I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「医療・医学・薬学」の記事一覧

「投げ落とす」

ひどい背骨の湾曲に対するギリシア人の治療法——高い建物から患者を投げ落とす——は,ヒポクラテスの目から見てもさすがにちょっと直截的すぎたかもしれない。

 はしごに布を当て……患者をその上に寝かせ……腕と手を縛りつける……はしごを高い塔か家の屋根の端まで運び上げ……落としなさい。

 この極端な治療法についてヒポクラテスは「はしごでまっすぐになった患者などひとりもいない……こんな方法をとる医者は……みんな大馬鹿だ」と書いている。

ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.17-18

専門医

王族など一部のエリートは「肛門の保護者」や「腹部の医師」などと呼ばれる専門医をかかえていたが,そうした人々にとってさえ古代エジプトで生きるには多くの困難があり,あまり長生きはできなかった。バビロニア同様,ここでも医師にできることはあまりなかった。せめてもの慰めは癌で苦しむ人が少なかったことだが,これも癌にかかる年齢まで生きる人が少なかったからにすぎない。

ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.13

四体液説

とはいえ,偉大なるヒポクラテスも大きな間違いを犯すことがあった。何より重大な間違いは,病気は「四体液(血液,黒胆汁,黄胆汁,粘液)」のバランスが崩れることで起こると信じていたことで,この説は19世紀にいたるまで医師とその患者につきまとうことになる。

ネイサン・ベロフスキー 伊藤はるみ(訳) (2014). 「最悪」の医療の歴史 原書房 pp.9-10

GIGO

コンピュータはとにかく計算が速い。しかも誠実だ。疲れ知らずで,感情的にもならないし,途中で分析方法を変えたりもしない。
 しかし,だからといってコンピュータが完璧な予測をするということにはならない。人間より正確に予測ができるかどうかもわからない。GIGO(garbage in, garbage out=ゴミを入れればゴミしか出てこない)という単語がこの問題を要約している。お粗末なデータをコンピュータに入力したり,意味のない指示を入れたところで,いい結果は出ない。わらを紡いでも金にならないのと同じである。また,コンピュータは戦略を練ったり,世界がどう動くかについての理論を構築するといった,創造性や想像力を必要とするタスクを得意としない。

ネイト・シルバー 川添節子(訳) (2013). シグナル&ノイズ:天才データアナリストの「予測学」 日経BP社 pp.316

心臓疾患とベイズ

フラミンガム心臓研究のような長期にわたる研究は,さまざまな変数が発病リスクに単一ないしは合同で及ぼす影響を調べるように設計される。従来疫学者たちは,結果として得られる多重クロス分類のアレイを念入りに調べて——コーンフィールドによれば「熟慮して」——データを検討してきた。たとえば,3つのリスク因子がそれぞれ「低い」,「中程度」,「高い」の3つのいずれかに人々を分類する場合には3×3のシンプルなマス目ができる。ところが変数の数が増えて,しかもそれらの単独の影響だけでなく複合的な影響も考えるとなると,「熟慮」すべきマス目の数はすぐにふくれあがって手に負えなくなる。10のリスク因子をそれぞれ「低い」,「中程度」,「高い」のレベルに分けて行うクロス分類の研究では,検討すべきマス目の数は5万9049[3の10乗]個になる。そこで1つのマス目に10名の患者をあてるとすると,フラミンガムの全人口を上回る60万人の群(コホート)が必要になる。
 ここでコーンフィールドは,「単純な調査ではなく,より探究的な形の分析」が必要だということに気がついた。それには,観察したことを要約するための数理モデルを開発しなくてはならない。そこでコーンフィールドは,心臓血管疾患による死亡率を事前の知識としてベイズの法則を使うことにした。フラミンガムの研究からは心臓疾患で死んだ人とそうでない人の2つのグループに関するデータが得られていた。各グループの,7つのリスク因子に関する情報が手に入っていたのだ。そこでベイズの法則を使って計算したところ,ロジスティック回帰関数の形をした事後確率が得られたので,それを使って心臓血管の疾患のもっとも重要な4つのリスク因子を突き止めた。それによると,年齢そのものはさておき,問題なのはコレステロールと喫煙と心臓の異常,そして血圧だった。

シャロン・バーチュ・マグレイン 冨永星(訳) (2013). 異端の統計学 ベイズ 草思社 pp.215-216

タバコとベイズ

1950年代の半ばに,イギリスとアメリカにおける2つの壮大な取り組みによって,コーンフィールドの見解が裏付けられた。過去を振り返る形の研究(遡及研究)で得た成果が多くの人に退けられるのを見たヒルとドールが,今度は直接的なアプローチとして,将来に向けての追跡研究(前向き研究)を行ったのである。2人はイギリスの4万人の意志に現在の喫煙癖について質問し,その後5年間追跡を続けて,誰が肺がんになったのかを調べた。これと平行してアメリカでは,E・カイラー・ハモンドとダニエル・ホーンが3年半以上にわたって,ニューヨーク州の50歳から69歳までの18万7783人の男性の追跡調査をした。どちらの国でも,死亡率は同じようなものだった。ヘビースモーカーが肺がんになる可能性は,喫煙しない人に比べて22倍から24倍にのぼり,しかももう1つ意外なことに,心臓や循環器系の病気になる可能性も42パーセントから57パーセントほど高かった。さらに,パイプより紙巻たばこのほうが危険だが,紙巻たばこの喫煙をやめればリスクは下がるということがわかった。
 これに対して,反ベイズ派のフィッシャーやネイマンは,たばこが肺がんの原因であるという研究結果を受け入れることができなかった。この2人はヘビースモーカーで,フィッシャーはタバコ会社のコンサルタントとして謝礼をもらっていた。だがそれよりも大きかったのは,2人そろって,疫学的な研究には説得力がないと考えていたことだった。たばことがんに関係があるからといって原因であるとは限らない,と言われれば,たしかにそれはその通り。2人は1955年にそろって激しい反撃を開始した。今後の疾病率を予測するには,厳密に管理された実験室での実験で得られたデータや実地の実験が必要だ,というのがその主張だった。さらにこの反撃に,当時全米でもっとも有名だったミネソタ州ロチェスターのメイヨー・クリニックの医療統計学者ジョセフ・パークソンが加わった。たばこががんと心臓疾患の両方を引き起こすとは思えなかったのである。

シャロン・バーチュ・マグレイン 冨永星(訳) (2013). 異端の統計学 ベイズ 草思社 pp.210-211

有害な場合も

診断検査も,役に立たないどころか,有害な場合さえある。最近では,前立腺がんの検診がその例である。PSA測定法による検査が広く行なわれるようになったが,この検査では,ほとんど進行していない多くの腫瘍が発見される。そういう事情で,1975年から95年の間に,前立腺がんの件数は3倍に増加した。その結果,多くの手術が行われ,術後に深刻な問題(性機能障害や失禁)を抱える者も現れた。ところが,発見されたこれらの腫瘍の大部分は,進行が非常に遅く,高齢者であれば,手術を実施するかどうかの判断は慎重に行われるべきであることがわかった。つまり,往々にして何もしないほうが良いことがわかったのである。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.187

価値はあるのか

人々が遺伝子検査に大いに期待する一方で,彼らが提案する遺伝子検査は,他の子どもよりも少しだけ自閉症になりやすい子どもを見つけ出すことに,ほんの少し貢献するだけであることを,どのように説明したら,わかってもらえるだろうか。さらにそういう情報は,本当に1000ユーロ以上の価値があるのだろうか。自閉症になるリスクが平均よりも(少しだけ)高いことが検査をしてわかった子どもは,「自閉症予備軍」として,親の心配な眼差しが,これまでの10倍以上も彼らに注がれることになるのではないだろうか。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.184

イカサマ

要するに,宣伝文句の趣旨は,DNA分析ではごく一般的な異常を探し出すことはできるが,自閉症を完全に見つけ出すことはできないので,おもに食餌療法によって自閉症を治そうということだ。これらのすべては,イカサマに近い。両親にとっては多額の出費である。最低価格の治療でも9000ドルであり,多くの検査や,パーソナライズされたと謳う(まったく効果のない)治療を行えば,数万ドルにもなる。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.152

40個以上で5%しか

糖尿病とは別の例を挙げると,大人になったときの身長は,最も遺伝に関係する特徴の1つであり,遺伝率は0.8である。つまり,ある集団における身長の違いの80%は,遺伝子が原因だということだ。ゲノムワイド関連解析を使った,身長の違いに関するさまざまな研究により,現在までに身長に影響をおよぼす遺伝子が,40個以上も見つかった。ところが,これらすべての遺伝子によっても,身長に関する遺伝率の5%しか説明できない。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.118

遺伝率低い

したがって2000年初頭に,詳細かつ完全な「ゲノムスキャン」ができる技術が開発されると,医学界は大きな期待を抱いた。(2型糖尿病の場合を再び例にとると)10個から20個の遺伝子が発見され,それらの個々の遺伝子の影響を足したものが,観察される遺伝率であり,そうした発見によって,信頼性の高い早期診断検査が可能になると同時に,病気の原因の理解も深まるので,より効果的な治療法が見つかるはずだと期待された。ところが,変異があると糖尿病のリスクが高まる18個の遺伝子が,再現可能かつ確実に見つかったにもかかわらず,それらの個々の遺伝子の影響はきわめて弱く,全部の遺伝子を足しても,遺伝率の10分の1しか説明できなかった。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.117-118

自閉症遺伝子が見つかったとして?

遺伝子分析によって,糖尿病になるリスクが高いことがわかった子どもの家族は,食生活や体重に気をつかうように指導されるだろう。糖尿病の初期症状が見られるようであれば,血糖値を定期的に計測することになるかもしれない。だが,そのような対応により,その子どもと家族の関係が根本的に変化することはなく,良心の不安な眼差しが,子どもの重荷になることもないだろう。
 糖尿病の場合と異なり,すでに自閉症の子どもを抱え,大変な生活をしている家族にとって,遺伝子検査を受けた弟が自閉症になるリスクが(たとえば)35%であることがわかった場合,家族はその子も自閉症として扱うことになるのではないか。自閉症には,血糖値のように客観的に証明できる基準がないため,その子は予防措置として治療を受けることになるが,そうなれば,その子は必然的に同年齢の集団から隔離されることになるだろう。イェルク・ハーガーは,「行動療法が子どもに悪影響をおよぼすことはない」と私に請け合った。私は,この見解に同意できない。たしかに,(他の治療法と比較して)行動療法が有害であるとは思わないが,その子が65%の確率で自閉症ではないのに,集中的な治療を受ければ,何らかの影響はあるだろう。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.107-108

パッキング?

パッキングは,フランスで一部の医療グループが実践している治療法である。これは,少なくとも1時間ほど冷蔵庫で冷やした湿った布で,自閉症の子どもを包むというものである。治療者は実施中に,冷えたシーツに身体を包まれた患者に,自分の肉体の限界を意識するよう話しかける。この治療法は,自傷行為に走る傾向のこどもに効果があるというが,その科学的根拠は一切なく,臨床研究だけが頼りである。にもかかわらず,フランスでは,パッキングにかなりの支持がある。病院で働く者の中にも支持者が多く,たとえば精神医学者のピエール・デリオンは,パッキングをテーマとする「養成講座」の主催者を務めている。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.71

単一ではない

自閉症が単一遺伝子疾患でないのは明らかである。なぜなら,家族内における遺伝がメンデルの法則に従わないからである。研究者の予測では,自閉症にはおもに3つの遺伝子が関与しているのではないか,と考えられてきた。もしそうであるなら,1990年代後半に開発された分析手法を用いて,3つの遺伝子それぞれが,はっきり確認できる大きな影響力をもつことが判明するはずだった。
 ところが現実には,そうはならなかった。自閉症患者が子どもをもつことはあまりないため,遺伝的研究には限界がある。つまり,世代を超えて遺伝すると思われる家族の,家系図を用いた直接的な研究ができないのだ。そこで,間接的であまり有効でない手法による研究を行うことになる。すなわち,子どもが2人とも自閉症であるような,いわゆる「自閉症多発型家族」を対象とする研究に専念することになる(しかし自閉症の子どもをもつ親は,もう1人子どもをつくることを断念することが多いので,そのような家族は稀である)。そして,染色体のどの特定領域が,両親から子どもに受け継がれたのかを調べる。複数の家族員に同じ領域が見つかるなら,それらの領域には原因遺伝子があり,それらのある種のバージョンが発病を促すのではないかと推論できる。その推論に基づき,DNAのそれらの領域を丹念に調べ,そこに含まれる遺伝子の一覧表をつくり,それらのうちどの遺伝子が自閉症の子どもの場合では異なっているのかを,見つけ出せばよい。
 これとは別に,「候補遺伝子」という方法もある。それは,自閉症に関わると思われる遺伝子の中から,事前にいくつかの遺伝子を選んで調べる方法だ。つまり,神経細胞の接続および脳の代謝において重要な役割を担う数百個の遺伝子を調べるのだ……。そこで自閉症の子どもと正常な子どもを対象にして,遺伝子の変異の分布を調べる。特別な変異が,正常な子どもよりも自閉症のこどもに,きわめて頻繁に見つかるとすれば,自閉症の原因に関する手がかりが見つかるかもしれない。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.62-63

記録から完全に消す

1998年,査読制の医学雑誌『ランセット』に掲載された論文は,ワクチン的には科学的裏付けがあると主張した。その論文は,新三種混合ワクチン(MMRワクチン)の予防接種と自閉症との関連を示唆したのである。調合物に含まれるワクチン株の影響により,腸に炎症が生じ,そこから神経に有毒な物質が血液に流れ込んで,神経系の発達が止まると説明していた。しかし,その後の多くの研究により,この論文の内容は否定された。そして主要執筆者のアンドリュー・ウェイクフィールドは,競合するワクチンの特許をもっていたことが明らかになり,さらには自身の研究データを改ざんしていたことも判明した。最終的には,2004年に13人の執筆者のうち10人がこの論文を撤回し,「論文の内容の一部は(……)誤りであった」と認めた。2010年に『ランセット』は,この論文を「記録から完全に消す」ことを決めた。

ベルトラン・ジョルダン 林昌宏(訳) (2013). 自閉症遺伝子:見つからない遺伝子をめぐって 中央公論新社 pp.59

自己診断の危険性

つぎに述べるような自己診断のリスクはめったにないが,かなり有害になる恐れがある。一部の人々で,情報の追求が一種の心気症をもたらすことがある。覚えておいてもらいたいのだが,精神障害の各症状はごくありふれていて,生きていれば避けられない。不安,抑うつ,注意欠陥,記憶喪失,むちゃ食いなどの症状がたまに顔をのぞかせることはだれにでもある(ほかにもそういう症状は何十もある)。しかし,ほとんどの人は精神疾患ではない。本に載っているすべての疾患を自分が患っているように思えるなら,逆にどの疾患にもいっさいかかっていなくてマニュアルの読み過ぎである可能性のほうがずっと高い。
 最後に,生半可な知識は危険になりうる。自分自身だけでなく,家族,友人,とりわけ上司にまでレッテルを貼るのは楽しいかもしれない。特に争いのさなかでは,それは卑劣な攻撃に繋がりやすい。ダーツのように診断を投げつければ相手は傷つくし,偽の情報が偽の情報を呼ぶという悪循環が生じかねない。しかし,大多数の人々にとっては,自己診断の利益はリスクをはるかにうわまわる。

アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.358-359

確認すべきポイント

たしかめるべきおもな点は,あなたの症状がその疾患についての記述と一致するかどうか,無視できないほど長く続いているかどうか,著しい苦痛や機能障害をもたらしているかどうか,そして厄介な出来事に対する単なる一時的な反応に思えるのか,それとも日常生活にもっと深く根を張っているのかだ。最後の点については,早急に判断する必要はない。日記をつけ,推移を記録し,成り行きを見守ればいい。特に長引くことなく自然に症状が改善すれば,答はおのずと出ていることになる。しかし,症状がいつまでも残ったり,悪化したり,問題を引き起こし続けるなら,助けを求めなければならない。

アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.349

インフレ状態

診断のインフレを助長するDSMのあいまいな基準は厳格にする必要がある。これは容易ではない——30年かけて積み重なり,DSM-5がさらに悪化させている問題だからだ。しかし,過ちは時とともに正されるものであり,いまこそこれを正さなければならない。現在ある診断の数多くはハードルを変えるべきである。より多くの症状が,より長期にわたって現れ,より大きな機能障害を引き起こしているのを条件にするという具合に。そして,よほど説得力のある理由がないかぎり,新しい診断の追加は見合わせなければならない。

アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.330

コーヒーを飲むのは病気か

われわれはかつて,カフェインへの依存をDSM-IVの正式なカテゴリーに含めるべきかどうかをめぐって,同様の議論をした。カフェインはニコチン並みの依存性があり,中毒を引き起こして,不安障害や心臓の不具合をもたらす恐れがある。われわれがそれを載せなかった理由はただひとつだけである。カフェインへの依存はきわめてありふれているので(それにほとんどは無害なので),6000万の人々に対して毎日起きるたびにこの朝の楽しみは精神疾患なのだと自覚させる意味はないと思えたからだ。このような謙虚で慎重な姿勢を持っていれば,「行為嗜癖」のカテゴリーは不採用になっただろう。どんな利点があったとしても,大々的に誤用される恐れの前ではかすんでしまう。

アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.295-296

早期診断

無理もないことだが,アルツハイマー病の専門家たちは,早期診断を推し進めたがる。診断や治療の手段の開発が遅々として進まないのは,関係者全員にとって不満の種になっている。ほとんどの医師はいまごろには検査室試験が確立されているはずだと予想していて,薬の開発がこれほど失敗していることに深く失望している。軽度神経認知障害は早期発見の可能性に光を当て,この分野に活を入れてくれるという期待を込めて提案された。だがこれは本末転倒にほかならない。人々の生活や国によるかぎられた医療費の配分に大きな影響を及ぼす新しい診断は,確立された科学と包括的な公共政策論議にしたがわなくてはならない——それに先んじるのではなく。

アレン・フランセス 大野裕(監修) 青木創(訳) (2013). <正常>を救え:精神医学を混乱させるDSM-5への警告 講談社 pp.281

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