察者は,自分の心が自然に生み出した結論にも介入して修正しようとします。
 「フェーズ2」はよく「修正フェーズ」とも呼ばれます。最初の印象を修正するのは容易ではなく,努力を要し,自動的には行われません。したがって認識する側には,相手を理解しようとするエネルギーと時間のほかに,それを行なうためのモチベーションが必要になります。このどれかの要素が欠けていると,認識者は「フェーズ1」で作り上げた最初の印象を持ち続けることになります。「フェーズ2」にいくには,よほど注意を喚起するものが必要です。しかし資産運用アドバイザーが私たちのお金をすべて盗み取って起訴されてから気づいても,万事遅すぎるわけです。

ハイディ・グラント・ハルヴァーソン 高橋由紀子(訳) (2015). だれもわかってくれない:あなたはなぜ誤解されるのか 早川書房 pp.77-78

知能検査

陸軍のアルファ知能テストが実際に知能を測定したこと,テストによって精神年齢の算定が可能であること,そしてその算定された精神年齢や知能は固定的であること,きわめて多くのアメリカ人の精神年齢はたった14歳であり,それゆえ教育制度は勉強に遅れがちな大勢の子どもに対応すべきであることなどが急速に,しかも幅広く信じられるようになった。このテストを信頼しすぎる解釈には当然ながら鋭い批判がくわえられたが——ジョン・デューイもそのひとりだ——,このようなテストの誤用がアメリカの教育界ではくり返されているようだ。

リチャード・ホフスタッター 田村哲夫(訳) (2003). アメリカの反知性主義 みすず書房 pp.295

想像させる

ドイツのケッセル大学を中心とした研究グループは,他者の心のなかを想像することができれば,サイコパシー傾向が高くても,攻撃的な行動にはつながらないという可能性を見いだしました。
 コミュニティの15〜24歳の104名(男女含む)を対象とした調査が行われました。子供時代の両親との関係を思い出してもらったときに,親の心のなかを想像するような発言をする傾向のある若者は,サイコパシー傾向が高くても,能動的な攻撃は強くならないことがわかりました。能動的な攻撃というのは,攻撃を自分の望むものを得る手段としてもちいる傾向です。
 心のなかを想像するというのは,「心のなかは見えない」「それぞれの心は独立だ」といった行動を,「心」の観点から理解する傾向です。
 このとき,子供時代の両親との関係では,とくにつらかった記憶を思い出してもらうことで,単に他者の心を理解しているということを超えて,つらい感情がともなう状況でも,養育者の心を察していられるかを見ています。
 心のなかを想像する能力は,環境の影響も大きいとされています。つまり,治療につながる糸口として有力かもしれません。

杉浦義典 (2015). 他人を傷つけても平気な人たち 河出書房新社 pp.171-172

感情を当てるか

ノルウェーのベルゲン大学を中心とした研究グループは,92名の男性受刑者に,人物の目の部分の写真を見せて,それがどんな感情を示しているのかを読み当てるテストをしました。
 その結果,二次性サイコパシー傾向の高い人は,ネガティブな感情や中性的な感情が表出されているのを当てるのが苦手でした。「中性的な感情の表出」とは,とくに感情が表現されていないということです。ところが,一次性サイコパシー傾向の高い人は,中性的な感情が表現されているのを当てるのがむしろ得意でした。
 これは,これまでの実験結果からの予想に反する結果ですが,サイコパシー傾向の高い人が,人に付け入るのがうまいということを表しているのかもしれません。ときに,人の目から敏感にその人の気持ちを読み取ってしまうのです。

杉浦義典 (2015). 他人を傷つけても平気な人たち 河出書房新社 pp.143-144

サイコパシーと生活史戦略仮説

サイコパシーのメカニズムを説明する理論仮説として,比較的新しいものに,「性急な生活史戦略仮説」というものがあります。これは,動物に例えれば子孫を数多く残すことで,自分の遺伝子が引き継がれるように目指すという繁殖のスタイルです。
 哺乳類では典型的に,少ない数の子供を手をかけて育てることで,子孫を残します。このような動物の主による違いと似たようなものが,人のパーソナリティの違いとしてもあるという考え方です。
 サイコパシー傾向の高い人は,子孫を数多く残すことで,自分の遺伝子が引き継がれるように目指すという繁殖のスタイルをもつと考えられています。これをより具体的に言えば,数多くの異性と関係をもちたがると同時に,子供の世話はあまりしないというものです。もっと言えば,浮気症,気が多いといった特徴がうかがわれます。

杉浦義典 (2015). 他人を傷つけても平気な人たち 河出書房新社 pp.128-129

サイコパシーの仮説

・恐怖の欠如仮説
 リッケンという研究者が提唱したもっとも歴史のある仮説です。恐怖が低いために,反社会的行動に抑止が利かないとするモデルです。
・反応調整仮説
 自分の関心のあることに注意が向いていると,それ以外のこと(他者の気持ち,危険のサインなど)に目が向かなくなってしまうというモデルです。ウィスコンシン大学マディソン校のジョセフ・ニューマンらの説です。
・共感性の欠如仮説
 アメリカの国立精神保健研究所のジェームズ・ブレアの説です。サイコパシーの問題は,自分が恐怖を感じるときと,他者の恐怖を感じるときに共通して作動する扁桃核の機能不全に由来するという説です。
・性急な生活史戦略仮説
 動物には,たくさんの子供(卵)を生んであとは放置という種もあれば,少数の子供を生んでそれを大切に手間をかけて育てていく種類もあります。このような違いが,同じ種類の動物,具体的にはヒトの個人差としても存在するという仮説が近年注目されています。サイコパシー傾向の高い人は,たくさんの子孫を残し,世話はあまりしないという考え方です。

杉浦義典 (2015). 他人を傷つけても平気な人たち 河出書房新社 pp.71-72

自分の得になることに

アメリカのウィスコンシン大学マディソン校のジョセフ・ニューマン博士らは,サイコパシー傾向の高い人は,とりわけ自分の得になることに集中するあまり,他者の気持ちや危険が迫っていることに気づかないというメカニズムが働くと考えています。
 周囲で誰かが怒っていたりすると,つい振り向くのが人や動物の自然な状態です。つまり,環境のなかに目立つ刺激があれば,それに自然に振り向くのが本来の状態です。しかしサイコパシーの特徴をもつ人は,自分の損得に関わることに集中していると,環境のなかの目立つ刺激に自然に振り向くということが起きにくいのです。
 このような集中力は,大胆な犯罪でもバレずに完遂してしまうことに発揮されるでしょう。もう一方で,被害者の痛みや社会のルールには無頓着であることも理解できます。

杉浦義典 (2015). 他人を傷つけても平気な人たち 河出書房新社 pp.28

孤独感の有害さ

自己調節が利かなくなること,信頼関係が損なわれること,社会的な愚かしさに由来するランダムな行為,貪欲,裏切り,さらには殺人でさえ,いつの世にもあったし,これからもなくなることはないだろう。それにもかかわらず,無数の複雑なつながりの推移を把握し続けることのできる,より大きな脳は,そのつながりを維持することで孤独感の痛みを避けようとする基本的衝動と相まって,生存上の優位性を与え続けたので,向社会的な特徴は,一握りの例外を除いたすべての人にとって,いわば「標準仕様」と化した。孤独感への嫌悪と他者への愛着がほぼ普遍的な,いわゆる「環境的に安定した適応」となるにつれ,より多くの者が協調,忠誠,社会的な協力,思いやり,気遣いに依存するに至り,それによって,少なくとも仲間内では,こうしたルールに従って振る舞うことがさらに優位性を増した。その分,仲間外れにされるという感覚はいっそう恐ろしく,有害なものとなった。
 そんなわけで,最初の社会が形成されてから何万年もの時を経た今も,人間は血縁,友情,さらにありとあらゆる種類の部族集団(パラグアイの首狩り集団アチェ族から,ボストン・レッドソックスのファン,オンラインゲーム・プレイヤー,スタートレックのファン,英国国教会の信徒など)によって結びつけられている。そして,誰もがたまには独りになる瞬間を大切にするだろうし,この上なく幸せな孤独をかなり長い時間楽しめる人も多いとはいえ,何百万もの集団に属する何十億という人の中には,気分を落ち込ませる有害な孤独感の痛みを味わいたいと望む者は誰一人としていない。

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.93-94

孤独感の影響力

孤独感の強大な影響力は,3つの複雑な要因の相互作用から生まれる。これからその3要因を掘り下げてみたい。

 1 社会的な断絶に対する弱さ
 私たちはみな,基本的な体格や知的水準を親から受け継ぐ。同じように,社会的帰属に対する欲求の強弱(社会的疎外による苦痛に対する感受性とも言える)も受け継ぐ(いずれの場合であれ,こうした遺伝的な性質が発現する際に周囲の環境が与える影響もまた,きわめて重要だ)。遺伝に根差した,各人に固有のこの性向は,サーモスタットのように自動的に作動し,社会的なつながりに対する各自の欲求が満たされているかどうかによって苦悩のシグナルを発したり止めたりする。
 2 孤立感にまつわる情動を自己調節する能力
 うまく自己調節できるというのは,試練に直面したときに,表面ばかりでなく内面の深くでもしっかりと平静を保っていられることだ。孤独感が募って拭い去れなくなると,この自己調節の能力が損なわれ始める。この「調節不全」は細胞レベルでは,さまざまなストレス要因に対する抵抗力を弱め睡眠のような治癒・回復機能の働きを阻害する。
 3 他者についての心的表象,予期,推論
 私たちはみな,自分なりの見方を通して自分の経験を形作る。ある意味,誰もが自分自身の社会的世界を自ら構築しているのだとも言える。他者とのかかわり合いを解釈することを「社会的認知」という。私たちは孤独感に深くとらわれると,不幸せになり,脅威を感じ,自己調節する能力が損なわれ,それが相まって,自分自身や他者をどう見るか,他者の反応をどう予期するかにも大きな影響が出る。

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.29-30

孤独の進化

これも留意しなければならないのだが,孤立の痛みを感じるのはすべてネガティブだ,と決めつけることはない。孤独にまつわる感覚は,人間という種が生き残るのに貢献したから進化したのだ。「愛着理論」の先駆者である発達心理学者のジョン・ボウルビーは,こう書いている。「群れから孤立すること,とりわけ,幼いころに自分の保護者から引き離されることは,途方もない危険を孕んでいる。したがって,どの動物も孤立を避け,仲間との近接を維持する本能的習性を持っていたとしても,驚くことがあろうか」

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.20-22

孤独を感じる

とはいえ,私たちの誰もが孤独な思いをしたり,そこから脱したりすることを覚えておいてほしい。ときおり孤独に感じるのは,人間である証拠だ。実際,意義ある社会的つながりへの欲求と,そうしたつながりが欠けているときに私たちが感じる痛みこそが人間ならではの特徴であることを示すために,本書のかなりの部分が費やされている。孤独感が深刻な問題となるのは,それが慢性化し,ネガティブな思考や感覚や行動の執拗な悪循環を生み出した場合に限られる。

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.20

ポリグラフ=興奮検知器

もし罪を犯していれば,体がそれを暴露するというのだからありがたいが,じつはそれは,よくてもはなはだしいまでに事を単純化しているし,悪くすれば,明らかな誤りだ。常習的な嘘つきは必ずしも不安にならない。精神病質者(サイコパス)はとくにそうで,彼らの末梢神経系は,たいていの常人に比べて脅威に対する反応が鈍い。一方,真実を語っている人は不安になることがある。とくに,重大な状況ではそうだ。嘘発見器には,無実の人も有罪のように見えることがよくある。彼らは訊問されるとおびえたり動揺したりし,胸がどきどきし,息が苦しくなり,手のひらに汗が滲んでくる。彼らは自分が罪を犯したと感じることすらありうる。ポリグラフ検査者は,そういう人のことを「有罪意識過剰者」と呼ぶ。嫌疑をかけられただけで自律神経系が刺激されるからだ。逆に,罪を犯している人は,場数を踏んだ犯罪者であることが多く,ポリグラフを欺く技術を心得ていることがしばしばある。たわいのない嘘に答えている間,舌を強く噛んだり,骨の折れる暗算をしたりして,生理的な反応を起こす。そうしておけば,実際の犯罪について嘘をついたときには,結果はそれほど劇的でなくなる。
 というわけで,ポリグラフは煎じ詰めれば興奮検知器であり,嘘発見器ではない。ポリグラフは「偽陽性」を生み出す率が高くなりがちで,当局が無実の人を罰することにつながりうるし,そこまで多くはないものの「偽陰性」も生み出すので,有罪の人の容疑を誤って晴らしてしまう。適切に実施されたポリグラフ検査では,嘘をついた人のおよそ75〜80パーセントを正しく見つけ出せる(正真正銘の陽性)が,真実を語っている人の約65パーセントを誤って嘘つきと判定してしまう(偽陽性)と,アメリカ科学アカデミーは推定している。判断を誤った有名な事例を2つ挙げよう。1986年,ソヴィエト連邦のためにスパイをしていたCIA職員オールドリッチ・エイムズは,有罪とされなかった(偽陰性)。逆に1998年,エネルギー省の科学者ウェン・ホー・リーは,中国政府のスパイだと誤認された(偽陽性)。

サリー・サテル スコット・O・リリエンフェルド 柴田裕之(訳) (2015). その<脳科学>にご用心:脳画像で心はわかるのか 紀伊國屋書店 pp.134-135

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