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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「生物学」の記事一覧

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寿命約1年

実は,スルメイカに限らず,ほかの多くのイカも寿命は1年程度であり,ゆえに単年性と呼ばれる。熱帯海域に暮らすミミイカといった小型のイカなどでは,寿命は半年,あるいはもっと短いという説もある。タコもおおかたにおいて1年程度の寿命だ。寿命の見積りに多少の幅はあり,1年半とか,種類によっては2年程度というものもあるが,何年間も生き続けるというイカやタコはいない。こういう話をすると,「マッコウクジラとの格闘シーンがよく描かれる,体の大きさが10メートルを超えるあのダイオウイカもたった1年しか生きないのか?」と必ず聞かれるが,この点ははっきりしない。さすがに彼らはもう少し長く生きているのかもしれないが,体の大きさからしてもダイオウイカはひとまず例外といえるだろう。
 スルメイカは生まれたときには体のサイズ(外套膜という,ぼくらの胴に相当する部位の長さで測る)がわずかに1ミリメートルほどであるが,それがたった1年(実際にはもっと短い期間)で30センチメートルになるわけだ。イカは非常に成長の速い動物ということができる。

池田 譲 (2011). イカの心を探る:知の世界に生きる海の霊長類 NHK出版 pp.32-33
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味覚・嗅覚

脳による明確なコントロールに加えて,タコの腕は味覚もすぐれている。人類はぽつんとエアポケットに入って進化したので,海水のようなはるかに電気を通しやすい媒体にすっぽり包み込まれた生活がどういうものなのか,なかなか想像しがたい。人間にも嗅覚はあるが,タコのような濃厚な世界の住人は,文字どおり化学的シグナルの海で泳いでいる(そのおかげで,ひとりぼっちのタコは恋の相手を見つけられるのかもしれないが)。
 だが,タコは海水に乗って匂いや味が漂ってくるのをおとなしく待っているだけではない。吸盤には匂いや味を感知するセンサーがあるので,タコにはいま手にしているものの味がわかる。脳のかなりの部分がこの情報の解析に専念しているようだ。タコなら手にした瞬間に——というか,吸盤で触ったとたんに——味わえるだろう。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.223-224

吸盤の器用さ

タコは苦もなく吸盤を使えるばかりか,自由に脱着もできる。引っ張ったり,引きはがしたり,毒づいたりは無用だ。それに,イカの吸盤よりはるかにすぐれた機能を持つ。イカの場合はふつう,物をつかむための道具に過ぎないし,それも満足にできない。タコは吸盤をひとつひとつ別々に動かしたり,回したりすることが可能で,折りたたんで物をつまむこともできる。「ものすごく複雑だということよ」と,ジェニファー・マザーは言う。この精妙なバレエの指揮をとるため,タコは吸盤のふちを動かす神経節をまったく別個に持っている。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.188-189

マダコに逆らうな

これは肝に銘じておくべきだ。マダコに逆らってはいけない。それを言うなら,ミズダコだって同じだが。アンダーソンによれば,シアトル水族館でも,夜間警備員が同じようにびしょぬれになったことがあるそうだ。夜の巡回の場合,警備員は暗い展示物のあいだを懐中電灯で照らして歩く。どうやら,この水族館のミズダコは真夜中の安全確認が気に入らなかったらしく,警備員が入っていくたびに水を浴びせかけるようになった。
 だが,タコには本当に人間の区別がつくのだろうか?これを確かめるため,アンダーソンとマザーは共同で,“良い警官と悪い警官”戦法を使う実験を考え出した。ひとりはミズダコに近づいて棒でいじめ,もうひとりはミズダコに近づいてから,餌を与えるようにする。2週間かけてこの両極端な対応に慣れてからは,“悪い警官”役が部屋に入ってくると,タコは水槽の隅に身を縮めたり,吸盤をこちらに向けて闘志をみなぎらせたり,相手に水を噴きかけたりするようになった。タコの目を横切るように線が浮かび上がることもよくあった。いらだちや敵意を示すメッセージだ。ところが,餌を持ってくる“良い警官”役に対しては,水面に浮上するか,水面の方へ腕を上げて,いつでも餌をもらえる態勢になったという。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.137-138

タコの知能

タコの知能が高いかどうか確かめることより,“問題はタコの知能を正確に測定して数値化するという点にある”と,アンダーソンはビリーの実験に関する論文で指摘している。
 タコに学習能力があることは,研究者にとってもはや驚きではない。多くの脊椎動物やハチと同じく,タコは学習すれば横棒と縦棒の区別がつくし,アルファベットの“V”と“W”のちがいもわかるようになる(わたしの知るかぎり,車の“VW”と“BMW”の区別がつくかどうか試してみた人はいないが)。脊椎動物ほど学習の成果が出ないこともあるが,鳥やネズミより飲み込みが早かったタコもいる。タコの学習能力がどの程度か判断するなら,アンダーソンは鳥類の真ん中あたりだと考えている——ヨウム(コンゴの大型インコ)ほど賢くはないにしても,コガラよりは知能が高いだろう。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.135-136

光の魔術師

タコが操るのは音波ではない。光を使って天敵の目をごまかす“光の魔術師”だ。「ここがタコのすごいところだ」と,バラデュークは言う。「方程式で解けるような生易しい問題ではない」。たしかにすごいが,信号処理の専門家でなかったら,まさにそこが頭痛の種だと言いたくなる。
 海に差し込む光の情報,“光線空間(ライトフィールド)”を数学的に解析しようと,さまざまな研究が行われている。だが,タコは人間がこしらえたお粗末なコンピューター・プログラムや数理モデルのはるか先を行く。どういう仕組みなのか,その場に分散する全方向の光をとらえて,情報を自動的に処理しているのだ。「降り注ぐ日差しの光線空間を理解するのは,きわめてむずかしい問題なんだ。これほどうまく対処できるなんて,たぐいまれな生物だよ」と,バラデュークは言う。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.122

デビルフィッシュ

タコは自分の目そのものを隠そうとすることもある。体色をコントロールする神経の大部分は目のまわりの皮膚に集中しているから,悪くない戦法だ。ウッズホール海洋生物研究所のロジャー・ハンロンによれば,目のカモフラージュだけに500万個の色素胞を使える。目の周辺に黒い横筋を入れて,目の形をぼやかすこともできる。目の上の皮膚を動かして,小さな角を生やし,目だとわからないようにすることも可能だ。体の色を燃えるような真紅に変えられるうえに,こんな変装をしていては“デビルフィッシュ”という異名をとったのも不思議ではない。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.99

タコの皮膚

液晶ディスプレイといった先端技術の恩恵を受けなくても,タコの皮膚には生まれながらに何百万個もの色素胞という高解像度ディスプレイが取り付けられている。色素胞は色素の入った小さな袋だ。脳からの指令に基づいて周囲の筋肉を伸縮させ,袋を伸ばしたり縮めたりして色を表現する。そのあたりの仕組みは液晶ディスプレイと大差ない。こうした無数の色素胞の作用が組み合わさって,タコの全身の色合いや柄が決まる。これまでの研究で,タコが偏光にも反応できることがわかっている。人間は特殊な眼鏡をかけないと感知できないタイプの振動方向の光だが,海洋生物の多くははっきり見える。
 タコの皮膚にはほかにも体色変化に関わる細胞がある。光を選択的に反射してメタリックな輝きを放つ虹色素胞と,すべての光を散乱してしまうので白く見える白色素胞だ。どちらも色素胞の一種だが色素を持たず,光の反射や散乱で色を作り出している。さらに,こうした細胞の下には筋肉が細かく張りめぐらされ,力をゆるめたり入れたりすることで,立体的な質感をこしらえている。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.96-97

最大のタコ

最大のタコの記録としてたしかなものは,生きているミズダコの例で,体重が70キロほどもあった。2002年にはニュージーランド沖の海底から,“7本腕のタコ”の死骸が引き揚げられている(カンテンダコのことだが,オスの交接腕はたいてい袋に入っていて見えないので,そう呼ばれている)。死骸であるうえに,無傷のままでもなかったが,体重は60キロ,外套膜から腕の先まで広げると,2.9メートルもあった。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.83

青い血

中学校の生物の教科書か,教室の壁に貼られていた色鮮やかな人体解剖図をちょっと思い浮かべてほしい。人間の循環器系の正面図と背面図が両方載っているものだ。赤い動脈は酸素をたっぷり含んだ血液を全身に運び,青い静脈は酸素を使い果たした血液をまた心臓や肺に戻して補充する役目を果たしている。そのため,手の甲にある青く浮き出た静脈を切っても,大気中の酸素に触れたとたんに,血は真っ赤になる。
 タコがからんでくると,もっと話は複雑だ。タコの血は酸素を含んでいる場合は青く,酸素が欠乏してくるとだんだん色味が薄れて透き通ってくる。人間の血が赤いのは(ほかの動物をはじめ,ほかの哺乳類でも)鉄分を含んでいるからだ。酸素を運ぶのに役立つヘモグロビンの生成には,血液中の鉄分が欠かせない。ところが,高知のように酸素濃度が低いところでは,このシステムでは効率が悪い。カブトガニやほかの軟体動物をはじめ,海底で生活するタコのような生物は,血液中の酸素運搬物質としてまったくちがう手段を利用することで,低酸素問題を解決している。鉄ではなく銅を含むタンパク質,ヘモシアニンだ。
 だが,ウッズホール海洋生物研究所の研究主幹ロジャー・ハンロンに言わせれば,ヘモシアニンを採用して“ろくでもない青い血”になったせいで,タコは海の酸性化に弱くなってしまった。タコの場合,酸素運搬能力はpH値に対して過敏に反応する。つまり,少しでもpH値が低下して酸性に傾くと,血中のヘモシアニンの酸素運搬能力は大幅にダウンしてしまうのだ。pH値が低いと,タコは十分な酸素を末端の組織まで行き渡らせることができず,酸欠死することになる。魚のようにヘモグロビンを利用している動物と比べると,タコや頭足類はこうした変化にうまく対処できないのだそうだ。気候変動で海の酸性化に直面している現在,それはかなり致命的な欠点となりかねない。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.78-79

タコの生存確率

生息域が広範囲に及ぶのは,効率の悪い繁殖方法のおかげだ。一般的に,タコのメスは小さな卵を何千個も産む。孵化しても,いばらくは泳ぐ力も弱くて潮の流れに身をまかせるしかなく,ほかのプランクトンの群れといっしょに海面近くを浮遊して過ごす。タコの稚仔の大半は魚の餌食になるか,過酷な環境に適応できず,海の藻屑と消えてしまう。それでも少数ながら,運良く生き延びて海底にたどり着く稚仔もいて,そこで成長して何千もの自分の子孫を世に送り出すようになる。
 遺伝子情報の解読が進めば,孵化したばかりの微粒子サイズの頭足類の浮遊範囲もくわしく調べられるようになるだろう。だが,いまのところタコの生息域はまだはっきり解明されていない。スペインで出会った若手の漁業生物学者ハイメ・オテロによれば,個体数のサンプリングのためにタコの稚仔を採取するのは,かなりの徒労なのだそうだ。「網にかかるタコの稚仔はせいぜい100匹くらいだから」と,彼は言う。統計学的に妥当なサンプルを得るには膨大な数が必要な場合,こうした採取は大いなるネックとなる。

キャサリン・ハーモン・カレッジ 高瀬素子(訳) (2014). タコの才能:いちばん賢い無脊椎動物 太田出版 pp.21

機能はわからない

ひとつわかりやすい例をあげてみたい。平泳ぎの北島康介選手を知らない人(たとえば火星人)が科学的に北島選手のカラダを解析して,筋肉の構造などを徹底的に科学的に理解しても,北島選手がいったいどのスポーツで金メダルを取ったのかはおそらくわからないと思うのだ。北島康介選手の肉体のすごさは,当然ながらその筋肉を研究すればある程度わかるだろう。そして,その筋肉を研究すればアスリートとして一流ということはわかるだろう。しかし,平泳ぎで世界一ということまではわからないはずだ。もちろんこれは推察にすぎないが,たぶんわからないだろうと思う。なぜなら,北島選手のすごさは物質としての筋肉にあるのではなく,それに支えられてはいるものの,それとは独立した「平泳ぎの泳ぎ方」であるからだ。北島選手の能力は物質に支えられているが,その本質は物質からはわからない。重要なのはメカニズムなのだ。

妹尾武治 (2014). ココロと脳はどこまでわかったか?脳がシビれる心理学 実業之日本社 pp.189-190

サルの精神異常

ひとつのケージに1匹のサルを収容するという標準的な飼育環境によって生じたのが自滅的な行動ならば,完全な隔離からはさらに悪い結果が生じた。それが精神異常だったのである。言うまでもなく,これらのほとんど麻痺した状態のサルたちは,正常な性的関係を結ぶことができなかった——というより,どんな関係も結ぶことができなかった。研究室のメンバーが機能不全の雌を縛りつけて「受け入れ」の体勢をとらせてみると,ただでさえ不安定なサルの数匹を妊娠させることができた。その結果は,「社会的知性」を持たない動物がどれほど危険になりうるかを,このうえなく知らしめるものだった。「もっともひどい悪夢の中でも,ここに実在する母ザルほど邪悪な代理母を設計することは不可能だろう」とハリーは書いた。「愛というものをまったく経験したことのないこれらの母ザルは,赤ちゃんに対する愛情を欠いていた。残念ながら,人間の場合でも,その感情が欠如した人があまりにも大勢いる」。愛のない母親のほとんどは,子ザルを無視するだけだった。しかし不幸なことに,全員がそうだったわけではない。ある母親は,赤ちゃんの顔を床に押しつけ,手足の指を噛みちぎってしまった。もう1匹は,赤ちゃんの頭を口の中に入れて噛み潰してしまった。それが強制妊娠の結末だった。

デボラ・ブラム 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) (2014). 愛を科学で測った男 白楊社 pp.285-286

アカゲザルのおかげ

ハリーは当初,アカゲザルがどれほど賢いかに気づいていなかった。彼らの適応能力は,いくぶんかは私たち人間と同じように,すばやく抜け目のない知性に基づいている。現在の霊長類研究では,アカゲザルは簡単な計算ができ,シューティングゲームを驚くべき正確さでプレイできることがわかっている。彼らは,ハリー・ハーロウには思いも寄らなかった能力を持っているのだ。だから,ハリーは二重に幸運だったわけである。サルがほんの少ししか手に入らなかったことも,その大半がアカゲザルだったのも幸運だった。そして後になって,愛と絆の研究を進めるときに,彼はまたまた幸運に恵まれるのである。というのも,アカゲザルは私たちと同様,地球上のどの動物よりも強い絆を持つ種のひとつなのだ。ここでもまたアカゲザルのおかげで,ハリー・ハーロウは最適なタイミングで最適な動物を使って実験することになるのである。

デボラ・ブラム 藤澤隆史・藤澤玲子(訳) (2014). 愛を科学で測った男 白楊社 pp.139-140

進化の影響

人間の脳には高い学習能力があるが,その能力もまた,進化の影響を免れていない。わたしたちの脳には,特定の何かを優先的に学びとる準備がもともと備わっている。脳はまっさらな黒板のようになんでも平等に学習するわけではないのだ。たとえば脳内で恐怖をつかさどる回路は,原始的な危険を優先的に不安視するように仕組まれている。この生来の傾向は,世界観や信条の形成に非常に重要な役割を果たす。

エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.217

手当たり次第

ゲノムワイド関連解析には欠点もある。多くの科学者が指摘するのはこの手法が,できるだけ広い範囲に網を放って何かがかかるか見てみるというような,いわば手当たりしだいのアプローチであることだ。手法そのものは別に悪くはない。何を探そうとしているのか明確な目標がないときには,とりわけそうだ。だが裏を返せばそれば,何を探しているかについて明確な仮説がないという意味だ。そして,明確な仮説をもつことは科学の重大な指針のひとつだ。
 さらに大きな問題は,調査の規模が大きいため,被験者それぞれの脳内回路や認知バイアスについて詳しく調べるのが困難なことだ。このアプローチで典型的に用いられるのは,被験者に電話でインタビューをしたり,性格についての質問票に回答してもらったりというやり方だ。これでは,ゲノムワイド関連解析で用いられる評価項目は往々にして,候補遺伝子アプローチに比べて大雑把なものになってしまう。

エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.166-167

単一遺伝子の影響は小さい

候補遺伝子の研究がいくつも成功をおさめたにもかかわらず,反対陣営は依然このアプローチにまったく納得していない。急先鋒に立つのは,オックスフォード大学ウェルカム・トラスト・センター(イギリスに本拠を置く医学研究支援団体)のヒト遺伝子研究所で精神病遺伝学部門を率いるジョナサン・フリントだ。フリントいわく最大の問題は,何千もの人を対象にした複数の大規模調査でも,単一の遺伝子と性格上の特質との相関性は,微細なレベルしか認められていないことだ。神経症の調査では症状の相違のうち,特定の遺伝子のせいだと考えられるのはわずか2パーセントだった。

エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.163-164

2つの派閥

分子遺伝学の進歩を知るにつけわたしは,自分が研究室で行っている心理学や神経科学の研究と遺伝子科学とを結びつければ,「悲観的な人と楽観的な人がいるのはなぜか」という謎を解く大きな一歩になるはずだと考えるようになった。ところが分子遺伝学の世界では,どんなアプローチの仕方が最善かを巡って,ふたつの派閥が対立していた。わたしが足を踏み入れたのは,そうした派閥抗争の最前線だった。
 ふたつの陣営の研究者はどちらも情熱的で強烈な個性派ぞろいで,自説を曲げて相手と折り合う気などまるで持ち合わせていなかった。双方の主張を簡単に言えば,こういうことになる。片方の陣営が提唱するのは,特定の神経伝達物質に影響を与えると判明している特定の遺伝子を,神経生物学をもとに研究することだ。これは<候補遺伝子アプローチ>と呼ばれる手法だ。いっぽう反対陣営の主張は,「問題の遺伝子を正確に突きとめられるほど神経生物学は進んでおらず,原因遺伝子を特定するには多数の人々の遺伝子をくまなく検証すべきだ」というものだ。この立場は<ゲノムワイド関連解析>と呼ばれる。

エレーヌ・フォックス 森内薫(訳) (2014). 脳科学は人格を変えられるか? 文藝春秋 pp.158-159

立て直すことができるか

我々の技術がどんなに優れていようと,それが効果を発揮し役に立つのは,適切な社会—生態学的背景に合わせて設計され,その中で使われるときだけだ。大事な問題は「私たちはウンコを基礎とする新しい技術を設計できるか?」ではない(当然できる)。「自分たちが考えだすどのような技術も,人類にとって住みやすい地球の繁栄と持続のために役立たせるように,私たちはみずからを立て直すことができるか?」だ。

デイビッド・ウォルトナー=テーブズ 片岡夏実(訳) (2014). 排泄物と文明:フンコロガシから有機農業,香水の発明,パンデミックまで 築地書館 pp.213

トキソプラズマ症

トキソプラズマはとても小さな寄生虫で,ネコの腸内に棲み,有性生殖を行なう。ネコ科動物はシスト(訳注:表面に膜を作って休眠した状態の生物)を便の中に出すことができる唯一の動物であり,それも初めて感染した子猫の時期だけだ。トキソプラズマは子猫に抑鬱と食欲不振を引き起こすことがある。トキソプラズマに感染した動物の行動が変わることも証明されている。感染したネズミはネコをあまり怖がらなくなり,食べられやすくなって,感染のサイクルが完成する。
 だが,トキソプラズマ症がより心配されるのは,人間の病気としてだ。成人の大部分では,発熱,痛み,目の中の小さなシスト(飛蚊症)といった症状が出る。脳内のトキソプラズマのシストが統合失調症と関係していると主張する研究者もいる。女性が妊娠中に初めて感染すると,流産や死産になったり,子どもがあとで学習障害を起こしたりすることがある。人に感染した場合,シストはその筋肉や臓器に潜み,普段は悪さをしない。ところがその人が免疫抑制状態になると,シストが「目覚め」る。エイズの流行が始まった頃には,こうして復活したシストによるトキソプラズマ脳炎が,死因の多くを占めていた。

デイビッド・ウォルトナー=テーブズ 片岡夏実(訳) (2014). 排泄物と文明:フンコロガシから有機農業,香水の発明,パンデミックまで 築地書館 pp.96-97

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