I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「パーソナリティ・個人差」の記事一覧

自分の得になることに

アメリカのウィスコンシン大学マディソン校のジョセフ・ニューマン博士らは,サイコパシー傾向の高い人は,とりわけ自分の得になることに集中するあまり,他者の気持ちや危険が迫っていることに気づかないというメカニズムが働くと考えています。
 周囲で誰かが怒っていたりすると,つい振り向くのが人や動物の自然な状態です。つまり,環境のなかに目立つ刺激があれば,それに自然に振り向くのが本来の状態です。しかしサイコパシーの特徴をもつ人は,自分の損得に関わることに集中していると,環境のなかの目立つ刺激に自然に振り向くということが起きにくいのです。
 このような集中力は,大胆な犯罪でもバレずに完遂してしまうことに発揮されるでしょう。もう一方で,被害者の痛みや社会のルールには無頓着であることも理解できます。

杉浦義典 (2015). 他人を傷つけても平気な人たち 河出書房新社 pp.28

孤独感の有害さ

自己調節が利かなくなること,信頼関係が損なわれること,社会的な愚かしさに由来するランダムな行為,貪欲,裏切り,さらには殺人でさえ,いつの世にもあったし,これからもなくなることはないだろう。それにもかかわらず,無数の複雑なつながりの推移を把握し続けることのできる,より大きな脳は,そのつながりを維持することで孤独感の痛みを避けようとする基本的衝動と相まって,生存上の優位性を与え続けたので,向社会的な特徴は,一握りの例外を除いたすべての人にとって,いわば「標準仕様」と化した。孤独感への嫌悪と他者への愛着がほぼ普遍的な,いわゆる「環境的に安定した適応」となるにつれ,より多くの者が協調,忠誠,社会的な協力,思いやり,気遣いに依存するに至り,それによって,少なくとも仲間内では,こうしたルールに従って振る舞うことがさらに優位性を増した。その分,仲間外れにされるという感覚はいっそう恐ろしく,有害なものとなった。
 そんなわけで,最初の社会が形成されてから何万年もの時を経た今も,人間は血縁,友情,さらにありとあらゆる種類の部族集団(パラグアイの首狩り集団アチェ族から,ボストン・レッドソックスのファン,オンラインゲーム・プレイヤー,スタートレックのファン,英国国教会の信徒など)によって結びつけられている。そして,誰もがたまには独りになる瞬間を大切にするだろうし,この上なく幸せな孤独をかなり長い時間楽しめる人も多いとはいえ,何百万もの集団に属する何十億という人の中には,気分を落ち込ませる有害な孤独感の痛みを味わいたいと望む者は誰一人としていない。

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.93-94

孤独感の影響力

孤独感の強大な影響力は,3つの複雑な要因の相互作用から生まれる。これからその3要因を掘り下げてみたい。

 1 社会的な断絶に対する弱さ
 私たちはみな,基本的な体格や知的水準を親から受け継ぐ。同じように,社会的帰属に対する欲求の強弱(社会的疎外による苦痛に対する感受性とも言える)も受け継ぐ(いずれの場合であれ,こうした遺伝的な性質が発現する際に周囲の環境が与える影響もまた,きわめて重要だ)。遺伝に根差した,各人に固有のこの性向は,サーモスタットのように自動的に作動し,社会的なつながりに対する各自の欲求が満たされているかどうかによって苦悩のシグナルを発したり止めたりする。
 2 孤立感にまつわる情動を自己調節する能力
 うまく自己調節できるというのは,試練に直面したときに,表面ばかりでなく内面の深くでもしっかりと平静を保っていられることだ。孤独感が募って拭い去れなくなると,この自己調節の能力が損なわれ始める。この「調節不全」は細胞レベルでは,さまざまなストレス要因に対する抵抗力を弱め睡眠のような治癒・回復機能の働きを阻害する。
 3 他者についての心的表象,予期,推論
 私たちはみな,自分なりの見方を通して自分の経験を形作る。ある意味,誰もが自分自身の社会的世界を自ら構築しているのだとも言える。他者とのかかわり合いを解釈することを「社会的認知」という。私たちは孤独感に深くとらわれると,不幸せになり,脅威を感じ,自己調節する能力が損なわれ,それが相まって,自分自身や他者をどう見るか,他者の反応をどう予期するかにも大きな影響が出る。

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.29-30

孤独の進化

これも留意しなければならないのだが,孤立の痛みを感じるのはすべてネガティブだ,と決めつけることはない。孤独にまつわる感覚は,人間という種が生き残るのに貢献したから進化したのだ。「愛着理論」の先駆者である発達心理学者のジョン・ボウルビーは,こう書いている。「群れから孤立すること,とりわけ,幼いころに自分の保護者から引き離されることは,途方もない危険を孕んでいる。したがって,どの動物も孤立を避け,仲間との近接を維持する本能的習性を持っていたとしても,驚くことがあろうか」

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.20-22

孤独を感じる

とはいえ,私たちの誰もが孤独な思いをしたり,そこから脱したりすることを覚えておいてほしい。ときおり孤独に感じるのは,人間である証拠だ。実際,意義ある社会的つながりへの欲求と,そうしたつながりが欠けているときに私たちが感じる痛みこそが人間ならではの特徴であることを示すために,本書のかなりの部分が費やされている。孤独感が深刻な問題となるのは,それが慢性化し,ネガティブな思考や感覚や行動の執拗な悪循環を生み出した場合に限られる。

ジョン・T・カシオッポ&ウィリアム・パトリック 柴田裕之(訳) (2010). 孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか 河出書房新社 pp.20

ポリグラフ=興奮検知器

もし罪を犯していれば,体がそれを暴露するというのだからありがたいが,じつはそれは,よくてもはなはだしいまでに事を単純化しているし,悪くすれば,明らかな誤りだ。常習的な嘘つきは必ずしも不安にならない。精神病質者(サイコパス)はとくにそうで,彼らの末梢神経系は,たいていの常人に比べて脅威に対する反応が鈍い。一方,真実を語っている人は不安になることがある。とくに,重大な状況ではそうだ。嘘発見器には,無実の人も有罪のように見えることがよくある。彼らは訊問されるとおびえたり動揺したりし,胸がどきどきし,息が苦しくなり,手のひらに汗が滲んでくる。彼らは自分が罪を犯したと感じることすらありうる。ポリグラフ検査者は,そういう人のことを「有罪意識過剰者」と呼ぶ。嫌疑をかけられただけで自律神経系が刺激されるからだ。逆に,罪を犯している人は,場数を踏んだ犯罪者であることが多く,ポリグラフを欺く技術を心得ていることがしばしばある。たわいのない嘘に答えている間,舌を強く噛んだり,骨の折れる暗算をしたりして,生理的な反応を起こす。そうしておけば,実際の犯罪について嘘をついたときには,結果はそれほど劇的でなくなる。
 というわけで,ポリグラフは煎じ詰めれば興奮検知器であり,嘘発見器ではない。ポリグラフは「偽陽性」を生み出す率が高くなりがちで,当局が無実の人を罰することにつながりうるし,そこまで多くはないものの「偽陰性」も生み出すので,有罪の人の容疑を誤って晴らしてしまう。適切に実施されたポリグラフ検査では,嘘をついた人のおよそ75〜80パーセントを正しく見つけ出せる(正真正銘の陽性)が,真実を語っている人の約65パーセントを誤って嘘つきと判定してしまう(偽陽性)と,アメリカ科学アカデミーは推定している。判断を誤った有名な事例を2つ挙げよう。1986年,ソヴィエト連邦のためにスパイをしていたCIA職員オールドリッチ・エイムズは,有罪とされなかった(偽陰性)。逆に1998年,エネルギー省の科学者ウェン・ホー・リーは,中国政府のスパイだと誤認された(偽陽性)。

サリー・サテル スコット・O・リリエンフェルド 柴田裕之(訳) (2015). その<脳科学>にご用心:脳画像で心はわかるのか 紀伊國屋書店 pp.134-135

感情的特性

ゴールマンやバーオンなどの混合モデルで,特性としてのEIとされてきたものの中核に,正負両方の感情に関わる気質やパーソナリティがあることは,先にもふれた通り,すでに多くの研究者が指摘するところです。そして,繰り返しになりますが,それは本来,EI(感情的な知能)として概念化されることに必ずしもそぐわないものです。むしろ,それは,より直接的に感情的特性(emotional trait)と呼ばれるべきものです。私たちは元来,事象や刺激に対してどれだけ敏感に反応し,感情的に賦活されやすいか(emotional sensitivity),またネガティヴな感情がどれだけ経験されやすいか(emotionality),あるいはまた共感性なども含めたポジティヴな感情がどれだけ発動されやすいか(emotionateness)といったところに,広範な個人差を有していると考えられます。

遠藤利彦 (2015). こころの不思議—感情知性(EI)とは何か 日本心理学会(監修) 箱田裕司・遠藤利彦(編) 本当のかしこさとは何か—感情知性(EI)を育む心理学 誠信書房 pp.1-19.

相関が高すぎる

特性としてのEIに関しても,すでにビッグ・ファイヴをはじめとして,さまざまなパーソナリティ指標との関連性が検討されています。たとえば,(混合モデルの指標とはされていますが)実質,特性としてのEIを測定するためのツールであるバーオンのEQ-iに関しては,その下位尺度とビッグ・ファイヴの各特性との間にさまざまに有意な相関が見出されることが数多くの研究によって報告されています。もちろん,特性として仮定されている以上,同じく特性としてあるパーソナリティと一定の関連性を有することは半ば自明のことといえるわけです。
 しかし,そこで問題になるのは,その相関があまりにも高すぎるということです。EQ-iとパーソナリティ指標との相関は,特に(ネガティブ感情に密接に関連する)情緒的不安定性や(ポジティヴ感情に密接に関連する)外向性の次元などを中心に,時に0.8にも達するような不自然に高い値を示す場合が,かなり頻繁に認められることが知られています。すなわち,そうなると,そもそも両者にはほとんど概念的独立性が成り立っていないことになり,結局のところ,EQ-iに従来のパーソナリティ測度にはない独自性を仮定してみること自体,実質的に非現実的であるということになってしまうのです。

遠藤利彦 (2015). こころの不思議—感情知性(EI)とは何か 日本心理学会(監修) 箱田裕司・遠藤利彦(編) 本当のかしこさとは何か—感情知性(EI)を育む心理学 誠信書房 pp.1-19.

能力として・特性として

また,一部には,質問紙法などの同じ方法論をもって「能力としてのEI」と「特性としてのEI」の両方を正当に測定することはそもそも原理的に無理であるとの判断から,EIを純粋にパーソナリティの下位特性と見なし,特に感情的な適応性に深く関わる自己信頼感や自己主張性あるいは共感性といった視点から再概念化すべきだと主張する「特性モデル」(trait model)の立場もあるようです。

遠藤利彦 (2015). こころの不思議—感情知性(EI)とは何か 日本心理学会(監修) 箱田裕司・遠藤利彦(編) 本当のかしこさとは何か—感情知性(EI)を育む心理学 誠信書房 pp.1-19.

バーオンの研究

なお,ゴールマンと同様に,EIに関して混合モデルをとる代表的な論者にバーオンがいます。彼は,臨床心理士としての実戦経験に基づきながら,EIを,環境からもたらされる種々の要求や圧力にうまく対処するために必要となる非認知的な能力やスキルおよび特性の総体であると定義した上で,日常における感情的・社会的適応性を測るための自己報告式測度,EQ-iを独自に開発しています。

遠藤利彦 (2015). こころの不思議—感情知性(EI)とは何か 日本心理学会(監修) 箱田裕司・遠藤利彦(編) 本当のかしこさとは何か—感情知性(EI)を育む心理学 誠信書房 pp.1-19.

EQが流行った背景

こうしたサロヴェイらの発想に触発されて,EI概念を平易に解き明かし,広く世に広めることになった立役者が,サイエンス・ジャーナリストのダニエル・ゴールマンということになります。現在,EIを扱った書物は,欧米圏を中心におびただしい数に上っており,とりわけEI概念の受容は,いわゆる「EI産業」なるものが成り立つほどに,ビジネスの世界で顕著であるといえますが,そのきっかけとなったのが彼のベストセラー『感情知性』(Emotional Intelligence: Why it can matter more than IQ)であることは間違いありません。ゴールマンは,EI概念とその応用可能性を巧みに論じ,(特に欧米圏を中心とした)EIをめぐるある種,狂騒的ともいえる現在の状況をつくり上げたのです。むろん,そこに,彼の筆致の妙が関わっていたことはいうまでもありませんが,うがった見方をすれば,彼の本が,たまたまタイミングよく,当時のアメリカの社会的思潮にうまく合致したという部分も少なからずあったのかもしれません。それというのは,『感情知性』が世に出る前年の1994年,アメリカ社会はもう1冊のベストセラー『ベル・カーブ』(The bell curve: Intelligence and class structure in American life)に揺らいでいたからです。

遠藤利彦 (2015). こころの不思議—感情知性(EI)とは何か 日本心理学会(監修) 箱田裕司・遠藤利彦(編) 本当のかしこさとは何か—感情知性(EI)を育む心理学 誠信書房 pp.1-19.

4枝モデル

サロヴェイとメイヤーは,EIを,従来のIQの範疇では把握できない別種の「能力」(ability)であると仮定し,いわゆる4枝モデル(four branch model)として概念化してきています。それは,EIが,知覚・認知的に最も低次の水準から最も高次の水準に至るまで,順に階層をなして,

(1)感情の知覚・同定
(2)感情の促進および思考への同化
(3)感情の理解や推論
(4)自分や他者の感情の制御と管理

 という4種の下位要素(4本の枝)から構成されるとするものです。もう少し詳しくお話ししましょう。
 (1)の要素は,その時々の自身の感情の知覚・同定および,小説や映画などの登場人物も含めた他者の感情の知覚・同定を,その真偽も含めていかに的確になし得るかということと,自身の感情や感情的ニーズを他者に対していかに正確に表すことができるかということに関わる能力です。
 (2)の要素は,さまざまな感情や気分を,自発的に自身のなかに誘発したり,想像したりすることによって,意思決定や問題解決あるいは創造性も含む自身の思考や行動にどのように活かすことができるかということに関わる能力です。
 (3)の要素は,感情の法則性の理解,たとえば,1つの感情が他の感情とどのように関連するか,また複数の感情がどのように混じり合う可能性があるか,さらには感情がどのような原因から発し,またどのような結果をもたらすかといったことに関する理解・推論能力です。
 (4)の要素は,正負両面の感情に対して防衛なく開かれた態度を有し,時と状況に応じて自身の感情をいかにうまく制御・調整できるか,また他者の感情をいかにその文脈に合わせて適切なものに導き,管理できるかといったことに関わる能力です。

遠藤利彦 (2015). こころの不思議—感情知性(EI)とは何か 日本心理学会(監修) 箱田裕司・遠藤利彦(編) 本当のかしこさとは何か—感情知性(EI)を育む心理学 誠信書房 pp.1-19.

集団のナルシシズム

コーネル大学のジャック・ゴンガロの研究チームは,グループ内におけるナルシシズムの効用を調べることにした。調査の参加者4人ずつのグループを73チーム作り,困難な問題を抱えた企業のために組織コンサルタントとして働いてもらうと告げた。イノベーティブでしかも実現可能な行動プランを作り出すことが目標である。参加者たちはもちろんプロジェクトを成功させたいと思っているが,それに加えてプレッシャーもある。組織心理学の専門家が2人,各自のアイデアを評価して,もっとも優れた人材を選ぶと言われているからだ。
 まず事前に,292人の参加者それぞれの「ナルシシスト的傾向」を評価する。その後,73のチームは数週間かけてプロジェクトに取り組む。そしてプロジェクトが完成した後,各自に「アイデアについてどのように話し合ったか」「決断を下す前にすべての可能な選択肢について考えたか」など,グループダイナミクスについて尋ねた。さらに専門家が,各グループが打ち出した解決策を評価した。その結果,ナルシシスト的リーダーは本質的に好ましくないという一般的な見方に反し,「ナルシシストが少なすぎても多すぎても最適なグループダイナミクスは生まれず,創造性も限られたものになる」ということがわかった。グループ運営面から見ても,生みだされたソリューションの質から見ても,ナルシシストがグループ内に1人ないしゼロの時に比べ,2人いる状況が最適だという結論が出た。
 皆さんは,「グループにナルシシストがいるなんて,どこがいいのだろう」と思っているだろう。しかしナルシシストは2人いると特に具合がいい。それはイノベーティブに考えようとする時には,規範やルールが妨げになることが多いからだ。創造的であるためには,「こうでなくてはならない」という思い込みに挑戦する必要がある。ナルシシストは,自分だけは特別だと思っており,壮大な幻想を持っているので,アイデアが世間的に見て適正かどうかということに関心がない。ばかばかしいとか実現不可能だとしてさっさと切り捨てられるようなアイデアが,ナルシシストにとっては格好の獲物となる。マイケル・マコビーは,『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌の中で,人々に議論をやめさせ行動を起こさせる偉大なナルシシストたちの例をたくさん挙げている。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.238-239

幸せ予測

幸せの予測を誤らせるバイアスは他にもあり,スフレを半分しか食べられないことよりずっと悪い結果につながることもある。一般的な例を挙げれば「インパクト・バイアス」というのがある。これは何かの出来事が感情に与えるインパクトと,その影響が続く時間を課題に見積ることである。たとえば,太陽の降り注ぐハワイで1週間休暇を楽しんだとする。「こんなに素晴らしい場所はない」と感じて,引退後はハワイで過ごそうと考えてしまう。この選択は,明確には意識しないものの,快適な気候,ゆったりした生活ペース,海に近い暮らしなどが「今よりずっと自分を幸福にしてくれる」という推測に基づいている。だが人は常に実際よりも強い感情インパクトを予測しがちである(スポーツにおける勝敗,政治面での勝利,仕事上の成否などに関して行われたさまざまな研究の結果がそれを示している)。また,そのインパクトが,実際よりも長く続くと考える傾向がある。従ってハワイに移住した人の場合も,おそらく一時的に幸福感は上昇するだろう。だが1か月もたてば新しい環境に慣れ,引退前に都会で暮らしていた頃と同じ程度の幸福度に戻ってしまう。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.161

感情というスーパーパワー

皆さんは子どもの頃に,自分が何かのスーパーパワー(空を飛べる,誰よりも強い,不死身である)を持っているつもりになって遊んだことがあると思う。ポジティブ,ネガティブを含め,私たちのすべての感情がそれぞれの利点を持つことを考えれば,人にはスーパーパワーがひとつどころか,たくさんあるということがわかる。勇気を持たせてくれる「怒り」,道に外れた行いを正してくれる「罪悪感」,危険を見張っていてくれる「不安」などである。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.131-132

罪悪感と恥

罪悪感の利点が世の中で広く理解されなくなったのは,「罪悪感」と「恥の意識」が混同されてしまったからである。アメリカン・ヘリテージ英語辞典によれば,罪悪感とは「過ちに対する自責の念」であり,「自分の行動が不十分ないし誤りだったと感じることによる自己非難」である。恥の意識はそれとは別のものだ。人が恥の意識を覚える時には,単に自分の行為を過ちや悪行だったと考えるだけではない。自分自身を基本的に悪い人間と感じるのである。罪悪感の場合,悪かったという認識は特定の状況に限られる。しかし恥の意識は,自分という人間そのものをネガティブに捉える。「罪悪感」は役に立つ。しかしその親類の「恥の意識」はあまり有益ではない。罪悪感は限定されるが,恥の意識はずっと広い範囲に及ぶ。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.117

ネガティブ感情=シグナル

どのネガティブ感情も,「何かがうまく行っていない,すぐ対応する必要がある」と知らせてくれるシグナルである。怒りやその他のネガティブ感情を,感じるそばから押さえ込んでしまうと,それらがなぜ湧いてきたのか,それがどんな行動を促しているのかわからない。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.96

退屈の機能

たとえば,最近退屈していた時間のことを思い出してみよう。カルガリー大学のピーター・トゥーイに言わせると,退屈というのは機能を持ったツールなのだそうだ。現在の人間関係や日々の雑事に自分は満足していない,ということを自覚させてくれるツールである。長々と続くスピーチや長時間のフライトで退屈している時など,自分ではどうしようもない時もあるが,退屈な状況から自力で抜け出すことが可能な時も多い。退屈のおかげで,正しい選択をしていないことや,新しい状況で心を閉ざしている自分に気づくことができる。また興味深いのは,多くの人は退屈を嫌うのに,その時々の退屈にちゃんと対処していることだ。そしてそういう気分はやがて過ぎ去る。退屈を事前に想像すると耐えがたいものに思えるが,皆さんはこれまでの人生で数えきれないほど退屈を経験し,そのたびに有効に対処してきたのである。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.92-93

社会的敏捷性

「社会的敏捷性」というのは,移り変わる状況を認識し,それぞれの場で求められていることに自分の行動を適応させる能力のことである。社会的に敏捷な人は,行動的で,選択能力があり,自分の置かれた状況に影響力を及ぼすことができる。状況によって,人に優しいことも,罪のない嘘をつくことも,相手に圧力をかけることもある。また有名人の名前を出したり,相手にへつらったり,お世辞を言ったり,助力を申し出たりすることもある。配偶者や恋人を感心させるために,少し前に冷蔵庫を掃除したことをさりげなく伝えたりもする。社会的に敏捷な人たちは,決してマキャベリ的というわけではない。単に「よき人間であれ」という規範よりも,もう少し包括的で柔軟な社会規範に従って行動するのである。興味深いのは,人がルールを破るケースの多くが,自分が得をするためでなく,相手を喜ばせたり,関係を深めたり,大事な目標を達成するためだったりすることだ。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.43-44

ネガティブ感情の利点

不快と感じて避けがちなネガティブ感情にはいくつか大きな利点があり,そのひとつが,目標達成への執着が薄れることが。悲しみ,欲求不満,自信のなさ,混乱,さらには罪悪感も,そういう働きをする。ネガティブ感情が,いまはブレーキをかけ,じっくり自分の気持を見つめ直し,労力や資源を節約すべきだと教えてくれる。私たちは,達成が望めない信念のために無限に投資を続けてしまいがちだ。望む結果を得る可能性が細る一方なのに,損切りをする決心がつかず,「サンクコスト(埋没費用,投下した労力や資金などが戻ってこないこと)」を考えて止められなくなる。そんな時は,ネガティブ感情のかけるブレーキがとりわけ重要になる。ポジティブもネガティブも包含する「ホールネス」を持つ人たちは,目標に対してもっと柔軟に行動できる。事態がよいペースで進展していれば投資を続け,ダメだと判断すれば見切りをつけて別の目標に切り替えるのである。

トッド・カシュダン,ロバート=ビスワス・ディーナー 高橋由紀子(訳) ネガティブな感情が成功を呼ぶ 草思社 pp.36-37

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