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I'm Standing on the Shoulders of Giants.

読んだ本から個人的に惹かれた部分を抜き出します。心理学およびその周辺領域を中心としています。 このBlogの主な目的は,自分の勉強と,出典情報付きの情報をネット上に残すことにあります。書誌情報が示されていますので,気になった一節が見つかったら,ぜひ出典元となった書籍をお読みください。

   
カテゴリー「その他心理学」の記事一覧

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近親者と友人

進化論者は,血のつながりのある近親者と血のつながりのない友人とを,理論の上でしっかりと区別している。近親者たちは同じ遺伝子を高い比率で共有しているので,近親者の繁殖の成功に繋がる行動はすべて,間接的に自分自身の適応度を高めることになる。進化生物学者は,これを包括適応度という専門用語で説明している——簡単に言えば,個体が自分の遺伝子を残すことに成功する度合いのことだ。要するに,私が息子の繁殖成功に対して貢献をすれば,それは自分自身のためにもなるわけだ。この包括適応度という考え方によって,ヨーロッパ旅行中,どうして私が元妻(息子の母親ではない)に比べて,息子のティーンエイジャー特有の不満に対してずっと寛容だったかを説明できるだろう。
 一方,友人同士の助け合いは,一般的には互恵的利他行動という言葉で説明される。これは相手が自分のために何かしてくれる限り続く助け合いのことだ。互恵的利他行動は大きな効力をもつルールである——集団のメンバーに1人では不可能なことを成し遂げさせ,状況が厳しいときには,それがあるかないかで生死が分かれることもある。だが,これには包括適応度とは少しばかり違った計算方法が適用される。包括適応度の考え方によれば,私が息子に何かを与えるたびに,自分自身の遺伝子にも何かを与えていることになり,しかも,このつながりは常に存在する。でも,血のつながりのない友人のリッチの場合,これは当てはまらない。だからもし彼と私が,不運なヨーロッパ旅行のときのように,相互の関係から利益が得られなくなってしまうと,結びつきが脅かされることもある。

ダグラス・ケンリック 山形浩生・森本正史(訳) (2014). 野蛮な進化心理学 白揚社 pp. 133-134
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信用と欲情

心理学者のリサ・デブラインは,この問題に違った手法でアプローチしている。彼女はコンピュータのモーフィング・ソフトを使って,見知らぬ人の顔を親族らしく変えてみた(見知らぬ異性の顔と,被験者自身の顔をブレンドしたのだ)。すると被験者たちは,人工的に親族関係を思い起こさせる顔に対して,「信用に値するが,欲情には値しない」と判断した。つまり顔を自分と似せると,信頼できる相手だと思う可能性は高まるが,ゆきずりの性的関係をもつ相手としては見なくなるのである。
 ある水準で考えれば,私たちは近親者にことのほか惹かれてもいいはずだ。なぜなら近親者は,自分とよく似ていたり,自分がよく知っていたりというような,好ましい仲間としての基準の多くを満たしているからだ。だとしたら,なぜ私たちは近親者とのセックスを考えただけで胸くそが悪くなるのか?遺伝的に見れば,その行為は自分のクローンを作ることに限りなく近い。ちょっと考えただけだと,クローニングに近いということは,遺伝子の利益にかなっているように思える。親と子のあいだの遺伝子の重複が最大化するからだ。でも,あまりに同じすぎると失われるものもある。有性生殖の主な利点のひとつは,遺伝子を別の遺伝子とシャッフルできることだ。これをやるからこそ,すごい速度で進化し続けるウイルスやバクテリアなどの寄生者を出し抜ける。だが一親等の血縁者との交配は,シャッフルが不十分なのに加えて,ブリーダーが「近交弱勢」と呼ぶ結果までもたらしてしまう(近交弱勢とは,有害な遺伝病の原因となる劣性遺伝子が結びつく機会が増えることを意味する生物学用語だ)。

ダグラス・ケンリック 山形浩生・森本正史(訳) (2014). 野蛮な進化心理学 白揚社 pp. 131-132

細分化された心

食物嫌悪の研究には,機能的な面でもうひとつ意外な発見があった——吐き気の条件づけは,どんなきっかけでも起こるというわけではない。どんな関連づけを学習するかは,その動物がもつ固有の進化史に左右されるのだ。たとえば,ネズミは視力が弱く,夜に餌をさがすときには味覚や嗅覚に頼っている。だから変な味の食物にはすぐに嫌悪を生じさせても,見た目がおかしな食物には嫌悪を発達させない。また別の研究チームは,うずらの学習パターンがまったく違うことを実証している。この鳥は,食物を味ではなく,鋭敏な視覚を頼りにさがす。よってウズラの嫌悪は,新しい食物の味よりも色に関連づけられやすい。つまり動物は,1つか2つの領域一般生の規則で働く脳をもっているのではなく,細分化された心をもっているのだ。

ダグラス・ケンリック 山形浩生・森本正史(訳) (2014). 野蛮な進化心理学 白揚社 pp. 123

心はぬりえ帳

私はこれまで,空白の石版のかわりに,心をぬりえ帳として考えてみてはどうかと提案してきた。ジュークボックスと同様,ぬりえ帳もインタラクティブなもので,内部にある構造(キリンやシマウマやロケットを区別するべく前もって引かれている輪郭線)と,外部からの入力(クレヨンで巧みに色を塗り分ける若きアーティスト)との相互作用で色が塗られる。しかも,この喩えには他にもちょっとした利点がある。まず第1に,ぬりえ帳のほうが柔軟性が残る余地があるし,予測していなかった結果も出やすい——キリンを塗るのに黄色と茶色ではなく,紫色と緑色を選ぶ子供もいるかもしれないのだ。またこれに加えて,(矛盾しているようだが)柔軟性を残しておける一方で,制約を増やすこともできる。ぬりえ帳にあらかじめ引かれた輪郭線は,外部に対して,ジュークボックスのボタン以上に強力に,特定の入力を要求するからだ(キリンに色を塗る子どもの多くは紫色,青色,緑色ではなく,黄色,茶色,黄褐色をさがすよう促される)。要するに,ぬりえ帳の塗り方は無限だが,実際には各ページごとに輪郭線によって特定の色を使うように強く促されるため,完全に受動とは言えないのだ。
 ぬりえ帳の喩えは,実際の人間の脳をありのまま表現しようとするものではないが,空白の石版というイメージに対する,わかりやすい対比にはなっているはずだ。この対比で,空白の石版というお馴染みの強力な喩えを概念的に拡張して,心と文化の相互作用をもっと鮮明に視覚化できるだろう。実のところ,この喩えは空白の石版に立脚するものだが,心が外部からの入力によって満たされる巨大な空白ばかりでなく,あらかじめ書き込まれた輪郭線ももっていることを想起させるのである。

ダグラス・ケンリック 山形浩生・森本正史(訳) (2014). 野蛮な進化心理学 白揚社 pp. 109-110

好みの年齢

この考えを検証するには,年齢についての好みを違う角度から見る必要があった。それまでの研究は,恋人募集の広告を出した人たちを年齢を問わず一緒くたに扱って,男女の平均年齢の違いを報告しただけのものだった。そこでキーフと私は広告を年齢別に分類し,その結果,男は少し年下の女を,女は少し年上の男を求めるというだけではない,もっと複雑なパターンを明らかにした。驚くべきことに,そのパターンは,男女のそうした行動について社会科学が行っていた標準的な説明とは,根本的に違うものだった。
 女性の好みの年齢については問題がなかった。女性は,いくらか年上の男性を求め,その一般的な傾向は生涯を通じて変わらない。これは研究者たちがそれまで説明してきたとおりだ。この傾向は,意外なことに,対象となる年上の男性が少ない60代の女性でも変わらなかった。
 でも男性の好みは年齢によって劇的に変化していた。たとえば,とくに若い男性たちは,優位に立つために自分より若い女性を求めると社会的には考えられていたが,実際にはそれに反して,幅広い年齢層の女性に興味を抱いていた。標準的な25歳の男性は,年下の20歳と年上の30歳の女性の両方に関心をもっていた。その後の研究で,10代の少年の多くは,自分よりも少しだけ年上——大学生くらいの年齢——の女性に惹かれていることがわかった(同時に彼らは,自分が相手にされないだろうとも考えていた)。しかし年をとるにつれ,好みのパートナーは自分よりも5歳から15歳年下の女性へと移る。55歳ともなると,若い女性に対する欲望はさらに極端になる。この1980年代末の分析では,エルヴィス・プレスリーを聞いて育った世代の男性たちが,U2のライブに向かう少女たちに色目を使っている一方で,同じロカビリー世代の女性たちは,フランク・シナトラ世代から求婚されることを望んでいた。

ダグラス・ケンリック 山形浩生・森本正史(訳) (2014). 野蛮な進化心理学 白揚社 pp. 97-98

偏見の意義

このような偏見にはかつては実用的な意義があった。よそ者は地元の住民に比べて,自分が免疫をもっていない病気を運んでくる可能性が高かったので,見知らぬ人を避けるようにすれば,最新版の天然痘,ペスト,あるいは豚インフルエンザも避けやすいからだ。ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』を読んだ人は,ヨーロッパ人の持ってきた銃よりも,ヨーロッパ人の運んできた病気によって殺されたネイティブ・アメリカンのほうが多いことを知っているだろう。もちろん,進化の末に身についた傾向には常に長所と短所がある。たとえば,私たちの祖先は他の集団と物品を交換し,地元の外に目を向けることで配偶者を見つけることも多かったので,完全な孤立は,危険を避けるばかりでなく機会も失うことになる。そこでマークたちは,病気を忌避するメカニズムは柔軟なものだったはずだと考えた。
 一見して病気にかかっているとわかる人や,疫病が流行っているという知らせは,見知らぬ人を避ける理由としては十分なものだろう。それと同様に,各個人の病気に対する脆弱性もまた,見知らぬ人を避ける理由になるのではないか?そうでなければ,外国人恐怖症は割にあわないとマークたちは考えた。

ダグラス・ケンリック 山形浩生・森本正史(訳) (2014). 野蛮な進化心理学 白揚社 pp. 79-80

殺人妄想

アリゾナ州の学生がとくに暴力的ということでは?たぶんそれはない。デヴィッド・バスとジョッシュ・ダントリーがのちにテキサス大学で学生のサンプルを調べたところ,同じくらい多数の男性(79パーセント)と女性(58パーセント)が殺人妄想を抱いたことがあると認めていた。こうした数字は一見高そうだが,おそらく実際はその反対で,普通の人が殺人妄想を抱いている比率を過小に示していると思う。社会心理学者たちは,人々が発言をするときは,自分が最も社会的に望ましいと思っていることを言おうとするのを何度も確認してきた。また人々が,自分が文句なしのよい子ではないという証拠を選択的に忘れがちだということも示している。自慰に関するキンゼイの有名なレポートでもそうだったが,殺人妄想が実際に行われている比率は,人々が公式に認める水準よりもっと高いと想定しても構わないはずだ。
 私たちの多くが人を殺したいと思っているのはわかったが,ではいったい誰を殺したいと妄想しているのだろうか?男女ともに,殺したい相手は男が多い。事実,男性の殺人妄想の85パーセント,女性の65パーセントは男を殺すものだった。とはいえ,この部分はそんなに驚くものではない。実際の殺人統計を見ても,男性のほうがずっと殺人の被害者になりやすいからだ。

ダグラス・ケンリック 山形浩生・森本正史(訳) (2014). 野蛮な進化心理学 白揚社 pp. 48

ゴルトンと優生学

ゴルトンは,人間の才能がどの程度遺伝に因るのかを明らかにしようとして,その研究生活の早い時期から家系に関する資料を集め,統計学的手法でこれを解明しようとした。しかし,優生学を本格的な学問として展開したのは,晩年になってからである。彼は1901年の人類学会で,「既存の法と感情の下における人種の改良の可能性」という論文を発表し,関係者から好意的な感触を得た。これが自信となり,1904年にロンドンで開かれた第1回イギリス社会学会で「優生学——その定義,展望,目的」という講演を行った。

米本昌平・松原洋子・橳島次郎・市野川容孝 (2000). 優生学と人間社会:生命科学の世紀はどこへ向かうのか 講談社 pp. 14

罰の効果は

スキナーははっきりと罰に対して反対した最初の心理学者の一人なのだが,そうした面はあまり注目を得られていない。自由と尊厳のある生活をするためには,罰を無くせば良い。そして報酬に基づく行動形成をすることによって誰もが尊厳をもって生きていける世界を作るべきだ,というのがスキナーの根本的な思想である。ところが,この考え方に反対する人は多い。何が「良い」行動なのかを誰か特定の人が決めるのがケシカランというのである。しかし,罰においてこそ罰を与える人が基準を決めて罰を与えている。
 実際,罰の効果は無いとほとんど全ての心理学者は主張する。この点で意見を異にする心理学者はいない。罰が問題なのは,罰に効果がないだけでなく,人格的なダメージを与えることにもある。さらに,何が良くない行動であるのかということを罰を与える人が決定している点も問題である。まさに自由と尊厳を脅かす手法なのである。

サトウタツヤ (2015). 心理学の名著30 筑摩書房 pp.34-35

自由意志か

誰でも,自分の人生に関わることは自分で決めていると考えたい。しかしこの信念に確たる根拠はない。それは,進化の過程で形成された心という機械のなかを,幽霊のように漂っている。私は自らの自由意志に従ってこの本を書く決定を下したのではなく,書かざるを得なかった。それと同じく,あなたは自らの自由意志に従って本書を買う決定を下したのではなく,買わざるを得なかったのだ。

エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.469

嘘を見抜くのが下手

なぜ私たちは,嘘を見抜くのがかくも下手なのか?なぜなら,私たちが嘘の徴候だと考えるあらゆる事象は,嘘を発見する能力とはまるで関係がないからである。確たる証拠がないにもかかわらず,態度や話し方によって誰かが嘘をついていると判断した時のことを思い出してみればよい。その際あなたは,落ち着きのない視線,言葉のつまり具合,そわそわした態度,関係のないトピックに話が飛ぶ様子などに基づいて,そのような判断に至ったはずだ。実際には,これらはすべて嘘とは関係がなく,ときに私たちを誤った方向に導く。

エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.258

攻撃性

今日の私たちは,攻撃性を不適応で常軌を逸したものと考えている。暴力犯罪者には,彼らや他の人々が犯罪を繰り返すのを阻止するために重い懲罰が課せられる。したがって犯罪が適応的であるとは,とても言えない。だが,進化心理学者の主張は異なる。攻撃性は,他人から資源をもぎ取るために用いられ,資源は進化というゲームの核をなし,生きるため,子孫を残すため,子どもを養育するために必要なものだ。キャンディを巻き上げるために他の子どもを脅すいじめっ子のいびりから銀行強盗に至るまで,悪行には進化的な起源が存在する。また,防御のために行使される攻撃性は,自分の資源を奪おうとする他人の意図をくじくために重要だ。酒場でのけんかは力と支配の序列の確立に役立ち,目をつけている女性やライバルたちの面前で己の強さを誇示できる。男性にとっての求愛のゲームとは,社会のなかで高い地位を手に入れることでもある。「あいつは攻撃的でけんかっ早い」という評判をとることは,社会的なグループのなかで自己の地位を向上させ,より多くの資源の獲得を可能にするばかりか,他人の攻撃を阻止するのにも役立つ。そしてこれは,遊園地で遊ぶ子どもにも,囚人にも同様に当てはまる。

エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.33

ロンブローゾの理論

ロンブローゾの理論には2つのポイントがある。犯罪の基盤には脳が関係するという点と,犯罪者は進化的な観点から見て,より原始的な種への退行だとする点だ。ロンブローゾの見るところでは,犯罪者は「先祖返り的な刻印」,すなわち大きなあご,傾斜した額,一本の手掌線など,人類進化の初期段階に由来する身体的特徴をもとに特定できた。これらの特徴をもとに,彼はユダヤ人や北部イタリア人を頂点に,また,(ビレラが属する)南部イタリア人,ボリビア人,ペルー人を底辺に置く進化的な序列を措定した。おそらくその見方には,農業中心の貧しい南部イタリアでは犯罪発生率が北部よりはるかに高かったという当時の事情も関係しているのだろう。それは,統一されたばかりのイタリアを悩ます「南部問題」の数ある徴候のうちの1つだった。

エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.29

準備時間2分

この「2分」という統計値を聞いた時には驚いたが,大きな大学の神経学部門のトップとして多くの大学院生とポスドクを抱える自分の経験に照らしてみると,たしかにその通りだと思えた。おそらくどこの職場でも,同僚やスタッフとの打ち合わせのための「リハーサル」や計画に,多くの時間が費やされることはないだろう。しかし,そのような個人どうしの直接的な関わりは,組織を成功に導く上で重要なはたらきをするはずだ。また,これらの打ち合わせで与えた印象が,あなたのキャリアの方向を決めることだってある。だからこそ,ごく個人的な打ち合わせであっても,事前に計画すること,少なくとも,たった数分ではなくもっと時間をかけて計画し,相手の反応を予測することが重要なのだ。
 心の中で,言いたいことを想定し,相手の反応も予測しておく。今のあなたにとって,その相手は10代の息子や娘だ。肯定的な反応と,否定的な反応の両方を予測し,それぞれのケースで,次に何を言うかを決めておくのだ。あなたがイライラしているように見えたり,頭が混乱しているように見えたりしたら,相手はあなたを信頼しないだろう。同僚や従業員であれ,10代の息子や娘であれ,それは同じだ。

フランシス・ジェンセン エイミー・エリス・ナット 渡辺久子(訳) (2015). 10代の脳:反抗期と思春期の子どもにどう対処するか 文藝春秋 pp. 19-20
(Jensen, F. E. & Nutt, A. E. (2015). The teenage brain: A neuroscientist’s survival guide to raising adolescents and young adults. New York: Harper.)

信憑性構造

社会学者はときおり,突飛な宗教的あるいは政治的教義が道理にかなったものであるように見せかけるための社会的支援ネットワークのことを「信憑性構造」と呼ぶことがある。一般的に言って,通念から逸脱している度合いが高ければ高いほど,そのような支援はより多く必要になる。緑色のクラゲを崇拝する人々が,その信仰を守りつづけるチャンスを手にしたいなら,信者は固く結束する必要があるのだ。
 これと似たようなことは,常軌を逸したポルノにも言える。インターネットが到来する前,異常な性的嗜好を持つ人たちは,満足できる素材探しに苦労していた。だが今では,どれほど変わったフェティシズムだろうと,欲情を刺激するイメージ——さらには自分の性的嗜好を共有する人たち——を探すことは可能だ。

デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 292

報酬と障害

ゲームがプレイヤーをハマらせるために使う手段は,報酬だけではない。障害,つまり”フラストレーション”も利用する。単純なゲームから複雑なゲームまで,あらゆるゲームには,慎重に仕組まれたフラストレーションが含まれている。たとえばときおり,あるレベルをクリアすると急にゲームがむずかしくなることがあるが,そういった障害は金を出せば切り抜けられるようにできていることが多い——アプリ内の課金手段を使い”パワーパック”を購入することなどによって(純粋主義者たちがこうした近道を見下していることは,言うまでもない)。

デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 239-240

ネットの依存性

しかし,ツイッターは電子メールとは重要な点で異なっている。2000年代の他の”Web 2.0”製品と同様に,ツイッターではいよいよ”ゲーム化”が進んでいるのだ。企業は,ゲームからヒントを得て,顧客を病みつきにさせようとしている。あなたが使っていた電子メールソフトは,時間がある限りそれを使っていたい気持ちにさせるようにはデザインされていなかったろう。だが,ツイッターでは,はじめからそれが意図されている。

デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 233-234

報酬率を高める

単純だが,それでも強調する価値のある事実がある。テクノロジーは,努力と報酬との比率において,報酬——それも通常は短期的報酬——の率を高めるという事実だ。あらゆる動物は短期的報酬を好む。その理由は,すでに見てきたように,生物の目標は生きのびることにあり,即時的な報酬は,それを可能にしてくれるからだ。しかし,いつでも望むときにすばやく報酬を手に入れるようなことは,他の動物にはできない。それは人間においても,最近まで,ごくひと握りの人にしかできなかったことだ。
 だが,無制限に物が手に入ることは,恩恵を害に変えてしまう可能性がある。たとえば糖分がその例だ。私たちは,甘い物を好むように進化してきた。果実はエネルギー源であると祖先が気づいて以来,無数の世代を経て,私たち人間の内臓は,オレンジなどの果実がもたらす糖分の爆発的横溢に適応できるようになった。でも,実際の果実より10倍も糖分濃度が高いオレンジ味の炭酸飲料水をゴクゴク飲んだとしたら?

デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 114

依存とは

一度このことに気づけば,「心理的」な依存と「物理的」な依存(または病みつき行為)の従来の区別は誤解を招きやすいものだとわかるだろう。たとえば,摂食障害を持つ人が大量のアイスクリームを食べると,その行為が脳の変化によって強化されることがある(ついでに,そのあとそれを吐きもどせば,セロトニンのハイも経験できる)。このような人は,アイスクリームに物理的に病みつきになっている。しかし,この病みつき行為は,自分にそれを強いることをやめれば,完全に元に戻せるものだ。だから,どの面から見ても,病気と言うことはできない。
 一方,依存という言葉は,さまざまなことを意味する。糖尿病患者の一部は,インスリンがなければ命を落とすという意味で,インスリンに依存している。ヘロイン依存者は,ヘロインがなければ命を落とすわけではないが,ヘロインというフィックスを得られなければ離脱症状に苦しむという意味で,ヘロインに依存している。1日にエスプレッソを6杯飲む人も,突然コーヒーをやめたら,離脱症状に苦しむ。おそらく,かなりひどい頭痛に見舞われることだろう。だとすれば,その人はカフェインに依存していると言えるのではないだろうか。

デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 103

スリープ・ランプ

たとえば,アップルのMacBook(マックブック)シリーズの魅力的な特徴の1つに,状態表示ランプがある。パソコンがスリープ状態になると,このランプが穏やかに点滅するのだ。初期のレビュアーは,このランプが持つ癒やしの効果を褒めそやしたが,それを眺めることが,なぜそれほど癒しの感覚をもたらしてくれるのかについては突きとめられなかった。が,そののちアップルが「呼吸のリズムを模した」スリープ・モード表示ランプの特許を申請し,「心理的に魅力のある」ランプは,あらかじめ意図されたものであったことが判明した。
 技術ブロガーのジェシー・ヤングが指摘するように,アップルのスリープ・モードのランプは睡眠中の呼吸ペースに合わせてあるが,デルのランプは,激しいエクササイズをしている最中の呼吸のペースに近い。「アップルをまねしようとする企業は数あるものの,どこもピントを外しているという事実は興味深い。これも,細部に徹底的にこだわりぬくアップルの姿勢を示す例の1つだ」とヤングは言う。

デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 35

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