I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「生物学」の記事一覧

動くか動かないか

グンタイアリの兵隊アリも大きな頭やみごとなあごを持っているが,兵隊シロアリの武器はそれ以上に大きい。それは,グンタイアリの兵隊アリがさまざまな機能のバランスを取らなければならないのに対し,兵隊シロアリにはその必要がないからだ。グンタイアリの兵隊アリは,巣からかなりの長距離を行進し,獲物を急襲する。そのため,機動性を高める方向へ向かう淘汰と,頭やあごを巨大化する方向へ向かう淘汰のバランスを取ることが必要になり,ある程度の妥協を強いられる。一方,兵隊シロアリはほとんど動くことがない。その仕事は,出入り口を守り,近づいてくるものに噛みつくことだけだ。そのため,兵隊シロアリのほうが,グンタイアリの兵隊アリより大きさも強さも勝り,トンネルの中では兵隊シロアリが勝つことになる。シロアリが一歩も引かなければ,アリの大群はもっと楽な獲物を探しに立ち去ってしまう。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.225

半分メスに擬態

オーストラリアコウイカの場合,繁殖可能なメスがオス11匹に対し1匹しかいないため,争いは熾烈を極めるが,メスはやはり,色の鮮やかな大型のオスに近づいていく。メスがオスを選ぶと,カップルは産卵をするために集団の外れへと泳いでいく。すると,メスを獲得できなかったオスは,カップルに近づいていく。そしてここでも,瞬時に色を変えられる能力を利用する。たとえば小型のオスは,メスを守っているオスがほかのオスとの戦いに気を取られているすきに,鮮やかな熾烈な色でメスに求愛する。あるいは,岩のような色になって海底の模様に溶け込み,カップルにひそかににじり寄る。この場合,たいていそのオスは,メスのような姿をして近づいていく。そうすれば,カップルのオスに警戒されることなくそばに行けるからだ。こうして近づいたオスは,カップルのオスとメスの間に体を滑り込ませ,メスのすぐそばに陣取ると,鮮やかな色で求愛行動を始める。だがこのオスがそのような色彩をきらめかせるのは,体の一方の側,すなわちメスに向かい合っている側だけだ。ライバルのオスから見える側は,メスのような姿のままにしておくのである。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.192

交尾ができるのは

結局のところ,体が大きく,健康で,立派な武器を備えたオスが,繁殖競争に勝つ。フェニックスパークのダマジカの場合,後尾に成功するのはオス10頭につき1頭に過ぎず,交尾の大半(73パーセント)は,たった3パーセントのオスにより行われている。つまり,90パーセントが失敗し,ごくわずかな個体のみが無数の成功を手にする。このように交尾には極端な格差があり,それが強い性淘汰をもたらし,体の大型化,体力の強化,武器の巨大化へと進化を進める。最高の条件のオスにしてみれば,立派な武器にエネルギーを費やすことで得られる繁殖の利益は,すべてのコストを補って余りあるものだろう。しかしそれ以外のオスにしてみれば,巨大な武器は大きな犠牲を強いるものでしかない。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.154

資源配分のトレードオフ

武器は大きくなるにつれ,負担にもなる。私の実験でも,きわめて長い角を身につけたオスは,目が発育不全を起こしていた。実験の末期には,角の長い個体を選別した個体群のオスは,角の短い個体を選別した個体群のオスより,目が30パーセント小さくなっていた。発育不全は,栄養の利用が制限されるために起こる。組織を成長させるには,エネルギーや原材料がいる。ある組織の成長に大量の資源を割り当ててしまえば,それだけほかの組織の成長に資源が行き渡らなくなる。
 このように資源配分にはトレードオフの関係がある。これは,あらゆる生物の成長に見られるが,ほとんどの場合その効果は微々たるものである。しかし,特定の組織にあまりに多くの資源を費やすようになると,トレードオフの効果がはっきり現れる。武器は,軍拡競争に入ると急速に大きくなる。武器の成長に多くの資源が割かれれば,体の機能を大幅に損なうことにもなりかねない。昆虫の場合,それが体のほかの部分の発育不全となって現れる場合がある。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.142-143

巨大哺乳類の時代

6500万年前に恐竜が絶滅すると,哺乳類が地上を支配した。とりわけ繁栄したのが,有蹄動物である。ひづめを持つ草食動物は多様化し,グループの規模を拡大し,近縁の系統のクレードに枝分かれしては,やがて消えていった。その歴史には,巨大な武器を持つクレードが満ちあふれている。
 ブロントテリウムも当初は現代のコヨーテほどの大きさしかなかったが,瞬く間に,肩までの高さが2メートル以上,重さが9トンを超える巨体に進化した。最初は武器を持たなかったが,後になると鼻の上に,長さ60センチメートル以上になる幅が広くて平らな骨質の角を持つに至った。サイも,最初はイヌ並みの大きさで角もなかったが,後に多様化し,13トンの体と立派な武器を備える巨大生物へと変わった。たとえばケブカサイは,2メートル近い長さの角を持っていた。サイは,全盛期には世界に50種以上が生息していたが,ほとんどが絶滅した。現在は4種が生き残るのみである。
 同じころ,鼻の長い有蹄動物も多様化した。初期のゾウはやはり小さく,武器を持っていないが,間もなく150種以上に分かれた。ゾウが具えた牙には,下あごから90センチメートルもの門歯が平らな刃のように前に突き出した“シャベル型”,下あごから下へ湾曲して伸びる“くわ型”,マストドンや現代のゾウに見られる“上あご型”,上あごに2本,下あごに2本の牙を備えた“4本型”などがある。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.130-131

オスとメスの不均衡

こうしたオスとメスの配偶子の大きさの違いは,生物の生態に多大な影響を及ぼす。第1に,メスはオスほど多く配偶子を作ることができない。卵1つを生み出す材料があれば,オスは何兆という精子を生み出せる。しかも,それぞれのオスが同様に膨大な量の精子を生み出すため,その数字はどんどんふくらんでいく。人間の女性が一生のうちに生み出す生殖可能な卵は,400個ほどでしかない。対照的に男性は,毎日1億もの精子を量産する。一生では,ゆうに4兆を超える。仮に世界の人口が1000人だった場合,精子は卵より1000兆ほど多いことになる。現在の人口で計算すれば,10の24乗分も精子のほうが多い。これは,生物界全体を見れば,決して極端な例ではない。事実上どの生物種でも,卵がまるで足りない。その結果,争いが起こる。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.76

武器が大きくなる理由

これら待ち伏せ型および忍び寄り型の捕食動物が狩りに成功するかどうかは,武器を素早く繰り出し,即座に獲物の行動能力を奪えるかどうかにかかっている。つまり速さが重要になるが,狩りの成否を決めるのは,動物全体の移動速度ではない。大切なのは,付属器官を動かす速度,すなわち,武器をどれだけ速く動かせるか,である。この場合,たいていは武器が大きいほうが都合がいい。あごなど,獲物を捕まえる武器が長ければ,それだけ遠くの獲物を狙うことができる。武器が大きければ,より多くの反動エネルギーを蓄えられる分厚く頑丈な骨格要素や,より大きく俊敏な筋肉を内部に収容できる。また,武器の端についている鉤や爪は,関節から離れていればいるほど,動きが速くなる。つまり武器は長いほうが,空気や水を切り裂く速度が大きくなる。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.63

待ち伏せ型の武器の巨大化

カマキリも,ほとんどの種が待ち伏せ型である。長い湾曲したトゲの生えた超大型の前肢を持っているのはそのためだ。「拝み虫」とも呼ばれるが,これはカマキリが,顔の前に大きな前肢を掲げる習性があることに由来する。その姿が,拝んでいる人に似ているのである。捕食用の長い前肢はバネ仕掛けのような構造になっており,この拝むような姿勢というのは,いわば拳銃の撃鉄を引いた状態にたとえることができる。そこへ獲物がふらふら近づいてくると,トゲつきの肢を瞬時に突き出し,獲物を捕まえる。
 カマキリの初期種はもっと痩せており,地面をはい回って獲物を追いかけることもあれば,草に隠れて獲物を待ち伏せすることもあった。その前肢はやや大きめで,見つけたクモや昆虫を素早く捕まえるのに便利だった。だが次第にカマキリは,この祖先から待ち伏せ型へと特化していく。移動能力を高める淘汰の力は弱まり,より遠くの獲物も捕らえられるように,前肢がどんどん大きくなっていった。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.59-60

待ち伏せ型の巨大化

獲物が近くに来るのをじっと待つタイプ,いわば待ち伏せ型の捕食動物は,ほかの捕食動物よりもはるかに巨大な武器を持つ方向へ進化する。たとえばサーベルタイガーは,待ち伏せ型の捕食動物である。木の枝から飛び降りて,無防備な獲物の首に犬歯を突き刺す。このタイプの捕食動物は,ピラニア同様,もはや獲物を追いかけて捕まえることをしない。そのため,たいていは速く走ったり泳いだりしない。その代わり,草陰に隠れるハンターのように風景に溶け込み,じっとしたまま,獲物が近くに来るのを待つ。そして不幸な獲物が通りかかったら,隠れ場所から突進し,あごで噛み付いたり肢で殴りつけたりして攻撃し,瞬時にしてその行動能力を奪ってしまう。相手は,何が起きているのかさえ分からず,逃げる暇もない。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.59

特殊化による繁栄

肉食哺乳類は,歯をいくつかのグループに分け,その形や機能を個別に進化させることで,それぞれ特殊化し,信じられないほどの繁栄を生み出した。しかし,この解決法は完璧とはほど遠い。トレードオフ問題がもたらす根本的な制約は,何ら解決されていない。いくら歯を別々に進化させたとはいえ,犬歯,小臼歯,臼歯は同じあごに並んで生えている。これはいわば,スイス・アーミーナイフに含まれるすべての道具を出しているようなものだ。そのため,噛む時には注意してそれぞれの歯の機能を利用しなければならない。骨はドーム型の臼歯で,健や肉は鋭い歯を持つ小臼歯で噛み,犬歯は使わないようにするのである。
 フランス料理のレストランで極上のステーキを食べるのであれば,このように注意深く咀嚼するのも,一種のぜいたくと思えるかもしれない。だが野生の肉食動物に,そんな余裕があるはずがない。ほかの肉食動物が,獲物をかすめ取ろうと絶えず狙っている。できるだけ速く,肉を切り裂き,骨を砕いて食べなければならない。それほど慌てていれば,間違いは起こる。歯が摩耗することもあれば,歯が折れることもある。実際,現生および絶滅肉食動物を調査してみると,歯の自然損傷の割合は驚くほど高い。およそ4本に1本の割合で,割れたり折れたり砕けたりしている。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.49

サーベルタイガー

巨大な牙を持つ肉食動物は,進化できなかった,あるいは進化しなかったために絶滅した。現代の肉食動物の歯が小さいのは,異様なほど大きな牙を持つ個体が,獲物を捕らえるのに苦労したからだろう。歯が大きくなれば,ほかの体の構造を犠牲にしなければならない。つまり,相反する淘汰の力のバランスが問題となる。武器が大きければ,獲物を殺すのには都合がいいが,獲物を捕らえる行動の妨げにもなる。捕食動物の個体群には,異様に大きな武器を持った個体が時々現れる。だが,獲物を捕らえるといった重要な場で行動が制限され,結局生存競争に負け,やがては消えていく可能性が高い。
 サーベルタイガーは典型的な事例である。犬歯の進化がこうした極端なレベルにまで進んだ例を見ると,いずれの場合も犬歯の拡大に合わせ,あごや頭蓋骨の形が大きく変化している。あごの関節を修正しなければ,あごを大きく広げることができない。また,獲物ののどや首に歯を深く食い込ませるためには,頭をかなり後ろに下げなければならない。そのため,サーベルタイガーは速く走れなかった。その動きは,きわめてぎこちなかったに違いない。結局,スピードに頼って獲物を狩る肉食動物に,それほど巨大な武器が現れることは二度となかった。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.45-47

肉食動物へ

時代が下ると,歯はますます特定の用途に適したものに進化していく。それとともに,肉食動物の種が増えるにつれ,重視される用途にも違いが生まれるようになった。さまざまな種がそれぞれ,狙う動物の範囲を狭めていったため,歯に対する要求も,種ごとに変化し始めたのだ。こうして肉食動物の歯は,獲物の種類や狩猟方法に合わせ,それぞれ異なる方向へ進化していった。中には,雑食に適した歯の形を保持したままの種もいたが,多くは,オオカミ,ハイエナ,ネコ,サーベルタイガーなど,肉のみを食べる本当の意味での肉食動物へと多様化していった。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.41-42

迷彩服の進化

ネズミは,風景に溶け込んでいない個体を狙うフクロウに対抗するため,望みうる最高の擬装を行う方向へ進化を遂げた。理想的には,この迷彩服を選別するプロセスも,このネズミの場合と同じように展開されていくはずだった。ところが残念なことに,このプロセスに大量生産という政治的・経済的問題が紛れ込んだ。アメリカ陸軍は,複数の迷彩服を選んで環境により使い分けるということをせず,たった1つの迷彩服のみを選んだ。それがユニバーサル・カムフラージュ・パターン(UCP)である。
 迷彩服を統一することで,生産や配布といった物流上の問題は解決できたかもしれない。しかしそのせいで兵士は,環境によってはかえって目立ってしまうことになった。ネズミは問題を解決するために,1種類だけではなく2種類の色を選択した。戦闘はさまざまな環境で起こる。1種類の迷彩服ですべての環境に溶け込むことなどできないのである。
 間もなく,現場の兵士が不満を訴えるようになった。2009年になると,UCPがアフガニスタンではひどく役に立たないことが,誰の目にも明らかになった。そこで陸軍は急遽,新たな迷彩服の開発を行い,アフガニスタンに展開している兵士に対し,2010年から,“不朽の自由作戦カムフラージュ・パターン”(OCP)の迷彩服の支給を始めた。ちなみに特殊部隊の兵士は,こうした大量生産に絡む制約を全く受けていない。各環境に合致した多彩な迷彩服を採用し,作戦によって使い分けている。外国の軍隊も,迷彩模様を選択する際に,発見されやすいかどうか高度なテストを行っている。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.27-28

リスクが大きい

体というものは普通,何年もかけて大人の大きさに成長していく。だが枝角は,個体の大きさにかかわらず,全く何もない状態から最大サイズになるまでに,ほんの数か月しかかからない。どんな動物のどんな骨よりも速く成長する。そのため,エネルギーコストもそれだけ多くかかる。近縁種のダマジカの場合,枝角が成長している間は,通常の二倍以上のエネルギーが必要になると推測されている。さらに,枝角を成長させるためには,骨を構成するミネラル(カルシウムやリン)が大量に必要になる。だが,食料からだけではそれをまかなえないため,ほかの骨から必要なミネラルを奪い,枝角に送る。その結果,アメリカアカシカは毎年この時期になると,骨粗鬆症になってしまう。発情期を迎え,メスをめぐって360キログラムものライバルと絶え間なく戦わなければならないまさにその時に,骨が弱く,もろくなってしまうのである。オスは,発情期が終わるまでの間,頻繁に激しい戦いを繰り返し,体重の四分の一を失う。こうして,もろい骨のまま,飢え,ぼろぼろになりながら,この季節をやり過ごす。そして冬になるまでのわずか数週間のうちに,組織や体力を回復していく。それができなければ,飢え死にするしかない。

ダグラス・J・エムレン 山田美明(訳) (2015). 動物たちの武器:闘いは進化する エクスナレッジ pp.12-14

クローン・ペット

2004年以来,ジェネティック・セイビングズ・アンド・クローン社のような企業が,ペットのクローンづくりを試み,数匹のクローン・ネコを作りだした。リトル・ニッキーは,飼い猫をなくしたテキサスの女性のために同社が作った最初のクローン・ネコで,費用は5万ドルだった。バイオアーツ・インターナショナル社は,社長の愛犬ミッシーのクローンづくりに成功した。しかし,商業的な取り組みの大半は,現在ストップしている。それは,失敗する確率が高く,無事誕生しても,早すぎる死や,愛するペットに外見も行動も似ていないことに,依頼主が不満を抱いたからだ。
 たとえば,87回の失敗の末に,2002年に誕生した最初のクローン・ネコCC(カーボン紙によるコピーの略)は,白地に灰色の縞模様の斑がある可愛いネコだったが,残念ながら,オリジナルのネコ,レインボーとは少しも似ていなかった。レインボーは,三毛猫だったのだ。三毛猫の茶と黒の色を決める遺伝子は,それぞれX染色体上にある。その発現の仕方がランダムなので,X染色体を2本ずつ持つメスは三毛猫になる(オスはX染色体を1本しか持たないので三毛にはならない)。X染色体が発現するかどうかは,エピジェネティックな作用(刷り込み)によるものなので,クローン——DNAの塩基配列が同一——であっても,模様の出方はそれぞれ異なるのだ。またCCの性格は,レインボーとは非常に異なっていたし,他にも目に見えない違いが数多くあると推測された。

ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.342-343

祖父母のふるまいが影響

本章の重要なメッセージは,両親や祖父母の環境や行いは,さまざまな形でわたしたちに影響するということだ。たとえば,体や脳の発達を変化させたり,糖尿病になるリスクを高くしたり低くしたりするのである。そうした環境のストレスは,エピジェネティックに,いわゆる「やわらかな遺伝子」によってわたしたちに伝えられる。病気や死亡の原因となるライフスタイルや環境の危険因子を特定するのが難しいのは,わたしたちが間違った場所を間違ったタイミングで見ているからなのかもしれない。アンケート用紙は100年前の祖父母にあてて送るべきだったのだ。

ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.195

人間に備わった特性

マラソンの世界記録保持者にして,おそらく史上最速の長距離ランナー,ハイレ・ゲブレセラシェは,ケニア人ではなくエチオピア人だった。彼も5歳の時から走って通学したが,肌の色は別として遺伝子の構成は,エチオピア人の大半がそうであるように,ケニア人よりヨーロッパ人に近い。わたしたちは,肌の色で身体能力や知的能力を予測しがちだが,驚くべきことに,肌の色はわずか数個の遺伝子で決まり,その下にある2万5000個の遺伝子についてはほとんど何も語らない。実際のところ,アフリカのごく狭い地域に欧州全体をしのぐ遺伝的多様性が見られるのだ。
 人間の走る能力は,遺伝的な差が大きいとする見方自体,怪しくなってきた。600万年前に人類が他の霊長類から分岐したのは,2本足で長距離を走る必要があったからだという仮説が,現在注目を集めている。長距離を走ったのは,日差しの照りつける広大な平原で捕食者から逃げ,また,獲物を捕らえるためだった。短距離を競えば,人間は大半の動物に負けるが,人間は馬に勝てるし,実際,勝っている。こうしたことは,走るという能力が,ごく限られた人に与えられた稀な才能ではなく,本来人間に備わっている特性だということを示している。

ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.81-82

刷り込み遺伝子

最近まで,こうしたエピジェネティックな変化は,限られた遺伝子——刷り込み遺伝子(父親か母親のどちらか一方から受けついだ場合のみ発現する遺伝子)——だけに起きると考えられていた。刷り込み遺伝子は,人間よりマウスに多く見られる。わたしたちはすべての遺伝子のコピーを両親からひとつずつ,合わせてふたつ受け継いでいることを思い出してほしい。そしてほとんどの動物の胎児が育つ過程では,父親の遺伝子と母親の遺伝子の熾烈な戦いが繰り広げられている。父親の遺伝子は,母親を犠牲にしても胎児を大きく成長させ,その生存の可能性を高めようとする。一方,母親の遺伝子は,自らの資源を保存して長生きし,さらに多くの子を生もうとする。マウスでは,通常,母親の遺伝子が勝利を収める。母親由来の数百個の遺伝子が,刷り込みによって父親の遺伝子を抑制し,胎児を母体にとって望ましい大きさに保つのだ。
 人間にはこうした刷り込み遺伝子が100個以上あり,胎児の大きさや発達に関して重要な役割を担っている。これらの刷り込み遺伝子は重要な役割を果たしているが,現在では,それ以外の2万5000個の遺伝子もまた,エピジェネティックな影響を受けている可能性があることがわかっている。

ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.37-38

メチル化

メチル化とは,細胞内を漂っているメチル基(Me)がDNAの特定の場所(通常はシトシン塩基)にくっつくことを言う。ちょうどキュウリのスティックに薄切りのオリーブを載せるような感じだ。メチル化した遺伝子はタンパク質を作れなくなる(これを「不活性化する」,あるいは「スイッチをオフにする」と言う)。通常,メチル化は遺伝子の働きや「発現」を抑制し,非メチル化(メチル化していた遺伝子からメチル基が外れること)は,遺伝子のスイッチを再びオンにする。非メチル化した遺伝子は発現し,再びタンパク質を作るようになる。突然変異と違って,メチル化・非メチル化は元に戻すことができるが,長期間にわたって続く場合もある。

ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.33

見つかっても影響は

病気についてはどうだろう。ここ数年の間に,100を超す一般的な病気について,関わりのある遺伝子が1000個以上も発見された。失明につながる黄斑変性や,男性を悩ませる若ハゲなどに深く関わっている遺伝子も見つかった(因みにわたしのチームは,ハゲの原因遺伝子の発見に貢献した)。そして今では,どちらの「病気」についても,自分のリスクが高いかどうかを,DNA検査によってかなり正確に予測できるようになったのだ。ほんの数年でずいぶん多くの進歩が成し遂げられた。
 しかし,このように数々の成功例がある一方で,これまでのパラダイムが間違っていることを示す兆候が,ぽつぽつと現れてきた。たとえば,一般的な病気の原因遺伝子が次々に発見されたことは生物学的には興味深かったが,研究が進むにつれて,それらの遺伝子の影響はごくわずかだということがわかってきたのだ。肥満について言えば,関係のある遺伝子が30個ほど発見されたが,全部合わせても肥満の原因に占める割合はわずか2パーセントだった。

ティム・スペクター 野中香方子(訳) (2014). 双子の遺伝子:「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける ダイヤモンド社 pp.12-13

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